岩井俊二
作品のページ


1963年生、宮城県出身。95年「Love Letter」にて劇場用長編監督デビュー。映画監督・小説家・作曲家等活動は多彩。


1.リップヴァンウィンクルの花嫁

2.零の晩夏

  


     

1.
「リップヴァンウィンクルの花嫁 ★★


リップヴァンウィンクルの花嫁

2015年12月
文芸春秋

(1200円+税)

2018年10月
文春文庫化



2016/05/15



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何やら話題作になっているようですし、今年3月に黒木華さん主役で既に映画も公開済とあって興味を持ち、読んでみました。

主人公の皆川七海は22歳、東京で派遣教師をしていますが、声が小さいと契約を更新してもらえず途方にくれます。母親が駆け落ちし、父親がパート社員を入籍した実家に戻る場所はなし。
折よくというか、SNSで出会った相手と結婚に至りますが、浮気の濡れ衣を着せられて早々に追い出されるという憂き目。
ホテルの住み込み掃除婦という仕事に何とかありついた七海ですが、月に 100万円貰えるというメイド仕事を派遣斡旋の
安室から強引に押し付けられ、あっという間に箱根の別荘に。そこには、かつて結婚披露宴のレンタル家族として知り合った里中真白が先輩メイドとして暮していて・・・。

主人公の七海は、自分に自信が持てないまま、幸せをつかむ為の努力もしないまま、現代社会の中でただ漂流しているように感じられます。
その理由のひとつは、本来信頼できるはずの家族を失ってしまったという喪失感にあるのか。そんな七海がバイト仕事で出会ったレンタル家族にかえって家族らしい親愛感を抱くというのは、現代社会の皮肉という他ないのかもしれません。
本書で一番鍵となるメイド仕事は、ストーリィ全体で終盤の僅かな部分。一緒に暮らして初めて知った真白の凄絶な生き方に、やっと七海は幸せをつかむためには闘う覚悟がいると知ったのではないでしょうか。

それにしても、世知辛い現代社会を背後に描いた、題名からは到底予見できないストーリィ内容でありました。

1.クラムボン/2.花巻/3.カノン/4.赤鬼青鬼/5.結納/6.ランバラル/7.結婚式/8.チョコレート/9.浮気/10.彷徨/11.ホテル暮し/12.アルバイト/13.家族/14.リップ・ヴァン・ウィンクル/15.メイド/16.館/17.ランブルフィッシュ/18.深海魚/19.落日/20.貝と骨/21.母/22.花嫁

          

2.

「零の晩夏 ★★☆   


零の晩夏

2021年06月
文芸春秋

(1800円+税)



2021/09/11



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会社の後輩=浜崎スミレが展覧会で目に止めた一枚の絵。描かれている女性が花音先輩に似ている、と言って来たその絵は<零>という画家が描いた「晩夏」という作品。
そこから始まる、
八千草花音を主人公にした絵画ミステリ。

ゴタゴタに巻き込まれて広告代理店を退職した八千草花音が応募したのは、
季刊誌「絵と詩と歌」の編集部。とりあえず研修生として企画や編集、取材に携わることになります。
その花音が命じられたのが、
“死神伝説”をもつ謎の画家<ナユタ>の取材。先日花音が出逢った卵画廊のオーナー=根津からの要望だという。
花音の取材に協力を申し出てくれたのは、現在塗装工のバイトをしているという、高校美術部の後輩=
加瀬真純、そして浜崎。

根津から紹介された先に取材して回るうち花音の前に浮かび上がってきたのは、ナユタという画家の“死”に執着しているかのような異様な人物像・・・。

“絵画ミステリ”と紹介されていますが、ストーリィ構成はまさに、刑事による探索もの。
つまり、関係者からの事情聴取の積み重ねにより、真実に近づくというスタイル。
そして読み応えは、ナユタ以外の画家、芸術家の作風ドラマにも触れることができる処でしょう。
そしてさらに、ナユタの意外な正体が花音に知らされ・・・。

冒頭の絵から、ストーリィの行き着く処はそれなりに予想がついたのですが、謎だったのは、花音が何故これだけの取材をさせられるのか、という点。そこが本作一番のミステリかも。

絵画ミステリの裏側で、結局本作は長きにわたる○○○でもあった訳ですが、結末に至るまでに数多くのドラマ、細部にまでわたる人間ドラマが詰め込まれていて、実に読み応えたっぷり。満足です。お薦め。


1.絵/2.オフィーリア/3.姿ハ似セガタク/4.絵と詩と歌/5.絵師たち/6.再会/7.ナユタ/8.伴侶/9.カラス公園/10.献体/11.アマラ/12.花の街/13.壁画/14.カナエ日記/15.恒河沙/16.罪子の話/17.コロポックルの骨/18.トリック/19.スケッチブック/20.インタビュー/21.悪霊/22.蔵出し/23.死神/24.絵

    


  

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