丸谷才一作品のページ


1925年山形県生、東京大学英文科卒。既読本に「桜もさよならも日本語」「軽いつづら」あり。 2003年「輝く日の宮」にて第31回泉鏡花文学賞を受賞。


1.
裏声で歌へ君が代

2.輝く日の宮

  


 

1.

●「裏声で歌へ君が代」● 



1982年8月
新潮社刊

1990年7月
新潮文庫

 
1990
/08/24

「君が代」を題材に国家論まで論じた小説。

通商の梨田、台湾民主共和国の大統領・、洪の経営するスーパーの店長で台湾系日本人である、梨田のSEXフレンドとでも言うべき朝子、その他の登場人物たちとの会話の殆どの中で、いろいろな角度からの国家論が展開されるストーリィです。

国家論の展開が、たまたま小説という舞台設定の中で行われていると言った方が良いでしょう。しかし、私個人としてはあまり興味を惹かれる事項ではなかったし、正直なところ読んだ内容が理解できたとは言い難い。
ただ、中国人は儒教と老荘思想を公的仕事と私的個人生活の中で使い分けているからこそバランスが取れている、という意見が印象に残りました。

 

2.

●「輝く日の宮」● ★★        泉鏡花文学賞

  

 
 

2003年06月
講談社刊

(1800円+税)

2006年06月
講談社文庫化



2003/08/02



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「源氏物語」の失われた一巻「輝く日の宮」をめぐる、融通無碍な長篇小説。「源氏物語」の副読本としても楽しめそうです。

冒頭は作中小説から始まるのですが、そうと判るのは先に進んでからのこと。作中小説の後、似た名前の女性が登場するものですから、どちらが本ストーリィなのかと惑わされます。

その主人公・杉安佐子は、19世紀文学が専門という女子大の専任講師。その点を早目に理解しておかないと、本書展開にはますます惑わされるばかり。
元禄文学学会を舞台にした章では、安佐子の研究発表という形を借りて、独創的な芭蕉「奥の細道」論が展開されます。

次いで舞台は、シンポジウム会場。“日本の幽霊”がテーマの筈なのに何故か途中から脱線し、「源氏物語」には失われた一巻がある(「輝く日の宮」)という学説、さらにa系・b系という2系列論まで開陳され。最後は安佐子と源氏研究者の大河原篤子2人の討論にまで至る展開。この章はパネリストの発言による戯曲スタイルで描かれており、まこと面白い。

「源氏物語はレイプがいっぱい」という篤子の発言には、思わず目がテン! 「源氏物語」を深く知らずとも楽しめそうです。
文学論の合い間には、安佐子の過去、そして現在の恋人・長良との恋愛ストーリィが描かれるのですが、紫式部藤原道長の関係に対比するかのようで、興味をそそられます。
そして最後は、安佐子による「輝く日の宮」小説化の試み、という展開。

小説と文学論の合本と言えるような作品であり、かつ多様なスタイルを用いて描かれているため、複数の本を読んだような満足感があります。「源氏物語」に興味がある人なら、楽しめること請け合いです。

  


  

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