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1.ぴんはらり 2.はるかにてらせ |
「ぴんはらり」 ★★ 太宰治賞 |
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2007/02/09
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表題作「ぴんはらり」は、幼女の時母親から水につけられて殺されそうになったところを尼僧に助けられ、養われてきた“きみ”という娘を主人公とする小説。 そんなきみが一人称で、しかも方言のままに語られるストーリィのため、素朴にきみの心根が伝わってくるところに味わいがあります。 調子の良い男に騙され、いいように利用され、村の娘たちから除け者にされようと、きみの真っ直ぐな心はけっして自分の夢を捨てない。 境遇に恵まれないながらも、自分に正直に真っ直ぐ、そして力強く生きていこうとする主人公のきみを、心から応援せずにはいられません。小品ながらとても心を洗われるような気持ち良い作品です。 きみの使う方言が楽しく、とても印象的。 「菖蒲湯の日」は「ぴんはらり」と違って現代もの。 2つの作品の主人公像は対照的ですけれど、恵まれていないながらも自分なりに存在感を出すべく健気に生きようとしている点で共通するように思います。 ぴんはらり/菖蒲湯の日 |
「はるかにてらせ」 ★★ |
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小説現代新人賞を受賞した「券売機の恩返し」を含む、栗林さん初の作品集、6篇を収録。 表題作「はるかにてらせ」は、主人公の元に「結婚しないって、言ったのに」と言って幽霊が現れます。恨み言ではなく、主人公の心残りを同性の先輩という幽霊をもって語ったところがユニーク。 「恩人」は、今や一般的な小説の題材となったイジメ、シカトが絡むストーリィですが、今も主人公の心に生き続けている友人の姿が印象的、救われる思いがあります。 「身代わり不動尊」以降の4篇は、性格が優しい余りに人に嫌ということができず、おまけに不器用で、心の中に塊、あるいは傷を抱えこんでしまっている主人公像という点で共通します。 各篇で描かれるエピソードは、真面目な人なら心当たりがあるようなことばかりでしょう。 それらの原因は誰にあるのかと問い詰めても詮無いこと。でも何らかのきっかけがあれば前に進むことができるかもしれない。 その代表例が、本作品集の最後を飾る「券売機の恩返し」。 券売機に気持ちを寄せる主人公の元に、その券売機が人の姿になって訪れてくるというストーリィは、発想の点でもその後の展開の点でもすこぶる秀逸です。 古典的な“恩返し”は物や利益ですけれど、本篇では主人公にとって耳の痛い、でも的を射た直言というところが実に良い。 初作品集ということで、少々ぎこちなさも感じるところがありますが、本作品集、私は好きです。 はるかにてらせ/恩人/身代わり不動尊/京浜東北線の夜/コンビナート/券売機の恩返し |