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11.スワロウテイルの消失点-法医昆虫学捜査官No.7- 12.賞金稼ぎスリーサム!-賞金稼ぎスリーサム!No.1- 13.二重拘束のアリア-賞金稼ぎスリーサム!No.2- 14.ヴィンテージガール-仕立屋探偵 桐ヶ谷京介No.1- 15.うらんぼんの夜 16.クローゼットファイル-仕立屋探偵 桐ヶ谷京介No.2- 17.四日間家族 18.詐欺師と詐欺師 |
【作家歴】、よろずのことに気をつけよ、147ヘルツの警鐘、シンクロニシティ、桃ノ木坂互助会、水底の棘、メビウスの守護者、潮騒のアニマ、フォークロアの鍵、テーラー伊三郎、紅のアンデッド |
「スワロウテイルの消失点-法医昆虫学捜査官-」 ★★ | |
2021年07月
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“法医昆虫学捜査官”シリーズ第7弾。 すっかり恒例化した本シリーズ、初めての頃のような興奮する驚きはもうありませんが、やはり楽しい。 今回は、独居老人が殺害され、自宅で発見されるという事件。 ところがその遺体解剖中、解剖医をはじめ、解剖に立ち会っていた赤堀、岩楯刑事ら関係者が猛烈な痛み、痒みに襲われ隔離されるという事態が発生します。 その犯人は、<小黒蚊>という台湾や中国に生息する強烈な毒をもったハエ目ヌカカ科の吸血毒虫。 日本に生息していない筈の小黒蚊が何故?というところから、赤堀による捜査が展開されていきます。 本作の面白さは、捜査の顔ぶれにあると言って良いでしょう。 警視庁捜査一課の岩楯警部補とコンビを組むのは、地元高井戸署の深水彰巡査部長。 この深水刑事が結構クセ者である上に、あれこれよくしゃべる。そのやりとりも面白い。 一方、赤堀の側には、現場体験をしたいと言って<捜査分析支援センター>のメンバーであるベテラン鑑識官=波多野が助手につく他、途中から三浦夏樹というヒキコモリ中学生が加わります。 この夏樹と赤堀のやりとりも、結構読み甲斐があります。 今回、独居老人の殺人、その犯人の捜索という軸がかっちりしているので、捜査ストーリィをじっくり楽しめた、という処。 だからこそなのか、犯人逮捕に至る終盤ではとんでもない危難が待ち受けていました。 まぁ、何といっても深水刑事、夏樹少年の存在が本作ストーリィを読み応えのあるものにしてくれています。 毎回読むのが楽しみな本シリーズですが、次作も楽しみです。 1.感染と隔離/2.法医昆虫学者の助手/3.SOSのサイン/4.二つの道が交わる場所/5.覚悟と減らず口 |
「賞金稼ぎスリーサム! Bounty hunting Threesome!」 ★★ | |
2023年08月
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「賞金稼ぎ」? 西部劇ならいざ知らず、現代日本でこれって?と言いたくなる題名ですが、本当にそうしたストーリィ。 個性的なキャラクターの持ち主3人が一つチームを組んで、というところに極めつけのユニークさあり、しかも賞金稼ぎという珍しい設定、というところが面白味のミステリ。 一人は、くも膜下出血により意識障害の状態にある母親を介護するため職を辞した元有能な刑事だった薮下浩平・43歳。 もう一人は、その薮下を多額の報酬で釣り出した、桐生製糖株式会社の御曹司で究極の“警察マニア”である桐生淳太郎・33歳。薮下とは、公務執行妨害で逮捕されたことがあるという縁。 そして2人が偶然出会ったのが、賞金目当てで事件を調べていた上園一花・24歳。この一花のキャラクターが突出しています。業界では崇拝される程の凄腕ハンター(狩猟者)である一方、垢ぬけず不器用このうえない田舎出の女子、という役柄。 事件は墨田区の古い住宅街で起きた、家屋12軒、住民6人が犠牲となった火災。警察は、火元となった元ペットショップの経営者による保険金詐欺と決めつけますが、本当にそうなのか。 薮下・淳太郎の調査活動に一花が加わった辺りから、本格的な捜査活動が始まります。 薮下は元刑事ですから、その行動はオーソドックス。しかし、そこに桐生の情報力、一花の獲物を追う嗅覚が絡みむことにより、思いもよらぬ犯人像が浮かび上がってくるという展開。 その犯人像がまた凄い。まさか、こんな強敵、凶悪が犯罪者が浮かび上がってくるとは。 上園一花、“法医昆虫学捜査官”シリーズに照らせば、赤堀涼子のような位置づけでしょう。 ともあれ、新たなシリーズの始まりのようです。今後が楽しみです。 水と油、金とマニア/ハンターと白いワンピース/ガンロッカーと罠/二人の起点/チーム・トラッカー |
