片瀬チヲル
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1990年北海道帯広市生、2012年現在明治大学文学部在学中。2012年「泡をたたき割る人魚は」にて第55回群像新人文学賞優秀作を受賞。


1.泡をたたき割る人魚は 

2.カプチーノ・コースト 

 


           

1.

「泡をたたき割る人魚は」 ★☆       群像新人文学賞優秀作


泡をたたき割る人魚は画像

2012年07月
講談社
(1300円+税)


2012/08/05


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主人公のが望んでいたのは魚になりたい、ということ。ただし全身ではなく、足だけ。
そんな主人公は今川焼屋のおばあさんの手で人魚にしてもらう。ただし、「恋人を作ってはだめ」という条件付き。何故なら、泡になって消えてしまうから。
さて、人魚姫となった彼女を待ち受けていた運命とは。

現代の人魚姫像がまず斬新です。
瀬戸君、村井君という男子と関わり合いながら、どちらとも恋人関係ではない。だから恋人を作らないという条件を気にしなかったのか。水の中から人間を見てみたいという彼女の欲求は、男子との関係における距離を表しているようです。
その彼女は、人魚となって新たな出会いをする。しかしその結果は、
アンデルセン「人魚姫と対比しながら読んでいる読み手にとっては、ぎょっとさせられるもの。

「人魚姫」のような悲愴な恋物語ではなく、積極的選択という行動であっても、所詮人魚姫物語の結末は悲運なのでしょうか。
本書が描こうとしているのは、私の想像力では及ぶことのできない、現代人魚姫の恋物語なのではないかと思う次第。

ストーリィに面白味を感じることはあっても、正直なところ、それ以上のものを感じることは無かったです。

                

2.
「カプチーノ・コースト ★★


カプチーノ・コースト

2022年12月
講談社

(1500円+税)



2023/01/06



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森長早柚(さゆ)、26歳
ある事情から2ヶ月間休職することとなり、暇な日々を家から近い海岸で過ごすようになります。
うっかり水の中に腕時計を落としてしまったことがきっかけとなり、海辺のゴミを拾うようになり、やがて本格化。

一ヶ月間、ただ海辺でゴミを拾うだけのことがストーリィになるのか?と思っていたのですが、それがなるものなのですねぇ。
読んでいて結構気持ちが寛ぎます。

ゴミを拾い始めると余計にゴミが目に付くようになる、効率的かつ安全にゴミを拾うためにはそれなりの服装、道具も必要だと分る。
そして、ゴミを拾う人にもいろいろなタイプがいるし、それぞれの思い入れがある、という現実も分かってくる、という次第。

一人でゴミを拾う行為、無心になれて気持ちが落ち着く、というのはそれを読むこちら側も同じこと。快いのです。

しかし、屁理屈をつけたり、一方的に決めつけたりと、早柚の気持ちを傷つける人間も出てきます。
それに対して早柚はきちんと反論することができない・・・。

最後に、早柚が休職した事情が明らかになりますが、正しいことを唱えてもそれを世間が受け入れてくれるとは限らない、という不条理。
でも、世間がどう言おうと、正しいことはやはり正しい、それは自分の心を救うこと、と思うのです。

            


   

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