倉橋由美子作品のページ


1935年生、明治大学仏文科卒。在学中明治大学新聞に発表した小説「パルタイ」により芥川賞最終候補、女流文学賞を受賞。2005.06.10逝去。

 
1.大人のための残酷童話

2.大人のための怪奇掌篇

3.老人のための残酷童話

 


  

1.

●「大人のための残酷童話」● ★★

  

   
1984年4月
新潮社刊

97.03 第56刷

(1600円+税)

1998年8月
新潮文庫化

  

2004/02/19

童話、昔話、神話等々を入り交え、倉橋さんが強烈な逆説に仕立て上げた作品集。
そもそも原作の童話や昔話では、主人公が正直者だったり、善良純粋という場合が殆どです。それに対し本書では、そうした主人公たちが愚かだったり、欲張りだったりと、かなり世俗的なところが原作との相違点。
ですから、原作と異なる結末であるにしろ、それは自業自得というべきであって、それなりに教訓はあるものです。
したがって、各章の最後には「教訓」が一文ずつ付け加えられていますが、痛烈かつ毒気ある風刺が効いています。ですから、大人向き。

本書収録26話中最も強烈だったのは冒頭の「人魚の涙」アンデルセンの原作では、上半身が人間、下半身が魚というのが人魚の姿ですが、本書ではそれが逆。その結果故の本ストーリィは、何ともはや。
「白雪姫」では、あの愚かさならあの結末も当然のことと、すんなり納得できてしまうところに、苦笑せざるを得ません。
「虫になったザムザの話」の原作は、カフカ「変身」
「人は何によっていきるのか」は、トルストイの民話から。
また、「三つの指輪」は宗教絡みの小話ですが、他と異なりエスプリが効いているところが、私好みです。

人魚の涙/一寸法師の恋/白雪姫/世界の果ての泉/血で染めたドレス/鏡を見た王女/子供たちが豚殺しを真似した話/虫になったザムザの話/名人伝補遺/盧生の夢/養老の滝/新浦島/猿蟹戦争/かぐや姫/三つの指輪/ゴルゴーンの首/故郷/パンドーラーの壺/ある恋の物語/鬼女の島/天国へ行った男の子/安達ヶ原の鬼/異説かちかち山/飯食わぬ女異聞/魔法の豆の木/人は何によっていきるのか

        

2.

●「大人のための怪奇掌篇」● ★☆
 (旧題:「倉橋由美子の怪奇掌篇」)

  

   
1985年2月
潮出版社刊

1988年3月
新潮文庫化

2006年2月
宝島社刊

(1600円+税)

 

2006/03/11

不気味で恐ろしい話ばかりなのですが、読んでいると何故か楽しくなってくる、という短篇集。
ひと言で表せば、それは乾いたユーモアがそこにある故。とくにエロス風味のある篇に惹きつけられます。

恐ろしくはあってもホラー話がそれなりに人気があるのは、恐ろしさと併せて楽しさがあるからでしょう。
本書は、その楽しい要素だけを特別に抽出して読者に提供してくれている一冊、と言ったら良いでしょうか。
どの篇もごく短いストーリィ。その中に知的な面白さ、諧謔、エロスが入り混じり、この恐ろしげな物語の数々を実際の頁数以上にたっぷりと楽しませてくれます。

吸血鬼を扱った「ヴァンピーツの会」、身体の中から蟹が争う声が聞こえるという「革命」、最後におおっとと仰け反らされた「首の飛ぶ女」、ガリバーのパロディ「オーグル国渡航記」、妖しい面を描く「鬼女の面」、食人嗜好の「カニバリスト夫妻」、乱交パーティに鬼が混じるとどうなるかを描いた「無鬼論」が、私のお気に入り。
長湯のため肉が溶けて骸骨になってしまった「事故」、地球が滅びようとしている最中に戸惑っているだけの神々の様子を描いた「発狂」もユーモラス。

ヴァンピールの会/革命/首の飛ぶ女/事故/獣の夢/幽霊屋敷/アポロンの首/発狂/オーグル国渡航記/鬼女の面/聖家族/生還/交換/瓶の中の恋人たち/月の都/カニバリスト夫妻/夕顔/無鬼論/カボチャ綺譚/イフリートの復讐

 

3.

●「老人のための残酷童話」● ★★

 

  
2003年9月
講談社刊
(1600円+税)

2006年6月
講談社文庫化

 

2004/01/13

書店店頭で「姥捨山異聞」を立ち読みし、何と恐ろしいストーリィかと本書に興味を持ったのですが、そんな話はその一篇のみ。
“残酷童話”という題名ではありますが、カラッとしていて、むしろユーモラスな短篇集です。

いずれも、男女を問わず、老人が主人公。
鬼婆や妖怪の如きに至る「姥捨山異聞」「水妖女」もあれば、利用されてガウンの如く捨てられる「子を欲しがる老女」のようなストーリィもあります。
長く生きていれば、もはや何があったって良いじゃないか、妖怪や、修業の道を少し踏み外すくらい、どうってことない。そんな開き直ったような明るさが、本書からは感じられます。

元裁判官が非常勤で冥界の閻羅長官を勤める「閻羅長官」、臓器移植故の混乱に閻魔大王らが非常作戦を展開する「臓器回収大作戦」、死後世界の見学ツアーをネタにした「地獄めぐり」は、如何にも現代的なストーリィ。
高齢化社会ともなれば、こんな寓話も、恐ろしいというより楽しくなります。

ある老人の図書館/姥捨山異聞/子を欲しがる老女/天の川/水妖女/閻羅長官/犬の哲学者/臓器回収大作戦/老いらくの恋/地獄めぐり

      


   

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