小嶋陽太郎
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1991年長野県松本市生。2015年現在、信州大学人文学部在学中。14年「気障でけっこうです」にて第16回ボイルドエッグズ新人賞を受賞し作家デビュー。


1.気障でけっこうです

2.火星の話
(文庫改題:今夜、きみは火星に戻る)

3.おとめの流儀。

4.
こちら文学少女になります

5.ぼくのとなりにきみ

6.ぼくらはその日まで

7.悲しい話は終わりにしよう

8.放課後ひとり同盟

9.友情だねって感動してよ

  


   

1.

「気障でけっこうです ★☆      ボイルドエッグズ新人賞


気障でけっこうです

2014年10月
角川書店刊

(1300円+税)

2016年11月
角川文庫化


2017/09/07


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女子高生と死んだばかりの幽霊コンビが奮闘する冒険譚。
ボイルドエッグズ新人賞を受賞した作者のデビュー作。

女子高生の
斎藤きよ子、雨の日にさびれた公園を通りかかったところ、サラリーマンらしき男性が首まで地面に埋まっているのを発見します。とにかく助け出さなくてはと、家に戻ってスコップを取り出し公園に急いで戻ろうとしたきよ子は、信号無視の車に撥ねられ、気付けば病院のベッドの中。
そしてその前に、死んでしまったというあの男性が幽霊となって枕元に。彼は「
シチサン」と呼んでくれと言い、きよ子に取りついてしまった様子。
何故シチサンは埋められていたのか。シチサンが幽霊となった事情は何なのか。
やがてきよ子はそれに気づいていくのですが、おかげでとんでもない窮地に追い込まれることに・・・。

ただし、大事件とも言えず、でも女子高校生にとっては十分大事件、というより寝違えて見てしまった夢の如き冒険譚、と言いたいところです。
きよ子と幽霊さんの漫才的やりとり、きよ子の友人である
キエちゃんのびっくり仰天な行動ぶり、そして語りのテンポの良さが楽しい作品です。

1.かさじぞう/2.七三/3.きれいなひと/4.たばこのけむり/5.キエちゃん/6.手がかり/7.蟹江さん/8.真実/9.神様のルール/10.気障でけっこうです

    

2.

「火星の話 ★☆   
 (文庫改題:今夜、きみは火星に戻る)


火星の話

2015年04月
角川書店

(1400円+税)

2017年10月
角川文庫



2022/05/16



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名取佐和子「図書室のはこぶねに出てきたのですね、本作品。
題名すら知らなかったのですが、そうなるとかえって気になるもので読んでみた、という次第です。

高校一年生たちを主要登場人物にした青春小説?
数学の試験で0点をとった
国吉、同じクラスでやはり落第点を取った水野佐伯さんと共に夏休みに補習授業。
その内の佐伯さん、「自分は火星人だ」と名乗り、昔から変人として他の女子から距離を置かれている奇妙な女子生徒。
しかし実際、補習中に国吉は、佐伯さんの言う火星の世界を覗き見ることを繰り返すようになり・・・。

佐伯さんのいうことは本当のことなのか、いやでも流石に、火星世界はもうあり得ないのでは(
E・R・バローズ“火星”シリーズはもう古典的SFですから)と思いますし。
そこが関心処だったのですが、何時の間にか学校を休みがちだった水野の行動が変わったり、派手女子の高見さんがやたら国吉に纏わりつくようになったりと思いがけない展開へ。

最後、主人公の隠していた謎が明らかにされると、そこにあるのは如何にも青春小説、高校生らしい挫折ともがきのストーリィ。

うまくしてやられた、という気持ちで読み終えるかと思いきや、何なのでしょう、最後の台詞は?
国吉は救われたのかもしれませんが、佐伯さんに救いは必要なかったのでしょうか、読み終えた後から気になり出します


1.歴史的数値/2.徒然なるボウズの教え/3.サインコサインタンジェント/4.赤い空/5.高見さん/6.姉妹惑星/7.付き人/8.仮説/9.丘の上/10.『ブッダ』/11.火星に雪は降らない/12.僕はどこまでも走ることができる/13.わたしはかせいじん

   

3.
「おとめの流儀。 ★☆


おとめの流儀。

2015年11月
ポプラ社刊

(1500円+税)

