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「きみが忘れた世界のおわり」 ★★☆ 小説現代長編新人賞奨励賞 | |
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これは読んで正解だった!と喜びたい一冊。 主人公の木戸蒼介は美大油絵学科の4年生で、これまでの入賞歴から“天才蒼介”と称えられている。 しかし、ゼミ担当の南田教授から、技術力は圧倒的だが感情、情熱が感じられないと酷評されてしまう。 それに反発した蒼介は、卒業制作として自分の過去=死んだ幼馴染の明音(あかね)を題材にした絵を描こうと決意します。 しかし、蒼介は一緒に交通事故に遭い、死んでしまった明音に関する記憶を一切失くしていた(心的要因による記憶障害)。 明音に関する記憶を取り戻そうと、蒼介と明音2人のことを知る親友の一國をはじめ、様々な人物から明音の思い出を聞き出そうと動き始めます。 すると蒼介の前に、アカネという幻覚が現れるようになります。 しかし、それは明音本人ではなく、あくまで蒼介が創り出した幻覚に過ぎなかった・・・。 本作の良さ、面白さは、組み立ての妙にあります。 ストーリィは、6年前に死んだ明音の視点から、蒼介を「きみ」と呼び、二人称にて語られます。そこが斬新ですごく良い。 そしてまた、本作は“視点”という要素をうまく使っているところが秀逸。 どれだけ多くの人から明音の思い出を聞き出しても、それはその人の視点からの明音に過ぎず、蒼介にとって本物の明音とは言えず、それは蒼介が作り出したアカネにしても同様。 果たして蒼介は明音の記憶を取り戻すことができるのか。 その点、蒼介による、自分の記憶探し=本来の自分探しと言え、ちょっとした冒険物語のようなスリルさえ感じます。 また、本作に篭められたメッセージがまた良い。 その語り役が、蒼介も講師バイトしている絵画教室の生徒=小学生のミチカ。 ミチカの人物像、かなり出来過ぎですが、子どもの率直な視点というところが貴重と評価したい。 明音と扱い方が冴えるラストも気持ち良く、堪能しました。 お薦め! 1.きみと夢幻/2.きみと忘却/3.きみと友達/4.きみと真実/5.きみとわたし |