「二重拘束のアリア-賞金稼ぎスリーサム!-」 ★★☆ | |
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“賞金稼ぎスリーサム!”シリーズ第2弾。 賞金稼ぎなんて現代日本においてシリーズになりうるものか、と思っていたのですが、この第2弾、文句なしに面白い! 疑問を呈したこと、恥じるばかりです。 前作でチームを組んだ元刑事の薮下浩平、大会社の御曹司で警察マニアの桐生淳太郎、天性の凄腕ハンターである上園一花は、刑事事件専門調査会社「チーム・トラッカー」を立ち上げます。 そこに依頼があったのは、3年半前に起きた、若い夫婦がお互いに殺し合って共に死亡したという事件。 警察の捜査は<殺し合い>ということで既に決着済み。 亡夫の家族は警察官僚一族ということで何らかの情報は得ていたと思われますが、収まらないのはつんぼさじきに置かれた亡妻側の倉澤夫妻。 事件の真相を調べてほしいと、3人に調査を依頼してきます。 愛し合って結婚した筈の2人が何故、片やバット、片やナイフを振りかざして殺し合うような惨劇を起こすに至ったのか。 3人が幾ら調べても事実は変わらず、真相は皆目わからず。 でも3人が活動を続ける中で、次第に思いもかけない出来事が見つかり・・・。 主役の3人とも個性的で、お互いの持ち味を発揮して事件を追い詰めていくところが面白いのですが、何と言っても抜群の存在感を発揮しているのが一花であることは言うまでもありません。 その対極に位置するのが薮下。常識の通じない新入社員に振り回されている管理職、を薮下は体現しているのではないでしょうか。そしてその新入社員が信じられないような有能、というのですから上司としては堪ったものではないでしょう。 仲裁者的な桐生を間に挟んでの、一花と藪下のやりとりがすこぶる楽しい。 さて事件、思いも寄らなかった真相が明らかになります。 その直前の一花の危機、そして一花の倍返し、いや一花の逆転ぶりは思わず震えあがってしまう程。 面白かったァ! その一言に尽きます。お薦め。 1.一年生存率、二十パーセント未満/2.時間の動き出した部屋/3.殺しの境界線/4.リンクする二人の女/5.狩る者、狩られる者 |
「ヴィンテージガール-仕立屋探偵 桐ケ谷京介-」 ★★ "Vintage girl" the dressmaker detective |
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2023年05月
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“法医昆虫学捜査官”シリーズの新鮮さが薄れてきたところで、次の座を窺うこれまたユニークな新探偵の登場でしょうか、探偵役となるのは警察と全く無縁の、仕立屋ならぬ服飾ブローカーである桐ヶ谷京介・34歳。 東京の高円寺南商店街で小さな仕立屋を構えた主人公、実は美術解剖学と服飾について深い知識と洞察力を備えた人物で、欧州の有名ブランドと日本の高い技を持つ職人との橋渡し役。 その京介、10年前に起きたまま未解決となっている少女殺害事件に関する報道の中、遺留品として公開された奇妙な柄のワンピースに目を惹きつけられます。 この事件の真相に辿り着ける人間は自分しかいないと、同じ商店街でヴィンテージショップを任されている水森小春・26歳(ヴィンテージ衣類の目利き&ゲームオタク)の助けや自分の服飾人脈を使って、少女の身元判明に動き出します。 従来の警察捜査、科学捜査では見落としてしまう、服飾関係という糸口から事件を調べていくという独創的な視点は、法医昆虫学捜査官と共通するところがあります。 