金原ひとみ作品のページ


1983年東京都生。2003年「蛇にピアス」にて第27回すばる文学賞、翌年同作にて 第130回芥川賞、10年「TRIP TRAP」にて第27回織田作之助賞、12年「マザーズ」にて第22回Bunkamuraドゥマゴ文学賞、20年「アタラクシア」にて第5回渡辺淳一文学賞、21年「アンソーシャルディスタンス」にて第57回谷崎潤一郎賞、22年「ミーツ・ザ・ワールド」にて第35回柴田錬三郎賞を受賞。


1.ミーツ・ザ・ワールド 

2.腹を空かせた勇者ども 

3.ナチュラルボーンチキン 

 


                   

1.
「ミーツ・ザ・ワールド meets the world ★★☆    柴田錬三郎賞


ミーツ・ザ・ワールド

2022年01月
集英社

(1500円+税)

2025年01月
集英社文庫



2022/02/25



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27歳の銀行員、でも日常系焼肉漫画「ミート・イズ・マイン」に嵌っている<腐女子>=三ツ橋由嘉里
その由嘉里が泥酔して道でへたり込んでいたところ、声を掛けて自分のマンションに連れ帰ってくれたのが、羨ましいくらい美人だというのに、
<死にたいキャバ嬢>=鹿野ライ

この2人の出会い、由嘉里がそのままライの部屋に居つくことになった処から始まるストーリィ。
この2人のやり取りが何とも楽しい。

要は、格好つけることばかり気にしていた由嘉里が、足掻き続けている男女と出会い、足掻いていいんだ、自分の本音のままに生きていいんだ、と知るストーリィと言って良いでしょう。

ライ繋がりで知り合ったホストの
アサヒ、女性言葉で話すバー店主のオシン、人が死ぬ小説ばかり書いているユキ、いずれも今までだったら由嘉里が知り合うこともなかったであろう人物たち。
欠点だらけですが、とても人間的、本音で生きているからでしょうか。
ライの部屋に同居し、彼らと関わり合うことで、婚活ばかり気にしていた由嘉里の目が開かれていきます。
題名の「ミーツ・ザ・ワールド」とは、そういう意味なのではないか、と思う次第。
いやはや、読み応えが存分にありました。読めて良かったです。

なお、由嘉里やアサヒらがゴタゴタを繰り広げていく中、次第にその存在を薄くしていくのがライ。
元々ライは、感情を余り外に出さず、淡々としている風。しかしそれは、今に何の期待も希望も持てなくなったからなのでしょうか。
本作は由嘉里を主体にしたストーリィ。次に是非、ライのストーリィを読みたいものです。

                  

2.
「腹を空かせた勇者ども ★★☆


腹を空かせた勇者ども

2023年06月
河出書房新社

(1600円+税)



2024/03/26



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陽キャラ少女=レナレナ(玲奈)の、中学2年から高校1年まで3年間の青春&友情、合わせて不倫中の母親(ユリ)との母娘ストーリー。

主人公のレナ、如何にも今時の中学生ギャルという風、ゲームに夢中で何かと賑わしく・・・かと思ったのですが、当初の印象と違って真っ直ぐな性格のうえに、友人のこともよく心配し、一生懸命に励ましたりと、健気さあり。

しかし、だからと言って悩みがない訳ではありません。
母親はずっと不倫中で、週2〜3日は彼氏の元へ。不倫発覚時は両親の間で喧嘩が絶えなかったというが、今は父親も容認しているのか、家族3人での生活が継続中。
一方、父親がリストラ解雇に遭い私立から公立に転校せざるを得ないという友人もいれば、コロナ禍で実家の飲食店が潰れそう、成績不良から高等部への進学が難しいという友人もいる。

でも、レナや、友人のミ
ナミ、ヨリヨリ(依子)らは、大抵の場合において元気です、そしていつも食欲は旺盛。
彼女たちはそれぞれ、この社会においてよくある問題にぶつかっていきますが、何があってもお互いを気遣う友情と食欲さえあれば、それら乗り越えていける、と信じさせてくれます。
そんなレナレナたちの、疾走感に満ちた青春&友情物語は、頼もしく爽快です。

そんなレナと不倫中である母親との関係も面白い。
大嫌いだけど大好きでもある。不倫なんて許せないけど、自分のことを大事に思い、一番よく分かってくれている、という信頼感もあります。
特に愉快なのは、母娘の会話。しばしば感情的になるレナに対して、母親のユリはとかく分析的で理屈っぽい。でも、実がある、とも感じられます。

読むのが遅くなりましたが、読んで良かったと心から思える作品です。未読の方には今からでも、是非お薦め。


腹を空かせた勇者ども/狩りをやめない賢者ども/愛を知らない聖者ども/世界に散りゆく無法者ども

                

3.
「ナチュラルボーンチキン NATURAL-BORN CHICKEN ★★☆


ナチュラルボーンチキン

2024年10月
河出書房新社

(1600円+税)



2024/11/19



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共に同じ出版社に勤務する社員ではありますが、
片や<仕事・動画・ご飯>ルーティン生活を守り、食事も定番メニューを繰り返して暮らすことに満足している女性=
労務課の浜野文乃、45歳、バツイチ
片や月に1、2回ホストクラブに通うパリピの女性=
文芸編集部の平木直理(ひらきなおり)、20代、独身

スケボーで捻挫したことによる在宅勤務の延長申請してきた平木の自宅を、上司に命じられて浜野が様子見に訪れた処から、本ストーリーは始まります。
それ以来、平木が何かと浜野に声を掛けてきては引っ張り回すことから、浜野のルーティン生活が少しずつ崩れていきます。そしてその先にあるものは・・・。

この2人のやりとりを始め、本作では登場人物間の会話がとても楽しくて気持ち良い。
平木は浜野に対し年齢差を無視して遠慮なしですし、浜野も年下に対して譲る必要などありませんから、本音吐き。
まるで気の合った漫才コンビのようでテンポも良し。
そして平木から強引に連れていかれたのが、何とライブハウス。
そこで変形モッシュバンド“チキンシング”のメンバー、
かさましまさか〔回文名〕や金本と知り合うのですが・・・。

若い時期を過ぎると、定型化した生活の方が楽、快適ということはあるもので、浜野文乃のルーティン生活には同感するところ多々あります。
しかし、ルーティンから外れた行動をする機会があれば、それを逃さずキャッチするのも良いかな、と思う次第です。
若い頃は、こうあらなくてはならないと押し付けられる処が無きにしも非ず。でも40代ともなれば、そうしたものから自由になれる、なって良いのだと思います。
自分にとって居心地良い関係、それこそ大事にしたいものです。

なお、金原さんに曰く、
「この物語は、中年版<君たちはどう生きるか>です」とのこと。

         


   

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