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「蛍と月の真ん中で」 ★★ |
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2024年06月
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主人公の大野匠海は21歳、写真館を営んでいた亡父の影響で写真科のある東京の大学へ進学したものの、学費と生活費を稼ぐためバイトに忙しく、精一杯の生活。 しかし、思わぬ怪我でバイト稼ぎができず、さらに友人との関わりが煩わしく、大学を休学。実家にも戻れず向かった先は、かつて父親が蛍の写真を撮影した場所、長野県辰野市。 目的地で蛍を見ることはできなかったが、明里という若い女性から教えられたゲストハウスに泊った匠海は、そこから次々と匠海を温かく受け入れてくれる人たちに出会っていく・・・。 東京で居場所を見つけることのできなかった青年が、まるで縁もない辰野で、自分を懐深く迎え入れてくれる人々、地方の美しい風景と出会い、伸び伸びとできる時間を見つけていく、清新なストーリィ。 居酒屋バイトと授業だけに明け暮れていた匠海が、農業仕事という新しい体験をしたり、知り合った人たちに頼まれてネットアップ用の写真を撮ったりと、肩を張らずに自分の枠を広げていく様子がとても気持ち良い。 もちろん、出会った人たち皆々が好人物だったり、すんなり衣食住を提供されたりと、あらゆる処で上手く行き過ぎという面はありますが、元々青春ストーリィはそうした面があってこそ魅力があるというもの。 その意味で本作は、清々しく、すこぶる気持ち好さを味わえる典型的な青春小説です。 自分の居場所とは、自分に無理をせず、自然に息ができる場所ではないかなぁ、と思います。 東京に、「成功」という言葉に、囚われる必要はないのですよ。 1.蛍の行方/2.暮らしの中で/3.冬の光/4.蛍と月の真ん中で/エピローグ |