ついつい被害者に感情移入して涙が止まらなくなってしまう京介に対して、ゲームさながらに攻撃的になるがプロとしての力量は京介に全く引けを取らない小春というコンビがすこぶる魅力的。 さて京介と小春たち、どんな仕立屋探偵ぶりを発揮するのやら。2人に協力する登場人物たちの人物像も面白く、かつ真相へ迫る展開が斬新で、たっぷり楽しめます。 登場初回とあって警察との協力関係はギクシャク続きでしたが、きっとシリーズものになる筈の次巻以降は、もう少しスムーズになるのでしょう。 1.アトミックと名もない少女/2.語りはじめた遺留品/3.職人たちの記憶/4.貧困と針仕事/5.少女の名前を口にするとき |
「うらんぼんの夜」 ★★ | |
2023年12月
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主人公である遠山奈穂は、公立高校にトップ入学する等成績優秀な高校生ですが、実家は農家で年中農作業の手伝いに駆り出されることが大いに不満。 しかも、川田で暮らす9世帯は昔から濃く繋がっていて、自分たちを「内部落」を呼び、外から嫁に来た奈穂の母親を未だに「余所者」として区別しているといった閉鎖的な共同体。 そんな閉鎖性に我慢ならず、いずれこの土地から逃れ出て都会で暮らす、というのが奈穂の目標。 そんな奈穂の前に、東京から家族で近所に引っ越してきた北方亜矢子が転校生として現れます。奈穂はすぐ亜矢子と親しくなるのですが、それと時を同じくして村の中で様々に不穏な出来事が起こる。奈穂の曾祖母を初め、内部落の者たちは余所者を受け入れた所為と亜矢子の一家への敵視を強めていく。 差別だと奈穂は憤るのですが、そのうち・・・・。 題名の「うらんぼん」とは、盂蘭盆会、お盆のこと。 奈穂の、嫌だ嫌だといいつつ見せる有能ぶり、次世代は奈穂に任せれば安心だという老婆たちの押しつけ、奈穂が逃げ出したくなると思うのも無理なし。つい奈穂に肩入れして読み進んでしまいます。 しかし、終盤、全ての真相が一気に一気に明らかにされていく展開は、もう圧巻。 驚愕させられ、絶句させられるばかりです。この大逆転劇にこそ、本ミステリの醍醐味がある、と言って過言ではありません。 そして最後に奈穂が決めた覚悟は、痛ましいというか、何と言うべきか・・・。 1.佇む地蔵さま/2.忌作とウランバナ/3.竹藪の鈴/4.逆さ吊りの女 |
「クローゼットファイル-仕立屋探偵 桐ケ谷京介-」 ★★ "Closet File" the dressmaker detective |
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2024年07月
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“仕立屋探偵桐ヶ谷京介”シリーズ第2弾。 “法医昆虫学捜査官”シリーズに代わる新シリーズと言って良いのでしょう。 捜査手法は本シリーズも特殊。虫の代わりに服飾という特殊世界における技能・知識を以て事件を解明していく、誰も思いも寄らぬ視点という処は法医昆虫学と同様です。 ただ、地味な処がありますので、その点は相棒となる、ヴィンテージショップ店長にしてゲーム実況の人気配信者である水森小春・26歳を配してユーモアを加えています。 桐ヶ谷京介の元に未解決事件を持ち込むのは、前作で知り会い、京介の特殊能力に目を付けた杉並署刑事の南雲隆史警部。 本巻では新設された未解決事件専従捜査対策室の室長となり、希望して配属された八木橋充巡査部長とともに、時に京介・小春と掛け合い漫才のようなやり取りをします。 ・「ゆりかごの行方」:12年前の捨て子。当時の産着から、実母を見つけ出すことはできるのか。 ・「緑色の誘惑」:15年前の殺人事件。容疑者は小柄な女性。被害者の服から犯人を突き止めることはできるのか。 ・「ルーティンの痕跡」:小春が下着泥棒に遭い怒り心頭。代わりに残された男性のボロ下着から犯人を突き止められるのか。 ・「攻撃のSOS」:街中で京介が見かけた、親から虐待を受けていると思われる女子中学生。彼女を救うことはできるのか。 ・「キラー・ファブリック」:15年前、アナフィラキシーショックで死んだ主婦の事件。他殺か、事故か。果たして彼女に蕎麦アレルギーを引き起こしたものは何だったのか。 ・「美しさの定義」:10年前、服飾学校に通っていた若い女性が刺殺された事件。鍵は当時彼女が制作していたもの? 主人公の桐ヶ谷京介以上に、水森小春のキャラクターが面白く、今後の展開が楽しみです。 ゆりかごの行方/緑色の誘惑/ルーティンの痕跡/攻撃のSOS/キラー・ファブリック/美しさの定義 |