2017年12月
ポプラ文庫化


2016/01/01


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小4の時からなぎなた道場に通っていた山下聡子、中学に入学してすぐ柔剣道場に足を向け、勇んでなぎなた部に入部しようとします。
ところが出迎えてくれたなぎなた部の上級生は
高野朝子たったひとり。あと3人新入部員を集めないと廃部になってしまうと言われ、さと子は愕然。
かろうじて新入部員を4名確保し、計6名でなぎなた部の存続は成りますが、集まった部員はまさに凸凹という感じ。
そして部長の朝子、仮入部期間はとても優しかったのに、正式入部となった途端に一転してスパルタ。さらに、我々が勝つことを目指す相手は○○○!と宣告され、何で???と流石にさと子も呆然の態。
またそのさと子には、小学生の頃から抱えている問題があり、それは父親のこと。ずっと母子2人きりの生活ですが、父親のことを聞くと母親はいつもはぐらしてばかり。何故・・・?

なぎなた部というものへの興味もありますが、なぎなた対○○○というユニークな目標が興味をさらに引き立ててくれます。おかげで“なぎなた”というものがどういうものか少し判り易くなった気がします。
そうした舞台設定を背景に、なぎなたを通じてさと子の中学生らしい心の揺れ、ちょっとした成長を描く青春部活ストーリィ。
爽やかな読み心地が本書の魅力です。

            

4.
こちら文学少女になります ★★


こちら文学少女になります

2016年09月
文芸春秋刊
(1750円+税)



2016/10/28



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憧れの出版業界に就職できた文学少女の山田由梨22歳、当然のこととして文芸編集部を志望するのですが、配属されたのは何と、ヤング向け漫画雑誌「ヤングビート」の編集部。
そのうえ初の女性部員だと、先輩編集者たちからのセクハラまがいの視線、発言に晒されます。
漫画など読んだことがないと弁解する由梨ですが、何故漫画雑誌編集部に配属されたのやら。そんなことで大丈夫なのか?
そんな由梨の前にある日、不思議な少女
キヨが現れ・・・。

新米社員が悪戦苦闘しながら仕事上の成長を遂げていく、というのはお仕事小説においてはよくある展開ですが、本作はその出だしがちょっと違います。
由梨、自分は文学少女、漫画なんか嫌いと容赦なし。そのうえ反抗的で素直ではないし、人付き合い面でも鈍感。
おいおい、こんな具合で一体どうなるんだ?と危惧させられますが、次々と出てくる先輩編集者たち、人気漫画たちの個性がもう並ではない。
そんな登場人物たちに圧倒されるうち、いつしか由梨にも編集者魂が目覚めたのか。

「こちら文学少女になります」の「なります」とは、どういう意味なのか。それを考えていると、噛みしめるうちに出てくる味わいのようなものを感じます。
ひと言で本作を語ると、メチャクチャ個性的な人物が次々と登場してやまない群像劇+新米お仕事小説+少々ミステリ&SF風という長編。
作品としての出来の評価はどうあれ、面白かったです。


1.女です/2.編集失格/3.漫画を抱く/4.パーティにて/5.二つの心臓/6.不覚にも編集者/7.漫画の記憶/8.文学少女・山田友梨

    

5.

「ぼくのとなりにきみ ★★


ぼくのとなりにきみ

2017年02月
ポプラ社刊

(1400円+税)



2017/09/08



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中一の夏休みの最後の日、自由研究の題材にしようと、サクは親友のハセに誘われ、地元の古墳跡へ出かけます。そして調子に乗って洞穴の中に入り込んだハセは、そこで筒に入った暗号文を見つけます。徳川埋蔵金かも?と飛躍し過ぎの発想をしたハセ、暗号解きに熱を上げます。
ちょうどその時出会ったのが、同級生で少々とろいところのある近田という女子。
ハセは
近田(チカ)を引き入れてさっそく“長谷川調査隊”を結成、暗号解きを含めた冒険に乗り出します。

ハセは元気者で、よく考えもせずに自分のペースに皆を引きずり込んでしまうところがありますが、それが良い面もあり。
サクは父親との関係にトラウマを抱えており、考え過ぎて踏み出せないところあり。
そしてチカは、頑張っているのにその成果を出せないでいることが悩み。でもそこには切ない思いがあって・・・。
中一生といえば、まだまだ子供の部分あり。それでも胸の中には大人には言えない悩みや思いをそれぞれに抱えています。
3人が友達として繋がることで一歩前進していく、そんな展開がとても嬉しい。

