丸井とまと作品のページ


食とデザインに関する仕事をする傍ら執筆活動中。

 


                   

「青くて、溺れる Drowing in Blue ★★




2020年08月
角川書店

(1200円+税)



2020/09/23



amazon.co.jp

些細なことで仲の良かった女子グループから手酷いイジメを受けることとなった、高校2年生の吉田祥子
家でも母親が再婚した義父との間に新たな子を妊娠、自分はいない方が良いのではないかと思うようになり、学校でも家でも居場所を失った祥子は、消えてしまいたいと思うくらいに苦しい。

そんな祥子がふと出会ったのは、坂の上にある喫茶店。
そこには祥子を温かく迎え入れてくれ、口に出来ず胸の内に抑え込んでいた祥子の気持ちを聞いて励ましてくれる人たちがいた。
温かい珈琲を淹れてくれる
マスター、賑やかなラムさんと彼女を諫める黒さんの2人は良い女性コンビ。そしてもう一人、男子高校生らしい皐月

自分の気持ちを口に出すことが苦手な祥子でしたが、言葉にして相手に伝えることが大事と励ましてくれる彼らのおかげで、坂の上の喫茶店に足を運ぶ度、徐々に気持ちの変化が生まれていきます。

本作もまたイジメ問題。
でも単純にイジメられる側とイジメる側に分けるのではなく、祥子もまたイジメを目にしながら何もしなかったという罪の呵責に苦しみ、イジメ側にもあった葛藤を描き出しています。
また、祥子の前にイジメの対象となっていた同級生=
大塚沙羅の存在感、事なかれ主義で事実から目を背けようとする若い女性担任教師=藤本の姿も印象的です。

本作の素晴らしさは、励まされたおかげではあっても、祥子が勇気を出して言葉を発したこと、誰かを救うために行動したこと。
そして、坂の上の喫茶店にいる人たちとの交流にあります。
彼らが何故そこにいつもいるのか、何故親身に祥子を励ましてくれたのかは最後に明らかにされますが、そこには切ない事実が隠されていました。

イジメに対しては見て見ぬふりをしてイジメに加担しないこと、それを多くの人たちが実践すれば、イジメがはびこることはきっとない筈。
最後の再会場面はとても爽快、そして明日への希望と活力を目にする思いです。


プロローグ/1.坂の上の喫茶店/2.消えてしまった居場所/3.それぞれの夢/4.変わりたい一歩/5.溢れ出す言葉/6.さよならの選択/エピローグ

        


   

to Top Page     to 国内作家 Index