川口 晴
(はれ)作品のページ


早稲田大学第一文学部卒。映画プロデューサーとして「血と骨」「クイール」「子ぎつねヘレン」「花よりもなほ」「ゲゲゲの鬼太郎」、脚本家として「RAMPO」「風花」「椿山課長の七日間」等、ヒット作を次々と生み出す。著書に小説「月の夜に洪水が」等あり。


1.
犬と私の10の約束

2.
山猫クー

  


 

1.

「犬と私の10の約束」 ★★


犬と私の10の約束

2007年07月
文芸春秋刊
(1143円+税)

2010年09月
文春文庫化



2008/04/20



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話題となっている田中麗奈主演による映画の原作で、少女と愛犬の関わり合う姿を描いた作品。
「犬の10戒」という作者不詳の短編詩があるのだそうです。本作品はその「10戒」をテーマとしたストーリィ。

多忙な病院勤務医として家にいないことの多い父親、癌のため急逝した母親、そんな寂しい少女あかりを支えてくれたのが、子犬のソックスだった。
そしてソックスとともに成長していく、あかり。
しかし、年頃になって恋を知り、将来に向かっての目標に向かって一生懸命なあかりにとって、まとわりつくソックスは時に煩わしい存在となってしまう・・・。

ペットの犬は、寂しい心を慰めてくれる貴重な存在となることに間違いはありません。でも、決して飼い主の都合のままに奉仕するだけの存在ではない。
とくに相手が犬となれば、愛情は一方的に求めるものではなく、与えることもあって初めて相互の関係が成り立つ。
考えてみれば当然のことであっても、得てして見落としがちなこと、本作品はそのことを改めて教えてくれるストーリィです。

10戒にはいろいろなものがありますが、その中で特に心に残ったのは、次の3つ。
3番目の「私にも心があることを忘れないでください」
9番目の「あなたには学校もあるし友だちもいます。でも私にはあなたしかいません」
そして10番目の後段「どうか覚えていてください、私がずっとあなたを愛していたことを」

       

2.

「山猫クー the siberian cat COO ★★


山猫クー

2018年04月
河出書房新社

(1300円+税)



2018/08/16



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古いマンションで一緒に暮らす航一美羽
“猫狂い”と姉に言われるくらい猫好きの美羽が、捨て猫と思い拾って飼い始めた
「クー」は、なんとシベリアオオヤマネコ。
仔猫と変わらない大きさだったのに、1年後には体長1メートル超。持て余して当然の筈なのに、それでも美羽はクーを愛して止まない。

ストーリィはすぐ、お互いの父親が海外赴任に同行した2人がバンコックで知り合った出会いの時に遡ります。
バンコックの街を生き生きと駆け回る幼い頃の二人、そしてオオヤマネコのクーと琴瑟な様子を見せつける現在の美羽、ちょっと現実離れした楽しさがそこには溢れています。
クーの姿にもまた、2人の人間に負けないくらい、生き生きとした躍動感があって楽しいばかり。
世知辛い現実社会における、ちょっとしたお伽噺でしょうか。

一方、
羽海・美羽の姉妹と航一という3人について語る部分、そこにはどん意味があったのだろうかと、かなり戸惑うところがあります。
あえて言えば、羽海と美羽+航一という3者関係は現実的、それに対して美羽とクー+航一という関係は非現実的にして夢想的、ということでしょうか。

ハラハラドキドキでしたが、最後は大団円、あーっ良かった。

1.二人、クーに出会う/2.姉と出会い、妹と再会する/3.三人の再会

    


  

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