中一生3人による友情・成長&冒険・謎解きという盛沢山な青春ストーリィ。
3人の友情も素敵なのですが、彼らを見守りあるいは応援してくれている担任の
角田先生、合唱の指導をしてくれている音楽教師のゆりちゃんの心温まるエピソードもすこぶる素敵です。
心洗われるような、清新なストーリィ、私好み。


1.冒険への入り口/2.頭に星が飛んでいる女の子/3.へんな感じ/4.黒い円盤・包帯を巻かれた右手/5.三人/6.真琴のクロール/7.言ってあげたい/8.調査再開/9.暗号解読/10.大丈夫

            

6.

「ぼくらはその日まで ★★


ぼくらはその日まで

2017年08月
ポプラ社刊

(1400円+税)



2017/09/18



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ぼくのとなりにきみの続編。
ハセ・サク・チカの仲良し三人組は、今もハセのリード下、長谷川調査隊ごっこ。
しかし2年に進級してハセとチカは2組、サク一人3組になったことから、チカが好きと自覚しているサクは2人との距離を感じ始め、微妙かつ焦る気持ちに。
その一方、サクと一緒だと素の自分でいられると人気者のバレー部女子・
水瀬さんから告られ、サクはさらに複雑な心境に。
そして夏休み、ハセが言い出し、3人そろってハセの祖父母が住む北陸の町で10日間滞在するという、長谷川調査隊の夏合宿が敢行されます。そしてその町で、3人は宮崎から一人で来たという
与田桐子という高校3年生と知り合います。
すると、女子に興味がない筈のハセが、傍目でそれとすぐ分かるような恋に陥ってしまう。

ハセ・サク・チカの3人組冒険譚の第2弾は、恋がテーマ。

桐子、水瀬さんとの絡み合いも楽しいのですが、根っからのヒーロ―体質のハセ、純粋無垢に比例して鈍感なチカ、桐子から「インテリ少年」と呼ばれる主人公=サクの、個性的な仲間づきあいがすこぶる楽しい。
こんな夏休みを遅れたらどんなに素敵なことかと、ひたすら羨ましくなります。

友情と善意に満ちた中2生、爽快なひと夏の冒険譚。読めただけですこぶる幸せな気持ちになれます。(笑)


1.かっこいい男/2.迷い犬/3.鋭い女の子/4.眩しくないし憧れてもないけど/5.ミニハセの冒険/6.ハセ、サク、チカ、ヨダ/7.人生最大の難関/8.僕でも簡単に解けない問題/9.ヒーロー/10.長谷川調査隊

          

7.

「悲しい話は終わりにしよう Close a Sad Stoy ★☆


悲しい話は終わりにしよう

2017年11月
角川書店刊

(1400円+税)



2017/12/19



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これまでの小嶋陽太郎作品から一転した、シリアスな青春ストーリィ。

本作では、2つの物語が並行して語られます。
ひとつは
市川という、松本という土地から出られないでいると語る、信州大の大学生を主人公とした物語。
大学で彼は、男子学生の
広崎と女子学生の吉岡という、他の学生たちと距離を置く2人と親しくなります。
もうひとつの物語は、
佐野という中学生が主人公。同級生たちから孤立した彼にただ一人奥村という同級生が声を掛けてきて、2人は<放課後勉強クラブ>という名目で親しくなります。また、転校して早々イジメ対象になった沖田まどかという女生徒に佐野が手を差し伸べ、3人の間に交流が生まれます。

2つの物語は、ある程度自由を手に入れた大学生と、所詮親の都合に左右されるしかない中学生という違いはありますけれど、相似形と言って良いでしょう。
2つの物語にどういう関係があるのか、どういう違いがあるのかは、最後で明らかにされます。

しかし、そこから何を組み取ったらいいのかというと、戸惑いを覚えます。
始まりからかなり特別な状況が設定されてしまっていますから、結末も当然そうなるしかないもので、3人だけの特別な関係から抜け出すにいたっていない、と感じます。

ただし、小嶋さんが本作で新たな境地に足を踏み出したことは評価したい。今後に期待です。

         

8.

