永井するみ作品のページ


1961年東京都生、東京芸術大学中退、北海道大学卒。本名:松本優子。96年「マリーゴールド」にて第3回九州さが大衆文学賞、「隣人」にて第18回小説推理新人賞、「枯れ蔵」にて第1回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞。2010年09月死去。

 


   

●「ドロップス」● ★★




2007年07月
講談社刊
(1500円+税)

 

2007/09/01

 

amazon.co.jp

自分が壊れてしまいそうな気持ちになっていることにふと気づく、そんな戸惑いを覚える女性たちを交互に主人公として、連作短篇風に描いた作品。

小学生の娘がいる夏香は、夫から「ママ」と呼ばれるようになって以来夫との間に距離が生じているのを感じ、焦燥感に捉われている。夏香の親友・遼子は、離婚で傷ついた心が癒されないまま男性との関係に自信がもてなくなっている。
その他、一時的な恋愛を楽しむのが常だったリリアが直面した空虚感、妻子と別れて再婚した夫と労わりあうように暮らしている年配の女性・科子の姿が描かれます。
傍らに密接に結びついた男性がいるかいないか、そんな男性を得ることができるかどうか。夏香と遼子のストーリィからは、恋愛結婚した夫婦であってもそんな恐れと無縁ではないことを感じさせられます。むしろそれが一般的なのかもしれない。
それと対照的なのが、夏香の幼い娘・芽衣とその親友・美波との関係。2人は舐めている途中のドロップを交換することに喜びさえ感じている。今やそんな関係を誰とももてなくなっている、というのが夏香の述懐。
女性読者であれば共感すること、思い当たること、多々あることでしょう。各篇ともすっきりとした短いストーリィですけれど、彼女たちの深い人生ドラマが感じられます。
そして男性読者である私としては同時に、書かれなかったストーリィ、つまり男性側のストーリィも読まずにはいられない。

4人の女性の心の内や、彼女らの子供たちの無心な姿がとても鮮やかに描かれているのが印象的。そこが本書の楽しさです。
不安を呼び起こすようなストーリィですけれど、夏香と科子が協力してリリアが歌う「母と子供のためのリサイタル」の様子を描いた最終章は、爽やかな後味を残してくれます。
人と人との繋がりを目の当たりにできるのは、やはり心温まること。

ドロップス/うたうだけ/フルーツ消しゴム/色づいた光/貝ボタン/砂漠のキャラバン/この薔薇を

  


   

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