川上佐都(さと)作品のページ


1933年生、神奈川県鎌倉市出身。2022年「街に躍ねる」にて第11回ポプラ社小説新人賞特別賞を受賞し作家デビュー。


1.街に躍ねる

2.今日のかたすみ 

 


                   

1.
「街に躍ねる(はねる) ★★       ポプラ社小説新人賞特別賞


街に躍ねる

2023年02月
ポプラ社

(1600円+税)



2023/03/17



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小学5年生の弟=晶(あき)にとって高校生の達(とおる)は、いろいろなことを教えてくれる大切な兄です。
しかし、達は今、どういう訳か学校に行かなくなり、不登校生。でも晶にとっては、今までと何ら変わらない兄なのです。

確かに兄の達は、母親から頼まれた洗濯もの干しをいつも忘れるし、部屋の中で走り回ったりしては大家の女性から苦情を申し立てられたりしていて、どこか普通じゃないらしい。
また、同級生の内にも、兄の達が不登校と聞くと、途端に可哀想な人を見るような態度を見せる子がいる。

達は、両親との間にもちょっと距離があるようです。
その達が心を許しているのは、自分を慕ってくれる弟の晶だけ、のようです。
でも、そんな兄弟の有り様にも、晶が思ってもいなかった変化が訪れます。
普通、こんな状態になったらどこかぎくしゃくしてしまうのではないかと思いますが、晶の達に対する信頼の気持ちは少しも変わらないようです。そんな兄弟2人の姿が愛おしい。

「兄弟であるための話」
の主人公は坪内晶。そして、「朝子の場合」の主人公は2人の母親である朝子。
前篇の後半で坪内家にちょっと理解困難な変化が生じるのですが、その理由が説明されず、また後篇の「朝子の場合」になってもきちんと説明されないまま。
その点が不明のまま終わってしまったことには、得心できない思いが残ります。


1.兄弟であるための話/2.朝子の場合

                

2.
「今日のかたすみ Corner of the day ★☆


今日のかたすみ

2023年12月
ポプラ社

(1700円+税)



2024/01/18



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誰かと一緒に暮らすことの面倒くささ、愛おしさを描く連作ストーリィ。

人と暮らすというのはそんなものですよね〜。たとえひとつ家族であっても、時に面倒くさいということはあります。
本作でも、相手が勝手に足掻いてバタバタしているだけ、と感じる処もあります。

「愛が一位」:進学塾に講師として勤めている一柳遥。そのアパートに恋人の百ちゃんが押しかけてくるようにやってきて同棲開始。しかし、少しずつすれ違いが目立ち・・・。
「毎日のグミ」:両親が離婚して母親と暮らしてきた柿元緋名(中三)、母親と喧嘩した勢いで父親「滝さん」の元に同居。しかし、慣れない同居生活とあってお互いにギクシャク。
「避難訓練」一柳遥が、まだ友人のモチキこと茂田祥吉、塾で後輩の戻田と同居していた頃、2人は戻田の悩みに真摯に相談に乗るのですが・・・。
「ピンクちゃん」:緋名の姉で大学生の朱夏、あろうことか隣室の老女=中原さんと交換日記を始めることに・・・。
「荷ほどき」モチキの引っ越しに、中学来の友人たちが集まってくれるのですが・・・。

べったりしてくる恋人に、時には一人でいたい、自分の楽しみに浸りたいと思う遥の気持ち、分かります。そんなに譲歩しなくても良いのではないかなぁと思いますけど。

一方、緋名と実父の「滝さん」、慣れていない娘との同居に遠慮する父親の心情が何とも可愛らしいというか、愛おしいというべきか。

また、隣室に住む老女との交換日記も面白い。 


愛が一位/毎日のグミ/避難訓練/ピンクちゃん/荷ほどき

          


   

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