「放課後ひとり同盟 ★★☆


放課後ひとり同盟

2018年04月
集英社

(1500円+税)

2021年03月
集英社文庫



2018/05/20



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一人で悩みを抱え込み、孤立感も漂わせている高校生らを描いた青春群像ストーリィ。
そんな彼らに、そのままでいいんだ、私が傍にいると一声掛けてくれる友人がいたら、どんなに救われることでしょうか。

彼らが今、青春の只中にいるということが、リアルに、ひしひしと伝わってきます。
大人として、彼らのことを心から応援したくなります。皆、素直で真摯、そして人のことも思いやれる優しさをもった少年少女たちなのですから。

「空に飛び蹴り」林ちゃんの家では全ての状況が悪化。そんな中、林ちゃんが始めたことは・・・。
「怒る泣く笑う女子」ミサキは人気者の同級生=原田君が好き。でも私には告白すら許されない・・・。
「吠えるな」:母親が再婚。家事を手抜きしなくなった母親、出来過ぎの義妹、みさ子にとっては気持ち悪いばかり。
「ストーリーテラー」:小学校時代の同級生に似ているからと大学生の主人公はストーカー? でもその心の内は?
「僕とじょうぎとぐるぐると」:ミサキの小4の弟が主人公。せめて自分はミサキの味方でいようと決意。

どの主人公も、いろいろと問題を抱えていようと、魅力いっぱい。
そんな彼らのストーリィ、他人事として見る気にはなりません。
彼らと一緒に迷い、悲しみ、喜べるところが嬉しい。
まさに私好みの青春群像ストーリィ。お薦め!


空に飛び蹴り/怒る泣く笑う女子/吠えるな/ストーリーテラー/僕とじょうぎとぐるぐると

       

9.

「友情だねって感動してよ ★★


友情だねって感動してよ

2018年09月
新潮社刊

(1600円+税)



2018/10/17



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あぁ、面白かった。
高校生主体の青春ストーリィもの短篇集。
神楽坂が舞台、人のいない象公園、青木神社という共通項はありますが、各篇の趣向は様々。
青春ストーリィのバラエティセットとも言えますが、それよりも玉手箱から色々な味の青春篇を取り出すように楽しめた、と言いたい処。

「甲殻類の言語」:幼馴染の三人組(女女男)、可児遥香海老原莉子、貝原京一の三角関係を描く篇。カニを見守り評価を上げていると思っていたのに・・・。思わぬ展開が何とも楽しい。
「ディストラクション・ガール」:手ひどいイジメを受けていた西野の究極の逆転劇? イジメられっ子同士の男女=西野と早乙女、イジメ側であるクラスの女王=松岡。勝ち負けを超え、最後は3人とも可愛く思えてくるところが嬉しい。
「或るミコバイトの話」:こちらも女女男の三角関係に、主人公であるきみ子がミコバイトする神社の賽銭箱に貼り付けられた手紙の謎。3人の三角関係が好いんだなぁ。思わず拍手。

「象の像」:5年付き合ったみっちゃんからフラれた大学5年生が主人公。熱愛変じて・・・。
象公園の象が主人公に語り掛け・・・、何と幻惑的なことか。
毅然としたみっちゃんの姿に好感。
「恋をしたのだと思います」:親の命じるまま銀行に勤めて7年目の主人公。5歳上の恋人も彼女を好きなように操縦するばかり。そんな時美作さんに出会って・・・。

「友情だねって感動してよ」:昼休み、人形と向かい合って弁当を食べる同級生の湯浅。彼に興味を感じた主人公は、ふとしたこをきっかけに彼と言葉を交わすようになり・・・。

最も楽しかったのは「或るミコバイトの話」ですが、「ディストラクション・ガール」の西野も捨てがたい。
また、表題作「友情だねって感動してよ」において主人公が付き合いだす
吉川という女生徒も、そのストレートな物言いが素敵。

小嶋陽太郎さん、本作でまた一段とステップアップした、という印象です。お薦め。

甲殻類の言語/ディストラクション・ガール/或るミコバイトの話/象の像/恋をしたのだと思います/友情だねって感動してよ

  


  

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