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1.みなさん、さようなら 3.中学んとき 4.オープン・セサミ 6.ハロワ! |
●「みなさん、さようなら」● ★★ パピルス新人賞 |
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2010年08月
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小学校卒業後、中学校に通うことを拒否し、母と2人で暮らす都営団地という限られた世界の中だけで生きていこうと決意した少年=悟を主人公にした長篇小説。 団地の中にあるコミニュティセンターへ行けば、図書館もあり映画も上映されている。団地の中には店も幾つかあるのだからそこで働けばいい。そしてかつての同級生達も皆いるのだから、団地の中だけで充分暮らしていける。 ストーリィ中、殆ど存在感を示さない悟の母親=ヒーさん。息子に強制するようなことは何も言わず、ただ悟の思うままに任せている。 本書は、特異な道を選んだ少年が一人立ちする迄の成長物語。そして、そんな息子を黙って見守った母親の姿が圧巻です。 |
●「ブラック・ジャック・キッド」● ★★ 日本ファンタジーノベル大賞優秀賞 |
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2011年06月
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「ブラック・ジャック」という題名から、すぐ内容を想像することができたでしょうか。 まず、主人公である和也の余りの傾倒ぶりに呆気にとられてしまう。なにしろ、いつも黒マントであの髪型まで真似しているというのですから。そして運動会では、マンガそっくりに極端な前傾姿勢で走るというのですから、笑ってしまう。 せつない思いにかられる場面もありますが、本作品は少しも暗くありません。そこが本作品の良さです。 |
●「中学んとき」● ★☆ |
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2012年12月
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東京都下、でも都心ではない。その町には中学校が4つあり、各々の中学の、中3男子を主人公とした連作短篇集。 中学生の日々というと、懐かしくも無邪気な頃と思ってしまうのですが、本ストーリィに描かれるのは昔の中学生ではなく、現代の中学生たち。したがってストーリィ内容はかなりシビア。 「純愛恋愛機械」の主人公は関根瑛次、同級生の女の子に夢中。仲間内の複雑な三角関係はそう意外ではありませんが、瑛次がやっと気持ちが通じたと思った後の相手の言葉には、瑛次と共に唖然とするばかり。 「願いましては」は、本書中唯一、昔ながらの中学生らしい篇。主人公はそろばん塾に通う町田吾郎。 純愛恋愛機械/逃げ出した夜/願いましては/ハードボイルドなあいつ |
●「オープン・セサミ」● ★★ |
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2012年10月
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20代、30代、40代、50代、60代、70代、それぞれの年代になっての人生初体験を描いた短篇集。 題名の“open sesame”とは、「千夜一夜物語」の「アリババと40人の盗賊」の中に出てくる呪文「開けゴマ(open
sesame)」のこと。 「先生一年生」:新米教師が小学5年生にすっかりなめられてしまい、苦労し、粉砕し・・・・という話。 今の私より下の年代での人生初体験、判るなぁ。「先生一年生」は同情することしきりですが、何といっても「はじめてのおでかけ」、私も娘を持つ父親ですから、幾らなんでもと苦笑しつつ、この父親の気持ち、判ります。 先生一年生/はじめてのおでかけ/ラストラ40/彼氏彼氏の事情/ある日、森の中/さよならは一度だけ |
5. | |
●「GF(ガールズファイト)」● ★☆ |
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2019年05月
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読み始める前、てっきりスポーツ系の作品かと思ったのですが、大間違い。女子が、自分として生きるための戦い、それも自分との闘い、という趣向の短篇集です。 「キャッチライト」は、昔の人気アイドル、今はすっかり落ち目の元アイドルが、芸能界に留まるために目論んだ究極の作戦における闘い、というストーリィ。無様とも見えますが、いいじゃないかと思わず声援を送りたくなります。 「足して7年生」は、重松清作品に描かれるようなストーリィ。クラスで除け者にされているモンササこと佐々木可奈子は小学六年生。その可奈子を何故か慕う1年生の板倉拓馬も、やはりクラスでイジメられっ子。 キャッチライト/銀盤がとけるほど/半地下の少女/ペガサスの翼/足して7年生 |
6. | |
●「ハロワ!」● ★★ |
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2014年03月
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沢田信、28歳。大学卒業後就職浪人、建設会社、人材派遣会社という勤務歴を経て、嘱託職員として東京都杉並区唯一のハローワーク宮台に就職。仕事は求職者との面接、就職先紹介業務。 本書一言で紹介するなら、ハローワーク(公共職業安定所)を舞台にしたお仕事&青春ストーリィ。 ハローワーク職員の仕事をリアルに知る興味と、求職者が抱える人間ドラマ、それにプラスして沢田信という青年の仕事を通じた成長ストーリィの面白さという三拍子そろった作品。 ハローワークが舞台というと暗いストーリィになりかねないところを、主人公の若さ、未熟、それへの自覚というベースがあるうえに、中々誠実なキャラクター。そのため、若々しく好感のもてるストーリィに仕上がっています。 最初は、同期入所の正職員=樋口に比べて頼りないという印象の信でしたが、1年後の成長はお見事。誠実で真摯な仕事ぶりの賜物といった感じですが、そこがかえって新鮮に思えます。現代企業社会で、やたら成績重視、昇進こそ人間の価値、と謳われる風潮がある所為でしょうか。 久保田作品の中でも、ひときわ軽快で爽快なストーリィ。 いつも沢田を相談者に指名する、常連求職者3人の存在も、本ストーリィにおける良いスパイスになっています。 仕事の仕事/ミスター論理/さよならファラウェイ/C調サバイバー/おててつないで/ルール101/ラストダンスは突然/音楽を君に |
7. | |
「青少年のための小説入門」 ★★☆ |
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2021年08月
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いじめっ子に万引きを強要された中2の入江一真、それが縁となって駄菓子屋「たぐち」の孫である田口登と知り合います。 その登、近隣で名の知られたヤンキーである一方、文字をきちんと認識できないために読むことも書くことも困難というディスレクシア障害者。 朗読が上手いと登に見込まれた一真、それから毎日たぐちに通って登のために小説の朗読をすることになります。 そしてついに登、自分がアイデアを出すからお前が小説を書けと言い出し、ヤンキー男の登と中2の一真という不思議なコンビは2人一体になって、小説家デビューを目指すことになります。さてその結果は・・・・。 小説好きにとって面白くて堪らないのは、名作を朗読する一真に対していちいち口をはさむ登のコメントが、絶妙に面白いこと。さらに登が思いついたと披露する小説のあらすじ、なんと名作の内容を換骨奪胎したものだというから唖然。 2人が考え出す作品の読み役となるのが、偶然出会った不登校の同級生=高木かすみ。一真にとって大切な友人となりますが、登と対角に位置する人物像というところが面白い。 何はともあれ、破天荒な登に振り回され、怒涛のように進むストーリィである一方、小説を書くための本格的手引書といって遜色ない内容になっており、まさに読み処いっぱい。 登と一真のコンビももちろん応援したいのですが、孫の登を慈しんで止まないたぐちのお婆ちゃんがとりわけ愛しく、また、難しい状況を乗り越えて一人で世間に立ち向かおうとするかすみに、心からエールを贈ります。 小説好きなら、本作品を読まずにいるのはそれこそ勿体ない、絶対に損!と言いたい。 読了後の高揚感を以て、是非お薦め! LESSON 1/LESSON 2/LESSON 3/LESSON 4/LESSON 5/LESSON 6/LESSON 7/LESSON 8 |