永田俊也作品のページ


1963年神奈川県横浜市生、慶應義塾大学文学部卒。慶應義塾職員を経て、2004年「ええから加減」にて第84回オール讀物新人賞を受賞。


1.
県立コガネムシ高校野球部

2.
星になるには早すぎる

  


    

1.

「県立コガネムシ高校野球部」 ★★


県立コガネムシ高校野球部画像

2010年07月
文芸春秋刊
(1600円+税)

2011年08月
文春文庫化

 

2010/07/28

 

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長野県立佐久沼中高校、過疎地にある公立進学校。そんな高校の野球部ですから、もう必然的に弱小部。
そんな野球部員たちの目の前に、突然飛来しヘリコプターから降り立ったのは、東大在学中に始めた通販会社を僅か5年で一部上場企業に育て上げた女性経営者、弱冠30歳の小金澤結子
その小金澤、いきなり野球部長に就任したうえ、あんたたちに甲子園に行ってもらうと宣言し、皆を唖然とさせる。

その事情はというと、プロ野球チーム買収をオーナー連のドン=百川勘太郎に女だから、というだけの理由で邪魔された。その仇を、百川お気に入りの外孫がレギュラーである有力校の長野光陵学園を地区大会で打ち負かし、自分の力を見せつけてやる、という動機。
ともあれ、実力派経営者=小金澤結子がその財力、マネジメント能力、手練手管の全てを尽くして佐久沼中高校野球部を強いチームに生まれ変わらせるという、痛快なストーリィ。

岩崎夏海「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだらは高校野球に経営学を当てはめた話題作ですが、同作を理論編に譬えれば、差し詰め本書は“実践編”というべきストーリィ。
とにかく一番最初に行われたことがリストラだったのですから、何をかいわんや。
いわゆる高校野球、何かと美化し、美化を重ね過ぎるところありと、私は個人的に感じてます。その思いからすると、相手を負かすことが第一目的、そのためには何でもやる、手段を尽くすという、小金澤のビジネス流戦略、容赦ない発言は小気味良く、痛快この上ありません。楽しいばかり。
時に、戦う前に相手を躓かせてしまうのですから、凄絶。(笑)
主人公は、野球部キャプテンの菊池昇平。ただ、他の野球小説と違ってキャプテンながらプレーヤーならず、終始裏方という設定が、本作品ならではでしょう。
感動場面もちゃんと用意あり。真夏、甲子園野球大会の時期に読むのには格好のスポーツ小説です。

  

       

2.

「星になるには早すぎる」 ★★


星になるには早すぎる画像

2013年11月
文芸春秋刊
(1500円+税)

   

2014/01/08

  

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主人公は一ノ木薫、元女刑事、30才過ぎ。
ある事情から警察を辞職し、あわやアル中になりかけていたところを
玉城という男から声を掛けられ、始めた仕事が交渉屋(ネゴ屋)という次第。
さてネゴ屋、どんな仕事かというと、依頼人自らが交渉しても中々応じない相手との交渉を代わって請け負い、何とか応諾を取り付けるというもの。そして代金は、依頼人が得る収益から一定割合の成功報酬。
興信所のような探偵仕事ではないが、何故相手が応諾しないのか、そこには何らかの理由がある筈。その理由を調査して交渉に活かすという点では刑事仕事と共通するものがある、という設定です。

冒頭の「ネゴ屋」は、主人公がネゴ屋となるまでの経緯、その後の3章がネゴ屋としてのドラマです。
姉弟2人からは、その老母が一人で住む家からの立ち退きを応諾させること。芸能プロダクションの女社長からは、人気女優に脱ぐことを応諾させること。プロ野球球団本社からは、高年棒のベテラン選手に減棒を応諾させること。
ネゴ屋という商売は物珍しく、手強い相手にタジタジとしながら薫が体当たりで交渉していくという展開は、リアルでかなり面白く読めます。
こんな商売あり?という点では、
安田依央「たぶらかしより余っ程現実的かもしれません。

一方、今一つバランスが悪いと感じる部分もあります。
まず青春小説風な題名は、本書ストーリィに似合っているとは言えません。
そして本書、一ノ木薫の再生ストーリィなのか、タフなネゴシエータードラマなのか、肝腎の主人公がどこか刑事時代と同じ甘さを引きずっていて、どこか釈然としない印象が残ります。
もっとも、本作品はあくまで一ノ木薫のネゴ屋駆け出しストーリィを描いているのであって、ネゴ屋らしいタフさを彼女が備えるのは本ストーリィの経験を得た後である、と言われてしまえばその通りなのかもしれません。

ネゴ屋/七つの子/羽衣の下/錆び鉄

    


  

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