宮西真冬作品のページ


1984年山口県生。2017年「誰かが見ている」にて第52回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。


1.友達未遂

2.毎日世界が生きづらい

3.彼女の背中を押したのは

 


                   

1.
「友達未遂 ★★★


友達未遂

2019年04月
講談社

(1600円+税)

2021年10月
講談社文庫



2019/05/21



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伝統と格式のある全寮制女子高=星華高等学校を舞台にした、青春サスペンス&成長ストーリィの傑作。
街から離れた山奥にあり全寮制である同校には、
マザー制度という慣習があった。同部屋の3年生がペアとなった新入生の面倒を見るというもので、それぞれ「マザー」「チャイルド」と呼ばれている。

本作は、同部屋の4人、新入生の
一ノ瀬茜星野真琴、3年生の緑川桜子大島千尋をそれぞれ主人公とした、連作風の長編ストーリィ。
寄宿制、同部屋、女子高生4人というと、濃淡はともかくとしてチームとしてのストーリィ展開になると思うところですが、そんな常識は本作では成り立ちません。
家族状況も違えば境遇も違う、性格もまるで違うとあって、ルームメイトであろうとあくまで遠い他人に過ぎない、という空気が冒頭から際立つようです。

第1章から第4章までは一人ずつのドラマ。茜、桜子、千尋、真琴という順。
しかし、その各ドラマが実に濃いのです、思わず唸らされます。4人がこの学校に入学した理由も、当然のこととして、期待を込めて、他に居場所がなくて、○○するためにと様々。
そしてその各人ドラマの後にくる第五章は、それまでのドラマを圧縮した延長線上にあるサスペンス。
同部屋の4人が、それぞれの事情や思いを背負って、本気でぶつかり合います。その辺りが実にお見事、圧巻の一言です。

人がどう生きるかについては、確かに自分一人で責任を負うしかないことですが、まだ高校生という年代、手を繫ぎ合える仲間がいたらどんなに心強いことかと思うのです。

危うく読み逃すところでしたが、本書を読めて幸せでした。
是非、お薦め! どうぞお読み逃しなく。


第一章~第五章/終章

                 

2.
「毎日世界が生きづらい ★☆


毎日世界が生きづらい

2021年10月
講談社

(1600円+税)



2021/11/16



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大学時代からの付き合い始め、長距離恋愛を経てようやく結婚に至った美景雄大の二人、これからあとは幸せになるだけと思っていたのですが、結婚直後からすれ違いは始まります。

会社での仕事上のストレス、美景が家事をうまく回せていないことへの不満。
雄大の苛立ちの理由が分からず、またパート仕事における屈辱や挫折、家事へのストレス、小説家という目標が遠ざかるばかり、という思い。
誰にしても結婚すれば予想外の出来事や不満が起きるものだと思いますが、それにしても主人公=美景の迷走ぶりは酷い。
その理由は終盤になって明らかになりますが、まさかそんな事情が隠されていたとは・・・。
さらに中盤、美景の応募した小説作品が出版社から評価されるに至って、美景側の振幅はさらに大きくなっていきます。

救いだったのは、2人がどんなに鬱屈を抱えるようになっても、すべて相手が原因だと決めつける処には行かなかったことでしょう。
何にしても、人からどう評価されているのかを自分自身の価値基準にしてしまい、人の声をやたら気にするようになっては堪ったものではありません。
紆余曲折を経て、ようやく2人がそれぞれに落ち着き場所を見出すまでのストーリィ。

誰にも共通するテーマと言えますが、左程格別なものを感じるものではなかったところがちょっと残念。
ただまぁ、他人の中には無責任で自分勝手で人を傷つけて平然としている人もいますから、自分の居場所・落ち着き場所は所詮自分自身で見つけるしかないと、本ストーリィには共感します。
その意味で、本書の最後にはホッとできました。

序章/第一章~第七章/終章

                     

3.
「彼女の背中を押したのは ★★☆


彼女の背中を押したのは

2022年02月
角川書店

(1650円+税)



2022/03/24



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結婚を機に書店員を辞め、東京で専業主婦となっている梢子の元に、妹のあずさがビルの屋上から転落し、命は取り留めたものの意識が戻らないまま、という一報が届きます。
慌てて実家に向かう梢子の胸に去来したのは、飛び降り自殺か? その原因は自分なのか? という思い。
ちょうどその日の朝、あずさから相談したいことがあるというメールが届いたのを、今忙しいと拒否していたため。

あずさは自ら飛び降りたのか、事故か。その理由は何か? 
それを突き止めようと、梢子は妹と関わりのあった人物たちに最近のあずさの様子を聞いて回り始めます。
その過程で、梢子自身が寿退職するまで勤め、今はあずさがバイトとして働いていた書店の、職場としての過酷な状況が明らかになっていきます。
その一方、やたら感情的で、娘たちへの干渉過多だった母親、家のことに無関心でいた父親という、梢子を含めた家族の暗部も明らかになっていきます。

冒頭、家族物語かと思いきや、梢子が幾人もの人を訪ねてあずさ転落の理由を突き止めようとする辺りはまさに探偵物語のようであって、ミステリとしての醍醐味あり。
ただ、それに尽きるストーリィでは決してなく、本質的には姉妹それぞれの成長&再出発ストーリィと感じる処です。

ストーリィ構成が見事ですし、姉妹のキャラクターも良い。
とくに梢子とあずさの関係、気持ちの掛け違いが根底にあるところが、読み応えにもなっています。
そして何よりも、幾人もの登場人物が放つ言葉が良い!

最後はすっきりと、晴れやかに締めくくられているところが私好み。それにしても書店員さんたち、苦労多いですね。
 

1.聞かなかった相談は/2.ぶつけられた一言が/3.ヒーローはどこに/4.答えはすぐそこまで/5.彼女が背中を押したのは

        


   

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