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1.ギンイロノウタ 2.星が吸う水 3.ハコブネ 4.タダイマトビラ 6.殺人出産 8.消滅世界 9.コンビニ人間 10.地球星人 |
となりの脳世界、生命式、丸の内魔法少女ミラクリーナ |
●「ギンイロノウタ」● ★★ 野間文芸新人賞 |
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2014年01月
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収録の2篇とも、小学生の時から始まり、普通とはまるで方向の異なる闇の世界へ、あるいは異端といってよい成長を遂げていく少女の物語。
小学生の時ピンクの怪人からトイレに閉じ込められ異様な呪文を押しつけられた少女=古島誉は、それがトラウマとなって捻じ曲がった恋愛感情を育て上げ成長を遂げている。 2篇とも、主人公である少女は両親からお荷物のように扱われている点において共通しています。2組の両親ともお互いが大事なだけで、娘に対する愛情も気遣いもまるで感じられない。特にそれは「ギンイロノウタ」において徹底しています。 異様な、知りたくもない世界だと思うのですが、何とも言えぬ迫力があってストーリィに引き込まてしまうのです。 ひかりのあしおと/ギンイロノウタ |
●「星が吸う水」● ★★ |
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2013年02月
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セックスが題材、でも主題は女性のセックス観、あるいは男女関係観というべき中篇2作を収録した一冊。
この本書、ちょうど読み終えたばかりの橋口いくよ「だれが産むか」と共通するものを感じます。 「星が吸う水」の鶴子、勃起してしまうと早く性欲を排出してしまいたいと、男はそのための道具扱い。 2篇とも、鶴子、結真と対照的な女性が登場、ますます2人を引き立てています。 梓や美紀子の悩みを聞くと女性はあれこれ大変だなぁと感じますが、鶴子や結真のようにあっけらかんと突き抜けてしまえばいいのに、と思います。そんな痛快さが本書の魅力。 星が吸う水/ガマズミ航海 |
●「ハコブネ」● ★☆ |
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2016年11月
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どんなに好きになった相手でもセックスが辛くてたまらないという19歳のフリーター=佐山里帆、女に磨きをかけ続けている31歳OLの芹沢椿、自分を地球の欠片のように感じていて現世が幻想世界としか思えない、椿と同い年の平岡知佳子。 椿を間に挟んで絡ませながら、焦燥感にかられ暗中模索を続ける里帆、もはや諦観という風の知佳子という2人の女性の姿が描かれます。前作「星が吸う水」と同様、女性とセックスの問題を扱ったストーリィ。 性同一性障害とか様々な悩みが生じてきている現在、その延長線上で本書の里帆、知佳子のような女性が現れてきてもそう驚くことはありませんが、そうはいっても本人たちの悩みが何ら解決する訳ではありません。 里帆、知佳子にしろ、本書ストーリィ中で特に救われることはなく、一見ごく普通のOL風の椿にしろ、それなら何で?と思うところがないではありません。 男性において同様の問題がないとはいえませんが、どちらかというと女性だからこその苦悩焦慮という気がします。 里帆、椿、知佳子という女性3人の取り合わせに面白さを感じるものの、そこにあるストーリィ内容は、男性としてはちと入り込めないことのように感じられて、納得感は今一つ。 題名の「ハコブネ」とは、ノアの方舟の如く、自分を救いあげてくれるものへの渇望を表しているようです。 |
●「タダイマトビラ」● ★★☆ |
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2016年11月
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主人公=恵奈の母親は、自分の産んだ子供2人にまるで愛情を持たない、母性を欠いた女性。家事は最低限するものの、義務だから、仕事としてこなしている、というだけ。 そんな妻に愛想を尽かして父親は外泊ばかり。弟は次第に荒れていくが、恵奈本人は、産んだからという理由で好きになってもらわなくてもいい、と割り切っている。 だからといって恵奈が愛情に満ちた家族を求めていない訳ではなく、いつか理想の家族を見つけ、本当の居場所を手に入れたいと願っている。表題の「タダイマトビラ」とは、そんな場所に通じるトビラの意味。 そんな恵奈の小学生から高校生までの成長過程を描いた物語。 そんな恵奈にとっての疑似家族が凄い。相手は部屋のカーテン。部屋に戻って、ニナオと名付けたそのカーテンに包まれた時だけ恵奈は家族の安らぎを覚えている。そんな行為を恵奈は家族ごっこ“カゾクヨナニー(オナニーのもじり)”と名付けている。 そして高校生となり、大学生の恋人をみつけて夏休みの間、彼と仮の同棲を始めた恵奈は、驚愕の事実に行き当たることになります。 その衝撃度が凄い! 読者までそれに巻き込まれて愕然、世界が吹っ飛んだような気持ちに襲われます。むろん当の恵奈本人にとってはそれどころではなく・・・・。 子供に愛情を持たず放り出したままという母親は、小説作品でも現実のニュースでも、そう珍しくはない現代ですが、本書に登場する母親は義務感からそれなりに最低限のことはやるという点がかえって始末に負えない、と感じます。 どこかで自分を押さえつけ我慢をし続けていた恵奈より、荒れていた弟の方が正常だったのではないか。 結末、余りに痛ましい限りです。 こんな家族小説、こんな少女の成長物語を書いた村田沙耶香さんは何と凄い! のひと言です。 |
