長月天音(ながつき・あまね)作品のページ


1977年新潟県生、大正大学文学部日本語・日本文学科卒。2018年「ほどなく、お別れです」にて第19回小学館文庫小説賞を受賞し作家デビュー。


1.ほどなく、お別れです

2.ほどなく、お別れです−それぞれの灯火−

3.明日の私の見つけ方

4.ほどなく、お別れです−思い出の箱−

 


                      

1.
「ほどなく、お別れです ★★      小学館文庫小説賞


ほどなく、お別れです

2018年12月
小学館

(1300円+税)

2022年07月
小学館文庫



2021/08/25



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就活でことごとく不合格続きの清水美空にバイトの誘いを掛けてきたのは、半年前までバイトしていた葬祭場<坂東会館>の先輩=赤坂陽子
それがきっかけとなり心機一転、美空は再び坂東会館でバイトすることになります。

そこで新たに出会ったのは、訳ありの難しい葬儀ばかり進んで担当しているという、フリーの葬祭ディレクター=
漆原。そしてその友人という、光照寺の四男坊僧侶=里見道生
その里見、霊が見えるのだという。だから難しい葬儀には打ってつけ、という訳。
その里見が、そして漆原もまた、美空に期待を寄せるのは、実は美空も霊感が強いから。それは美空が誕生する前日に事故で亡くなった姉=
美鳥の霊がいつも美空を見守っている所為か。

葬祭場の仕事、本当に大変だと思いますし、またいろいろなドラマがあって当然のこと。
それが胸に伝わってくるドラマに仕上がっているのは、亡くなった人の思いを伝える里見の存在、何か感じ取ることのできる美空というキャラクターが配されているからでしょう。
もちろん、何があっても冷静に葬儀の段取りを進める漆原という存在も欠かせません。

特殊なジャンルのお仕事小説ですが、読後感は気持ち好いものがあります。
なお、引き続き続編も読む予定です。


プロローグ/1.見送りの場所/2.降誕祭のプレゼント/3.紫陽花の季節/エピローグ

                 

2.
「ほどなく、お別れです−それぞれの灯火− ★★☆


ほどなく、お別れです それぞれの灯火

2020年03月
小学館

(1400円+税)

2023年03月
小学館文庫



2021/08/30



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葬祭ディレクターを目指す若い女性=清水美空を主人公とした、お仕事小説&成長ストーリィ。

第2弾となれば、美空自身に関わる事情について云々する必要はもはや不要となり、その分美空が成長していくためのステップが丹念に描かれているように感じられます。
それは即ち、様々な葬儀の事情、葬儀に関わるプロとしてそれらにきちんと対応することの難しさと同時にその責任の重さが描かれている、ということでもあります。

それらの経験を重ねて美空がステップアップしていく姿が主軸ではありますが、それぞれの葬儀にて家族が抱える思いを知り、ついつい涙が滲んでしまうことが何度もあります。
葬儀という儀式の意味を、改めて感じる思いのする巻です。

「揺蕩う心」:故人は17歳の少年。死因はスリップした車による交通事故。しかし、ふとしたことで母親の悲しみが怒りにすり替わってしまう・・・。
「遠景」:90歳の老女、死因は自死。同居して看病し続けた娘が死去し、居場所を失ったのだろう。娘婿、厄介者がいなくなって清々したという風。そのままで良いのか・・・。
「海鳥の棲家」:40代の男性、死因は癌。幼い息子2人と共に遺された妻、さぞ不安だろうと思うのですが毅然とした態度で涙も見せず。むしろその姿に美空は不安を感じる。
「それぞれの灯火」就職したばかりの若い女性、死因は電車への飛びこみ。美空、漆原からいきなり通夜の司会進行を務めるように命じられ、思わず動揺・・・・。

上記4篇と並行して、美空が偶然再会した高校の同級生=
白石夏海から、6年前に海で行方不明になった兄の葬儀ができるのかという相談を受けたことから、夏海とその両親、兄の恋人のやるせない胸の内を知ることになり・・・。

※いろいろなものが見えてしまう、涙脆いという僧侶の
里見、さりげなく登場していますが、相変わらず毎度、得難いものを引き出していますね。

プロローグ/1.揺蕩う心/2.遠景/3.海鳥の棲家/4.それぞれの灯火/エピローグ

        

