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1.貝に続く場所にて 2.月の三相 |
「貝に続く場所にて」 ★★☆ 芥川賞 | |
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芥川賞受賞を機に興味を感じて読んだ作品。 ドイツの学術都市ゲッティンゲンで暮らす主人公の元を、9年前の東日本大震災で行方不明になったままの友人=野宮が訪ねてきます。 同じく大学で西洋美術史を専攻していた澤田から事前に連絡を受けて駅で出迎えたという経緯のため、戸惑うことはなかったというものの、不思議な滑り出しから始まるストーリィ。 舞台となるゲッティンゲンという歴史ある都市がちょっと不思議な処。この街には“惑星の小径”と呼ばれる太陽系の縮小模型が組み込まれている、というのですから。 主人公が抱える、野宮に関する記憶の断片がストーリィ中に散りばめられます。 それは主人公についてだけでなく、この街の知人たちが抱える記憶の断片も同様。 さらに、準惑星に格落ちして撤去された筈の冥王星のブロンズ板が復活しているという話(準惑星になったからといってその存在が無くなる訳ではない)。 記憶の断片が残っている限り、それは事実としてあるのと何ら変わりない、そういうことなのでしょうか。 震災の地から遠く離れた異国の都市という舞台が、如何にも格好です。 どこまでも静謐なストーリィ。僅か 150頁程の作品ですが、驚くほど多くの物語、想いが籠められていて、印象的です。 |
「月の三相」 ★☆ | |
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「貝に続く場所にて」が良かったので、期待して本書受賞後第一作を読んだのですが、正直に言って、お手上げ。 旧東ドイツにある南マインフロートという街。 この街では住民が10歳になると、自らの顔を象った面(肖像面)を作り、それから毎年、変化していく自分の顔を面に写し取らせるのだという。 そんな街で、<肖像のモザイク>と名付けられた写真展の初日、肖像保管所に設立以来勤務しているフランクが所有していた肖像面<フローラ>が失踪したという知らせが届きます。 肖像面の失踪とは何ぞや?という処なのですが、肖像面によっては身体化し、本人とよく似た別の人間として存在していくことがあるのだという。 肖像保管所で<眠り顔>と呼ばれる面の蒐集室担当の望(渡独10年の日本人)、やはり保管所職員で舞踏家でもあるグエット(ベトナム系ドイツ人)、面作家のディオナという3人の女性が、失踪した面に関わっていくというストーリィ。 冒頭から、肖像面に関わり理念的に語られていくという展開。 実際の本人の顔と肖像面にどんな関係があるのか、肖像面とはどのような存在なのか。 そもそも人間の顔とは如何なるものなのか、と考えてしまうのですが、フローラという面が誕生する過去の事情に遡り、また「月の相を表わす三相の面を作ろうと思う」というディオナの言葉にどんな意味があるのやら、まるで理解が追い付かず、お手上げ状態のまま読了してしまった、という結果。 何らかの意味があるのでしょうけれど、ここを乗り越えれば理解に至る筈という壁を、結局乗り越えることができなかった、という読後感です。・・・消化不良。 |