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1.彼女は鏡の中を覗きこむ 2.最後の挨拶 3.女の子たち風船爆弾をつくる |
「彼女は鏡の中を覗きこむ」 ★★ |
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僅か 120頁余りという薄い一冊の中に4篇を収録。 それでも中々にインパクトのある一冊でした。 戦後日本と近未来、その時間で人間が記した足跡を一気に書き示した4篇から構成される短篇集、という印象。 個々の人間ドラマが霞んでいったその向こうには、人間が歩んだ“発展”という歴史の虚ろさが浮かび上がってくるように感じます。 ・「SUNRISE 日出ずる」:広島・長崎の原爆投下から2年後に生まれた主人公が68歳で死すまで、ビキニ環礁での原爆実験、原子力発電所の初建設、東日本大震災での福島原発事故という原子力の歴史を僅か5頁で描いた篇。 ・「宝石」:亡き祖母が遺した宝石を大事にしている老母と4姉妹が温泉に行く話。やはり祖母が遺した宝石を身に着けた孫娘の一人が、祖母の体験を夢に見るという篇。 ・「シー」:近未来、特殊な薬によって男性と海へ行くという疑似体験。 ・「燃える本の話」:木がなくなり、その結果紙の本も消え失せた近未来。博物館には偶然発見された上下本2冊が展示されているのですが・・・。 SUNRISE 日出ずる/宝石/シー/燃える本の話 |
「最後の挨拶 His Last Bow」 ★★ | |
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何となく面白みを感じるし、惹かれるところもあるのですが、とはいえ何を主眼としたストーリィだったのだろうか余り理解できず、という中編小説2篇。 「最後の挨拶」は、シャーロック・ホームズ絡み。 ホームズ全集の翻訳を手掛ける両親と、その娘4人による家族物語。 主軸となるのは父親。陸軍軍医だった祖父にしたがい家族でハルピンへ。そこで10歳までしか生きられないと言われたものの、家族で帰国、戦時中を生き延び、戦後は、2人の娘をもった妻と離婚し、再婚した妻と一緒に翻訳業。 コナン・ドイル、シャーロック・ホームズのことが縁深く、併せて語られます。 「交霊」は、ある霊が主人公。 生前も死後も孤独なまま。誰かと通じたいと思い、霊媒師の交霊会、日本で発明された<交霊機>に期待するのですが、誰とも繋がることはできず。 しかし、最後やっと・・・・ですが、何だったんでしょうね。 ※ここにもキュリー夫人、登場します。 小林エリカ作品、もう少し読んでみたいと思います。 最後の挨拶 His Last Bow/交霊 |
「女の子たち風船爆弾をつくる The Paper Balloon Bomb Follies」 ★★ | |
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先の<アジア・太平洋戦争>の始まりから終わり、そして戦後まで、無数の少女たちの声を以て描いた、印象的な長編。 常に「わたし」「わたしたち」と書き出されるのが、印象的。 「わたしたちの陸軍軍楽隊」、「わたしたちの満州国」「わたしたちの兵隊」、「わたしたちの大本営陸海軍部」・・・と。 その「わたしたち」には、雙葉や跡見といった女子校等数多くの少女たちだけでなく、演目を制限され慰問巡業もさせられた宝塚歌劇団に所属する少女たちも含まれます。 当時、本当にそう信じていたのでしょう。しかし、それは全て欺瞞だった・・・。純真だったからこそ簡単に騙された、そんな後になっての嘆きが籠っているように感じます。 そして欺瞞であったことが事実であるように、朝鮮の女や少女も日本兵に、日本の女や少女もソ連兵や連合軍兵に差し出され、姦される。 自分たちには何の決定権もなかったことで、勝手に軍部や政治家が国民を騙して始めたことで、一生に一度しかない、大切な青春期を奪われたという悔しさ、悲しみが伝わって来るようです。 「春が来る。桜の花が咲いて散る。」という文章も、何度も繰り返し記載されています。 たしかに春は毎年やって来ます。しかし、過ぎ去ったその年の春は二度と戻ることはありません。 こうした悲しみを二度と繰り返してはいけない、世界中の指導者や政治家は、その責任を自分の肩に担っていることを自覚して欲しいものです。 プロローグ/1.昭和十年年−1935〜/2.昭和十七年−1942〜/3.昭和二十年−1945〜/エピローグ |