3.
「明日の私の見つけ方 ★★


明日の私の見つけ方

2021年04月
ハルキ文庫

(680円+税)



2021/08/29



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就活で事務職志望だった霜鳥夕子は、ある出来事を機に志望を接客業に転換、会社案内でその笑顔に惹かれた天間雅基のいる洋食屋<オオルリ亭>の募集に応募、無事内定を得ます。
その夕子のオオルリ亭入社、天間が支配人を務める<
渋谷店>への配属から始まる、お仕事小説であると同時に成長ストーリィ。

夕子の実家は、新潟県の山奥にある温泉宿。両親の突然の事故死に呆然、帰るべき場所を失ったと感じた夕子は、生まれ育った接客業の世界に自分の居場所を見つけようとした次第。
しかし、飲食業の現場、正社員としての立場は想像した以上に過酷。それでも優しく愛情深く、同時にプロとして厳しい支配人・先輩たちの後を追いながら、悪戦苦闘しつつ成長していく夕子の姿が描かれます。

自分の至らなさを思い知らされる、お客さまと接するのが怖くなる・・・私自身が会社に就職したばかりの頃を思い出させられるなぁ。
結局は、自分で頑張るしかない、諦めず頑張り続ければ次第に道は開けてくる、まさにそうしたストーリィ。
その中で、常連客と店が関わる様々な人間ドラマも綴られていきます。
主人公の霜鳥夕子、清新な魅力に富んでいます。それがそのまま本作の魅力になっています。

優しくも厳しい
天間支配人、自身の挫折体験を色々語ってくれる先輩社員の当麻、完璧を期す余りに厳しい伊崎主任等々。
また、亡母の姉である
頼子伯母、弟の颯馬、両親亡き後の旅館を継承した雄二叔父と、登場人物の顔ぶれも存分に味わいあり。
成長ストーリィ+αといった佳作。読み処は尽きません。
お薦めです。


1.私の運命の人/2.グラス越しの世界/3.夕焼けの条件/4.かけがえのないもの/5.ラストオーダー/エピローグ

                    

4.
「ほどなく、お別れです−思い出の箱− ★★


ほどなく、お別れです 思い出の箱

2022年07月
小学館

(1500円+税)



2022/08/12



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葬祭ディレクターを目指す若い女性=清水美空を主人公とした、お仕事小説&成長ストーリィ、シリーズ第3弾。

今回、社長の甥で、専門学校で葬儀を学び、大手葬儀会社で十年以上経験を持つという
小暮千波が即戦力の葬祭ディレクターとして入社してきます。
この小暮、社長から全般的な管理を任されたと言い、これからは小さな葬儀が増える、ついては少しでも多く利益を稼げるように葬儀を請け負うべきと皆に主張します。
結果として、故人と遺族の気持ちに寄り添う葬儀が最も大切と考える
漆原と方針が対立します。
主人公の美空はその間に挟まれるような立場となり、悩み、動揺することも。
2年目を迎えた美空にとって新たな試練、という巻でしょう。

「思い出の箱」:古い団地での老人の孤独死。娘は悔いるが、その老人は不幸せな最期だったのか・・・。
「未来の約束」:義母と幼い長男が火事で事故死。漆原と美空の2人は、ショックを受けたままの母親の心を安らげることはできるのか・・・。
「故郷の風」:故人の葬儀で、遺された妻と義姉が対立。間に挟まれた息子のためにも、故人の思いに応えられるか・・・。
「絶対の絆」:苦労し続けて来た母親の突然の死。遺されたのはまだ20代の兄妹。悲しみとともに不安も大きい。そんな兄と妹の葛藤に、2人は寄り添うことはできるのか・・・。

私も一度喪主を務めていますし、再び喪主を務めることもある筈なので、本シリーズを読む度、いろいろ考えさせられます。
しかし最近は、送る側だけでなく、送られる側としても考えるようになったことに気づきます。


プロローグ/1.思い出の箱/2.未来の約束/3.故郷の風/4.絶対の絆/エピローグ

        


   

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