江戸時代から 200余年続くという浅草の「駒形どぜう」、その実在の店をモデルにした歴史時代小説。
嘉永7(1854)年、黒船来航で騒がしい江戸は浅草、駒形の“どぜう屋”を16歳の世慣れぬ娘=伊代が訪ねてきたところから本物語は幕を開けます。
と言うとあたかも伊代が主人公のように思えますが、そうではありません。
どぜう屋三代目“助七”こと元七、その妹で駒形小町と異名をとるヒナ、先代助七の隠居=平蔵に女中頭のおハツ等々、どぜう屋を舞台にした江戸下町群像劇、と言うべきストーリィです。
それぞれ江戸下町のやんちゃ気分を備えた個性的な浅草住民らが次々と登場し、ただ呆然とするばかりの伊代も加えて、その面白さ、楽しさは留まるところを知りません。
その一方で、黒船騒ぎ、大地震に大火事を経て、幕末の索漠とした雰囲気が描かれると思えば、遂には彰義隊の上野戦争と、江戸幕末の嘉永年間から明治元年にかけて江戸庶民の目からみた世相が色濃く映し出されます。
本書の魅力は、江戸下町における飲食店商売のワイガヤ感がどの頁からも溢れていることでしょう。
作者の語り口は洒脱でテンポ良く、楽しさこの上なし。最後の最後まで全く飽きさせない面白さです。
本書を読めば今もある浅草「駒形どぜう」の暖簾をつい潜ってみたくなる、そう言って間違いではないでしょう。
ところで私、その店を一度潜ったことがあったかなかったか、どうもはっきりとしません。(苦笑)
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