リリー・フランキー作品のページ


1963年福岡県生、武蔵野美術卒。文章家、小説家、コラムニスト、絵本作家、イラストレーター、アートディレクター、デザイナー、作詞・作曲家、構成・演出家等々。

  


 

●「東京タワー−オカンとボクと、時々、オトン−」● ★★☆




2005年06月
扶桑社刊
(1500円+税)

2010年07月
新潮文庫化

   

2007/07/14

 

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話題になり過ぎるとかえって手を出さなくなるのは、私のいつものこと。そのまま読まずに終わってしまうところでしたが、たまたま然る所で簡単に借出せることが判り、もっけの幸いと漸く読んだという次第。

主人公と母親の間の、深く、強い絆を描いた作品とは承知していましたが、実際に読むと想像していたものとはやはり違う。
本書に描かれる“オカン”の、何と見事な母親像でしょうか。余りに健気で切ない。こんな母親がまだいるものか、と思う。
感動して涙がこみ上げる、ということはありませんでした。そうではなくて、その生き方に感じ入り、その気持ちを胸の奥底に抱きしめた、感じたのはそんな思いです。

本書をひとことで語るなら、リリー・フランキーさんが自分の母親(=オカン)と共に歩いた半生を綴った回顧録、というべきでしょう。
単に思い出を語った作品ではありません。オカンとの生活を描くという軸がしっかりしているから、戸惑うことなく、オカンとボクの姿がすっと読み手の胸の中に入ってきます。
・オカンに目一杯庇護され、何の不足も感じなかった少年時代。
・オカンの元を離れ、放埓な生活を送った高校・武蔵美大時代。
・そしてオカンを呼び寄せ、再び共同生活を営んだ最後の日々。
その時代、時代の区切りが実に鮮やかです。
そして、さりげない文章の中に、オカンのボクに対する愛情の大きさを感じさせられる言葉が幾度も出てきます。ごく普通の、何でもない言葉なのですが、それらが実に良い。
それら幾つものオカンの言葉が、読み終えた後も心の中にしっかりと根を下ろしている気がします。

幸せって金銭や物ではないよな、と心から感じさせられます。
そしてまた、母親としてここまで悔いなく生きることができる、というのも稀有なことと思います。
そんな母親像を見事に描いた、素晴らしい一冊。

 


  

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