松崎有理
(ゆり)作品のページ


1972年茨城県生、東北大学理学部卒。2010年「あがり」にて第1回創元SF短編賞を受賞。同作を含む短編集「あがり」にて作家デビュー。


1.
あがり

2.
代書屋ミクラ


3.就職相談員蛇足軒の生活と意見

4.すごろく巡礼−代書屋ミクラ−

5.5まで数える

 


           

1.

「あがり」 ★★


あがり画像

2011年09月
東京創元社刊
(1600円+税)

2013年10月
創元推理文庫化

  

2011/10/31

  

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北の街にある古い総合大学の研究室を舞台にした、“理系SF”短篇集。
“理系SF”というのがどういう意味か読んでみるまで判らなかったのですが、読んでみれば、う〜ん、納得。
生物学、遺伝子学、数学等々、各分野の専門的な諸問題にいずれもかなり突っ込んだ話ばかりなので、文系の頭にはついていくのが精一杯で、どこまで真実なのかどこからフィクションなのか、まるで判別がつきません。
とくに冒頭の
「あがり」が象徴的。その表題作さえ何とか読み上げることさえ出来れば、その後の4篇も大丈夫。

“理系SF”であるが故に、各篇の最後に至っても、はて、何がミソだったのか? よく考えてみないとストーリィの意味が飲み込めず、ということもあり。
でも決して、放り出したくなる、ということはありません。どの篇も、品格を感じさせるところがあるからでしょうか。
読み終えた後、もう一度振り返って味わい直してみる、すると滋味が滲み出てくる、そんな魅力を持つ短篇集です。

最後の2篇は、前の3篇以上に人間味が感じられて楽しい。そして「へむ」は少年少女の思い出に残るファンタジー冒険物語風。
この2篇が本書の読後感を爽やかなものにしています。

※なお、舞台となっている“北の街”とは、つい札幌のことかと思ったのですが、仙台のようです。

あがり/ぼくの手のなかでしずかに/代書屋ミクラの幸運/不可能もなく裏切りもなく/へむ

               

2.

「代書屋ミクラ」 ★☆


代書屋ミクラ画像

2013年09月
光文社刊
(1700円+税)

2016年04月
光文社文庫化

   

2013/11/08

   

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「出すか出されるか法」(正式名称:大学および各種教育研究機関における研究活動推進振興法)とは、3年以内に一定水準の論文を発表できない研究者は退職しなければならないという趣旨の法律。
そのおかげで成り立つである筈の商売が、研究者に代わってその研究を論文にまとめあげる商売、即ち
“代書屋”
本書は、先輩代書屋に誘われて代書屋となった青年=
ミクラを主人公にした連作短編集。

すっかり忘れていましたが、この代書屋ミクラ、前作あがりにて既にお目にかかっていました。
本書でのミクラ、依頼人である研究者たちの一風変わった研究論文のとりまとめに振り回されつつ、仄かに好意を寄せた女性と親しくなろうとするものの尽くフラれる、というのが毎章のパターン。
出版社の紹介文には「新しい依頼が舞いこむたびに、なぜか素敵な女性と出会ってしまう」とあったので、依頼と出会う女性に何らかの関係があるのかと思っていましたが、相互に関係はなし。また、依頼を受けた研究に格別の面白さがあるという訳ではなく、主人公のミクラに大活躍がある訳でもなし。・・・・なら、何なのでしょうね、本ストーリイは。(苦笑)

ただ一つ言えることは、ノホホンとした主人公による、極めてホンワカしたストーリィであること。
気持ちが疲れている時などには、こうした作品もいいなァ。

超現実な彼女/かけだしどうし/裸の経済学者/ぼくのおじさん/さいごの課題

                      

3.
「就職相談員蛇足軒の生活と意見」 ★☆


就職相談員蛇足軒の生活と意見

2014年05月
角川書店刊
(1600円+税)

  

2014/06/22

  