「四日間家族」 ★★ | |
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川瀬作品には珍しく、ミステリというよりサスペンス。 自殺志願者たち4人、青梅の山中にある廃小屋で一緒に死のうとしていたところ、近くに車でやってきたことに気づきます。 運転してきた女は、携帯電話で口汚い言葉を吐きながらリュックを置き捨て、そのまま走り去っていきます。 女の行動に不審なものを感じた4人が、捨てられたリュックを確かめると、中には何と生まれたばかりの赤ん坊。 赤ん坊を見捨てられず4人は、赤ん坊を助けることで意見一致しますが、その直後、赤ん坊の母親を名乗る女が4人を誘拐犯としてSNSにアップしたことから、4人は身元を暴かれ、大勢の人間から追われることになってしまう。 果たして4人は窮地を脱し、赤ん坊を救うことができるのか?というストーリィ。 その4人というのが、お互いそれまで会ったこともない同士の、鉄工所経営に行き詰った長谷部康夫・60歳、スナック常連客の年寄6人を新型コロナ感染で死なせたとして非難された寺内千代子・73才、主人公で事情不明の坂崎夏美・28歳、そして自殺理由不明な丹波陸斗・16歳。 そこからがスリル満点。追い詰められた状況から、何と夏美が逆転劇を演出し、逆に真犯人グループを捕まえようと策略を巡らすのですから。それに協力するのが、何故かサバイバル能力に秀でた陸斗という次第。 とは言っても、SNSに追われながらの逆襲ですから、ハラハラドキドキ、少しも気を抜けません。 なお、長谷部と千代子も、随所随所で持ち味を生かして活躍。 さて真相は・・・・、読んでのお楽しみです。 それにしても、坂崎夏美のキャラクターが面白かった。 1.最悪への扉/2.見捨てるか、助けるか/3.無垢と悪/4.疑似家族/5.わたしたちの四日間 |
「詐欺師と詐欺師 The Swindler and The Swindler」 ★★ | |
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ミステリが多いという印象の川瀬七緒さんにあって、詐欺師? それも詐欺師と詐欺師って? というのがまずの感想。 冒頭、主人公である伏見藍(33歳)が、大物政治家である松浦大臣を驚くべき手管で詐欺に引っ掛けるところから始まります。 その場に後から登場したのが、上条みちる(27歳)という女性。 そのみちる、ある同族企業の女性トップを、両親を自殺に追い込んだ仇として狙っている。 なんとなくみちるを放っておけなくなった藍、みちるの仇討ちに協力することになるのですが・・・。 本作の魅力のひとつは、藍とみちるの金銭感覚が、そしてその結果としての行動がことごとく対照的で、それをめぐる二人の言い争いがすこぶる楽しいこと。 主戦場としていた欧州で多額の詐取をしてのけた藍の行動は、高級ホテルの豪華ルームに投宿等々、セレブ風。それに対して児童養護施設育ちのみちるは、古いアパート住まいで<もったいない>が行動原理。何故贅沢が必要か理論的に説く藍に対し、納得しきれない様子のみちる、というコンビぶりは愉快です。 さて、みちるの仇である相手に接近する方法、それは人たらしの藍にとっても超難関事。 ようやく糸口を掴んだ2人を待ち受けていたものは・・・。 それって、本当に驚愕すべき事実なのですが、藍とみちるにとって吉と言うべきなのか、それとも凶というべきなのか。 まさかこんな結果が待っていたとは、予想がつく筈もなく、という処。 詐欺師の一人が伏見藍であることは明らかですが、もう一人の詐欺師とは? それは読んでのお楽しみです。 1.嗜虐は黒く縁取られる/2.探偵と詐欺師/3.ピレウス・ヴィラ・キワエナ/4.罠なのか偶然なのか/5.雁字搦めの鎖 |