|
|
1.わたしの空と五・七・五 2.蝶の羽ばたき、その先へ 3.すこしずつの親友 4.彼女たちのバックヤード |
「わたしの空と五・七・五」(絵:山田和明) ★★☆ 児童文芸新人賞他 | |
|
中学に入ったばかりの伊藤空良(そら)は、クラスメイトの誰とも打ち解けられず、これといって入りたい部活もない。 そんな時目にしたのは文芸部のチラシ。そこには、次のような勧誘文が記載されていた。 「しゃべりは苦手でも ペンをもったら 本音をぶちまけられる者 文芸部に入るべし」 殺し文句ですねぇ。 そのチラシに引き付けられたようにして文芸部の扉を叩いた空良は、2人の上級生=滝沢冬馬(部長)と谷崎潤子(副部長)、そして同じ一年生の小林静香に迎えられ、考えた後に入部を決断します。 まず行われる部の活動は、もっと新入生を勧誘したいと企画された<新入生歓迎句会>。 一人3句提出、と指示された空良、初めての難題にあれこれ頭をひねります。しかし、そんな折に目撃したのは、サッカー部に入部した中村颯太に対する上級生の暴力。 中々自分の思いを口にできない内弁慶の空良が、俳句を通じて、自分の気持ちを表に出すことを覚える、それがきっかけとなってクラスメイトたちの間にも入り込んでいく、という青春&成長ストーリー。 健やかで、とても気持ちが良い。 俳句ってそんな役割も果たしてくれるのですね。ちょっと良いかも。 本作中に披露される俳句、その作り方、結構参考になります。 ※なお、滝沢冬馬、谷崎潤子という名前、滝沢馬琴、谷崎潤一郎のもじりでしょうね。 1.はじまりの朝/2.うじ虫をにぎって離すな/3.すこしずつ、すこしずつ/4.春の闇/5.糸/6.新入生歓迎句会/7.一句献上 |
「蝶の羽ばたき、その先へ」 ★★ 長編児童文学新人賞・日本児童文芸作家協会賞 | |
|
中学2年生の山口結、4月始業式の朝から耳鳴りが始まり、少しも収まらず。 大きな病院で診てもらい、突発性感音難聴と診断された時にはもう遅く、左耳はもう殆ど聴こえず。 しかし結、そのことを親友の真紀に打ち明けられず。 学校のクラスで、同級生たちの会話が聴き取れないという事態が増えていく。 大人だってそうですけれど、まして子どもの場合、自分が他の人たちと異なる、異なってしまうということは、さぞ怖いことでしょう。 それを打ち明けることは即ち、自分が他の同級生たちと異なるということを認める、広く知らしめることです。 結が真紀にも打ち明けられなかった、という気持ちはよく分かります。 そこから、結が自ら地域の手話サークルの扉を叩いたことで、今日子さんとの出会いもあり、結の前に道が開けていきます。 自らの手で前へ進む道を開いた結に拍手を送ります。 そしてまた本作は、障がいのある人に対する、ちょっとした気遣いの必要性を私たちに教えてくれます。 気持ちの良い読後感でした。 四月/五月/六月/七月/八月/九月/十月/十一月/十二月 |
「すこしずつの親友 Little by little, best friends」 ★★ | |
|
「親友って、どうやったらつくれるの?」という姪の問いに、伯母さんは次のように答えます。 「親友はたぶんつくるものじゃなくて、出会うのよ」 「すこしずつの親友なら、すぐにでも出会えるわよ」 そして、自分が世界のあちこちへ旅行したときに出会った、様々な“すこしずつの親友“”について語り始めるのです。 ネパール、オーストラリア、イタリア(ミラノ)、ギリシャ(エーゲ海)、イギリス(ロンドン)、インド、スペイン(グラナダ)、等々。 旅行中にいろいろなエピソード、聞いているだけで楽しい。きっと姪である少女も胸をワクワクさせて聞いていた筈。 海外旅行で出会った人との思い出は、何故忘れ難いのでしょう。 私にもそんな思い出はあります。 そんな心に残る出会いが繰り返されれば、自然と親友になれていくものよ、伯母さんの言葉はそう続くのでしょう。 親友とは作って作れるものではなく、出会ってできるものなのでしょう。 最後、自宅に戻った少女から伯母さんへの手紙、そこにちょっと希望が生まれたことが感じられて、嬉しくなります。 ※しかし、金子みすゞとはなァ・・・・。 1.ネパールの少年/2.ウルルの麓で/3.空港で、船のなかで、バスのなかで、そして街角で/4.インドの母と娘、スペインのパパと息子/5.ゴッホとゴーギャン/6.屋久島の鹿/7.緑のふわふわ/伯母さんへ |
「彼女たちのバックヤード」 ★★☆ | |
|
中三の同級生、詩織・千秋・璃子。 映画を観に行こうと誘い合ったのですが、もうすぐ3歳になる弟=ゆうの面倒を見なくてはならないという璃子に配慮、璃子の家で映画を観ようということになります。 しかし、家族の重たい問題となっているゆうが、詩織の髪の毛を引きちぎったうえに、千秋の頬にかぶりつくという問題行動を起こしてしまう。 すると璃子、詩織の所為、詩織がゆうをあんな目で見た所為だと非難。 さらに千秋も詩織に対し、髪の毛の2,3本くらいくれてやればよかったじゃん、と。 自分が何をしたというのかと、詩織はショックの余り、呆然。 それ以来、3人の関係はぎくしゃくし・・・。 クラスメイトとして表面的に仲良くしていた3人ですが、それぞれが他人に打ち明けられないものを抱えていたとは、お互いに思いもよらなかったこと。 詩織の家はシングルマザーの母親と二人暮らし。千秋は母親の死去、その後亡母の思い出を全て捨て去るようにして再婚した父親の振舞いに荒れた時期があった。 そして璃子の家は、ゆうのおかげで母親は心を病み、父親はなるべく家に居ないようにしており、璃子が母親を支えている。 三人の家庭事情が異なることが原因とはいえ、冒頭のように罵り合ってしまうとそのまま友人関係は壊れてお終い、という気がするのですが、本ストーリーはそうなりません。 何故かといえば、何が問題だったのか、そこに踏み込み、前に進もうとしたからでしょう。 一人で抱え込んでいた闇を、友人に初めて打ち明ける、そのことによって助け合う関係へと発展していくのですが、それもすべては、このままじゃいけない、前へ進もうと足を踏みだしたからでしょう。 ※詩織の母、千秋の義母=陽子ちゃんの存在も大きい。 そうした三人の関係が尊い、素晴らしいと感じます。 中三少女たちの、青春&成長ストーリー。 お薦めです。 1.詩織−わたしにはわからない 2.璃子−そのくらいは許してほしい 3.千秋−気持ちがよみがえったんだよ 4.詩織−ゆうくん、ことばをわかってるね 5.璃子−言える相手だから言えるんだよ 6.千秋−叫ばせてやればいいじゃん 7.千秋−乾杯しよう |