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蛸足大学理学研究科生物分類学分野で博士号をとり一応研究員ではあるものの無給、という訳で、主人公のシーノ27歳は研究職を求めて職安に何度も足を運ぶものの、全く就職を果たせず。
偶然目に留めた貼紙
「急募 秘書一名 無口なかた歓迎」に惹かれ、とりあえず臨時の仕事にと、その求人主=蛇足軒の秘書となります。
その蛇足軒、何と「
嘘術」の第二百ニ十五代目家元にして、その号を名乗る33代目とか。そのうえ特殊休職者専門の職安(職業安全保障部局)特命相談員なのだという。

どんな特殊求職者が現れるのやら。ここで紹介してみたいですけれど、それは読んでのお楽しみ。
前半3篇は、3人の特殊求職者へ蛇足軒がどんな職業を斡旋するのかが見どころ。この辺りは頓智比べの面白さです。

それが「人工の心」の章となると幾ら何でもと、少々絶句。そして終盤のトラブルにショックを受けたシーノは見知らぬ街を放浪することになるのですが・・・。
「博士浪人どこへゆく」は、シーノの就職問題解決編にして、シッポの先までユーモアたっぷり。

抜群に面白いとまでは言いませんがエスプリが効いていて、松崎さんらしい趣向を散りばめた連作短篇集。それなりの面白さと思うのですが、好み次第でしょうか。

懇切、ていねい、秘密厳守/かなしき食糧難/三秒の壁/人工の心/博士浪人どこへゆく

     

4.
「すごろく巡礼−代書屋ミクラ− ★☆


すごろく巡礼

2016年07月
光文社刊

(1300円+税)

 


2016/08/03

 


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代書屋ミクラ第2弾。

年上の
助教を恋するミクラ、研究室から姿を消した彼女が辺路島に向かったと聞き、愛用の自転車=彗星号を質入れしてまでその後を追います。
辺路島は元々巡礼の島。そこでは巡礼を模して島中をすごろくのように歩き回るゲーム
“すごろく祭”が行われようとしていた。すごろくの<あがり>できっと助教に会える筈と信じて、ミクラは息も絶え絶えになりながらすごろく祭の参加者47人に滑り込みます。
奮闘するミクラ、果たして助教との恋は成就できるのか?

ミクラの助教への恋に余り説得力はなく、ミクラの恋が成就しようがしまいが、正直なところどっちでもいい。
それより、ロードノベルのような出会いの楽しさ、島民あげてのすごろくゲームという趣向、そして次から次へと繰り出される奇策が、結構楽しめます。
ちょっと惚けたミクラのキャラクターがあってこその楽しみではありますが。
なお、本書では同じすごろくゲームの参加者で、一日目にあれこれとミクラが助けられる「
代参屋」とミクラの絡みが楽しい。

すごろくのあがりでどんな展開が待ち受けているのか、どうぞお楽しみに。

              

5.

「5まで数える I can't count Five ★☆


5まで数える

2017年06月
筑摩書房刊

(1600円+税)



2017/07/17



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理系ストーリィが持ち味である、松崎有理さんのSFホラー的な短篇集。

「たとえわれ命死すとも」:動物愛護の果てに動物を使った医療実験が禁止され、医師自ら実験台になる(実験医)という近未来社会。主人公は同僚の犠牲の上についに彗星病ワクチンの開発に成功するが・・・。
「やつはアル・クシガイだ」:バイオハザード並みにアル・クシガイが暴走を始めた社会、その最後こそホラー・・・。
「バスターズ・ライジング」:前の篇に登場した“疑似科学バスターズ”の誕生ストーリィ。リアル観があるから面白い。
「砂漠」:護送機が墜落し、手錠と鎖で繋がれたままの犯罪者6人が砂漠に。最後の最後で・・・・、これは怖い!
「5まで数える」:数を数えられない主人公の前に姿を現した幽霊。数が数えられなくても数学を理解できないことはない、と少年に数学を教えてくれます。
「超耐水性日焼け止め開発の顛末」:掌篇。オチが笑えます。本書の中にあっては、デザートと言える一篇でしょう。

読者の好み次第という面が大きい短篇集ですが、読了後しばらく経ってからの方がじわじわとその味わいを感じる気がします。


たとえわれ命死ぬとも/やつはアル・クシガイだ−疑似科学バスターズ−/バスターズ・ライジング/砂漠/5まで数える/超耐水性日焼け止め開発の顛末

  


   

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