5. | |
●「しろいろの街の、その骨の体温の」● ★★ 三島由紀夫賞 |
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2015年07月
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小4、そして中学と、性に目覚める頃からの少女の複雑な心理、そして学校における同級生たちとの複雑な関係を執拗なまでに丹念に書き綴った長篇小説。 少女、性というテーマはこれまでの作品にも共通して取り上げられてきたものですから、本書もその流れの上にある作品と言えますが、それにしても丹念という以上に執拗。男性である私としては正直なところ、こうした屈折した女子関係を延々と続けられるともういい加減にしてくれと辟易する気持ちになります。 でもこれは、それだけ力の籠った作品ということでもあります、念のため。 主人公である谷沢結佳は、自分の容姿に自信が持てない女の子。だからその反動として、書道教室で一緒の同学年生=伊吹陽太をおもちゃとして支配することにより、安心を得ようとします。しかし、女子に比べて男子の方が幼い小学生時代ならいざ知らず、中学2年生ともなるとその関係は変化せざるを得ません。その結果として、結佳のクラス内における位置も極めて不安定なものとなります。それに加えて身体の変化がさらに結佳の動揺を大きくします。 幼い少女の性衝動という要素が衝撃的なストーリィ。 中盤、辟易して放り出したくもなりましたが、自分をこれ以上ない位貶めた先になるのは、透明な解放感。主人公と共に読み手もふっと心が軽くなる気がします。ただし、少女の物語はこれで終わる訳ではなく、これからも道は続いていきます。 それでもこの瞬間にふと爽やかなものを感じる、その余韻に心惹かれます。 ※表題の“しろいろの街”とは、結佳や伊吹らが住む新興住宅地の心象風景、そして“骨”とは肉体の奥にある心を具現化したものでしょう。 |
6. | |
「殺人出産」 ★★ |
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2016年08月
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一応は未来社会という設定ですが、背景にそれ程未来色はないため、かなりリアリティを感じさせられるストーリィ。 未来社会を描いた小説というと、私にとっての原点はオルダス・ハックスリー「すばらしい新世界」なのですが、それと共通する問題を個別に取り上げて描いた、という印象です。 「新世界」ともうひとつ異なるのは、同じ未来という設定ではあっても、時代の変化によって最早かなりのリアリティを備えている、ということ。もう少し具体的に言えば、本ストーリィが現実化してしまっても不思議ない兆しが、既に現代社会にあると感じられることです。 表題作、まず「殺人出産」という題名に衝撃を受けます。相反する言葉を連ねたものなのですから。どんな意味?と疑問を浮かべるのは当然のことでしょう。 人口減少が懸念される未来、子供10人産んだら1人を指名して殺すことができる、という制度が導入されます。さらに「産刑」という刑罰も生まれていて、人を殺すと女性なら埋め込まれた避妊器具を外され、男性なら人工子宮を埋め込まれ、一生牢獄の中で出産させられ続けるというもの。 当然ながら10人出産するのは並大抵のことではなく、したがって人工授精、生まれた子はセンターに集められて養育される、という具合。 そんな社会で一体どんなドラマが生まれるのか。それはもう読んでもらう他ありません。 「トリプル」は、カップル2人ではなくトリプル3人という恋人関係が広まる、という短篇。 「清潔な結婚」は、セックス抜き、兄妹のような穏やかな夫婦関係を営む人たちが増えている、という短篇。 そして「余命」は、死を自分で選ぶ時代、という掌篇。 生殖から死までに絡んだ作品集。奇想とか架空話とか言っていられない迫真性、警鐘を本書から感じます。その鋭さは流石。 殺人出産/トリプル/清潔な結婚/余命 |
「きれいなシワの作り方〜淑女の思春期病〜」 ★★ | |
2018年12月
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雑誌「アンアン」連載のエッセイ「アラサーからの思春期病」の単行本化。 冒頭で村田さんは、アラサーになって身体の変化を感じるようになった、今までになかった心や環境の変化について「大好きな女友達と、大人の女ならではの尽きないお喋りをするような、ちょっとワクワクする気持ち」で書いたエッセイと本書について紹介していますが、まさにそのとおり、如何にもガールズトークという雰囲気満載のエッセイ集です。 その意味で本書は、大人の女性に相応しいエッセイ集ですが、男性としても共感を抱きつつ面白く読める部分があります。男性にも女性同様に気持ちや身体の変化はあるのですから。 つまりは、ガールズトークで盛り上がっているアラサー女性たちの横にたまたま居合わせ、話しを盗み聞きしながら時々つい相槌を打ってしまっているという中年男性の気分です。 楽しく読めること請け合い、お薦め。 ※数多いエッセイの中で特に興味を感じて読んだ篇は、「はじめての結婚願望」「おしゃれの曲がり角」「鞄がもげる夏」「電車と膝枕」「産むか産まないか論」「女の色彩学」。 その中でも“考”と名打たれた「大人のパンチラ考」「最後のセックス考」「三十路の水着考」は特に興の深い篇。 また、「まだまだ子供の「一人でバー」」は何とも雰囲気が良く、「「着ない服」愛好会」はとても面白そうです。 |
「消滅世界」 ★★ | |
2018年07月
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「殺人出産」に続く、近未来社会を描いた長編作。 (社会の設定は、上記中の「清潔な結婚」によく似ます。) 今や夫婦からセックスが消えたと言うどころか、夫婦間のセックス=近親相姦と怖気られる近未来社会。出産は全て人工授精、セックスは外で他の相手と、いうのが良識となった社会。 そんな社会に生きる主人公=坂口雨音は、母親が父親と現実に交尾して生み出された女子。 2人の愛の結果と母親から呟かれ続けて育った雨音は、やがて小学校に入り、母親の考えこそが現代ではもはや異常である、ということを知ります。 そんな雨音は、ヒトや、ヒトでないものとセックスを繰り返し、セックスと無縁ではない女性。 愛=家族=出産という古代的思想を引き継ぐ母親と、どんどんセックスレス化していく現代社会の狭間に立つ、というのがこの主人公の立ち位置です。 私にとって未来社会というと、その原点はオルダス・ハックスリー「すばらしい新世界」。 社会の仕組みに似る部分もありますが、「新世界」にて描かれる未来社会がそれなりに納得できる合理性を備えていたのに対し、本書に描かれる社会はそもそも歪んでいる、そのうえ歯車が益々狂い始めていると感じざるを得ません。 しかし、それが絵空事かと言うとそんなことは決してなく、既に現代社会の底にその気配は芽生えている(人と人の繋がりの希薄化、恋愛を面倒と感じる傾向等々)、と認識すべきなのだと思います。 したがって本書は、未来社会の予想図を広げて見せながら現代社会が育むそうした傾向に警告を発した一冊、と感じるのですが、皆さんは如何でしょうか。 |
「コンビニ人間」 ★★ 芥川賞 | |
2018年09月
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「コンビニ人間」という題名が第一に鮮烈、そして如何にも現代社会ならではという印象を与える、芥川賞受賞作。 主人公の古倉恵子は、子供の頃から突拍子のないところがあった女性。大学生の時にコンビニでバイトをし始めて、ようやく自分が安心して息の出来る場所を見い出します。 以来ずっとコンビニでのバイトを続けて18年、36歳になった今も生活はまるで変わらず、恋愛経験も皆無、結婚願望すらなし。 そんな主人公を周囲は放っておいてくれません。そのため、周囲の雑音を抑えようとある決断をするのですが・・・。 人と違った考え方、行動をとる人間に対して、人はとかく煩いもの。主人公の古倉は、コンビニでバイトをし始めた時ようやく居場所を見つけ、人との煩わしさから逃れられたのですが、18年もコンビニバイトを続けたことによって、再び煩わしさを背負い込むことになります。 それを回避しようと思い切った行動に出るのですが、それはかえって煩わしさを拡大してしまった、という展開が面白い。 放っておいてくれたらいいのに、人は身勝手なものですよねぇ。 このところ「殺人出産」「消滅世界」と尖鋭的な作品が続いていたので、それらに比較して本書は読み易く、面白かったァと素直に言えます。 読み終えた時は、自分を「コンビニ人間」と認識する本書主人公を心から応援したい気持ちになっていました。 現代社会だからこその作品と思わせつつ、普遍的なストーリィ。お薦めです! |
「地球星人」 ★★ | |
2021年04月
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世間に相容れない主人公たちを描き続けている村田沙耶香さんですが、本作もその流れの上にあり、そしてついに究極まで行ってしまった作品、と思います。 主人公は11歳の少女、笹本奈月。 限界集落である秋級(あきしな)の山にある祖父母の家に行くのが好き。そこは夏休みになると多くのいとこたちがおじ・おばと共に集まる。その中で一番仲の良い従兄弟が由宇。 奈月と由宇、お互いに実は魔法少女、実は宇宙人だと打ち明け合った仲。 そんな2人、奈月は姉ばかり大事の母親から邪険にされ、由宇は母親にやたら依存されている、というのがそれぞれに置かれた状況。 ある問題ごとが起きて2人は引き離されたまま。3年前に智臣と結婚し今や31歳になった奈月の現在から、後半ストーリィが始まります。 普通と違ったところのある人間、違うところにいる人間に対し、何と“フツー”の人間たちは残酷なことか。 まさに追い詰め、押し潰そうとするかの如くに。 だからこそ2人は、自分は魔法少女、宇宙人と信じることによって、自分の心を守ろうとしたのではないでしょうか。 30代になった主人公たちは、果たして自分を守ることができるようになったのでしょうか。 最後は、こんな結末にする必要があったのだろうか、と思うほどに衝撃的。もはや、何の言葉もありません。 読み終えた後は、苦みがいつまでも胸の中に残ります。 どうしてこんなことになったのか、ということより、彼らをなんでここまで追い詰め、追い込んでしまったのだろうか、と。 |