石川英輔作品のページ


1933年京都府生、国際基督教大学、東京都立大学理学部中退。ミカ製版(株)取締役、武蔵野美術大学講師。76年「SF西遊記」にて作家デビュー。江戸時代を題材にしたエッセイを主に執筆。


1.
大江戸生活事情

2.大江戸神仙伝

3.大江戸仙花暦

4.大江戸妖美伝

5.江戸人と歩く東海道五十三次

 ※ 夢筆耕(藤水名子監修「しぐれ舟」収録)

  


   

1.

●「大江戸生活事情」● 

1987年
コスカ出版
1993年
評論社
(「江戸空間」)

1997年01月
講談社文庫刊
(改題)

1997/04/05

江戸社会の入門書としては、気軽に読めて楽しめるという、格好の一冊。

江戸社会は暗かったという明治以来の主張に対して、それは事実と異なるという主張と、むしろ現代社会より優っていた部分も多かったという著者の見解が根底にある分、肯定的な読み物となっているのは否定できない。でも、それは大江戸神仙伝以来のことであり、いまさらどうのこうの 言う話でもない。
江戸の風俗、生活を物語る絵もところどころ挿入されているばかりか、場所場所で現代と江戸期を比較できる地図を左右の頁に挿入しているのが有り難い。

   

2.

●「大江戸神仙伝」● ★★

 
大江戸神仙伝画像
 
1992年評論社
1979年講談社

1983年11月
講談社文庫刊

1999/10/23

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主人公・速見洋介は、或る日突然に、東京の日本橋から 江戸時代の日本橋へタイムスリップしてしまいます。
原因の判らないまま、洋介は江戸時代での生活を余儀なくされます。しかし、その江戸は、予想していたより遥かに快適で、居心地の良い社会でした。当然の如く、洋介は江戸社会を見聞し、現代東京と比較観察するようになります。

この作品は、一見タイムトラベル小説のようですが、内容としては、江戸社会への旅行記、見聞記というものです。ちゃんばらや、極悪非道の悪人など出てこない代わりに、若く魅力的な辰巳芸者・いな吉をはじめ、医者の北山涼哲多恵の夫婦等、つき合うに気持ちの良い人々が 登場します。
この作品の実態はといえば、江戸時代の社会と現代社会との文化比較論に他なりません。洋介が展開するミクロコスモス論は、その象徴と言えます。
小説としての面白みを求めるならともかく、江戸社会へ親しみを抱く人であれば、読んでとても楽しい一冊です。

いな吉江戸暦画像

※この作品はシリーズ化しています。 続編は下記のとおり。(いずれも講談社文庫に収録済)

 2.大江戸仙境録
 3.大江戸遊仙記
 4.大江戸仙界紀
 5.大江戸仙女暦
(「いな吉江戸暦」を改題)
 

   

3.

●「大江戸仙花暦」● 


大江戸仙花暦画像

1999年12月
講談社刊

(1600円+税)

2002年12月
講談社文庫化

 

1999/12/31

シリーズ第6作目。今回の特色は、石川さん自身が蒐集等による江戸原画が60点余り挿入されていて、ちょうど挿絵のようになっている点にあります。
したがって、小説というより、江戸の生活事情案内という傾向がいっそう強く、原画に沿って話が展開されていると言っても過言ではありません。文章と原画があいまって、江戸の生活事情を視覚的に知ることができます。本シリーズの中にあって、新しい試みの一冊。石川さん自身、“空前の企画”と自負しているとのことです。
本シリーズは、第1作目の
大江戸神仙伝が刊行されてから既に20年が経つそうです。それだけの長い年月にわたるシリーズですから、マンネリ化しているのも当然です。でも、その一方で、主人公・速見洋介、江戸の粋な芸者・いな吉、医師・北山涼哲ら登場人物との邂逅が楽しく、ずっと読み続けているのです。
今回は、絵のおかげでまた違った楽しみがありました。

本書では、まず手習い塾の様子から始まり、長屋差配および自身番の仕組み、七代目団十郎に招待された木場周辺(当時は風光明媚で絶好の別宅地だったそうです)、向島の様子が案内されます。さらに、町火消しと纏持ちのこと。
最後は、品川・高輪海岸の料亭での二十六夜待ち26日夜半の月の出を待つ行事)で締めくくられます。
江戸の風光明媚さ、季節毎の行事は、現在では想像できないような楽しみだったのだろうなあと、今回も羨望しつつ読了。

   

4.

●「大江戸妖美伝」● 


大江戸妖美伝画像

2006年02月
講談社刊

(1700円+税)

2009年03月
講談社文庫化

2006/08/05

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7年ぶりのシリーズ第7作目。
前作から時間が空いてしまったのは、奥さんが亡くなられた後石川さんが小説を書けなくなってしまった、という事情があった為とのことです。

小説というよりもはやこのシリーズは、タイムスリップをネタにした江戸生活の見聞記。
なじみの江戸の世界、粋な辰巳芸者・
いな吉のいる時代に、主人公・速水洋介と共に久し振りにやってきたという感じです。

本書で描かれるのは、雛人形の市の様子、潮干狩りの様子等々。そしてちょっと変わったところで、大藩・戸田家の当主と先代藩主の正室と親しくなって悟った、江戸時代の身分制度にかかる興味深い特徴のこと。
江戸時代、武士と町人等の間の身分差は大きかったが、身分の高い方こそ制約多く不自由で、おまけに御家人階級になると生活が苦しかったということ。身分の高い階級が横暴に振舞った結果革命が生じた西欧社会とどんなに対照的な身分社会だったことか、という指摘は面白いものでした。

    

5.

●「江戸人と歩く東海道五十三次」● ★☆


江戸人と歩く東海道五十三次画像

2007年09月
淡交社刊

2010年10月
新潮文庫刊

(400+税)

  

2011/04/08

  

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江戸から京の都まで、江戸時代の当時、五十三次旅の実態はどうだったのか、を語った一冊。
時代小説好き、旅好きには、貴重な道案内となる一冊。楽しかったです。

一口に江戸時代といっても、その期間は 256年にわたります。したがってその最初の頃と、最後の方ではだいぶ旅事情も異なる訳ですが、江戸時代の繁栄時期、街道を旅する人間は予想以上に多かった、とまず石川さんは指摘しています。
考えてみれば、さもありなん。
まずは、当時の交通事情、宿泊事情をひととおり語ってから、いよいよお江戸・日本橋を早立ちし、東海道五十三次の旅に出発です。
なお、「早立ち」というその時間、5月頃なら早朝というより夜中というべき午前2時半頃だったというのですから、驚かされます。

「東海道五十三次を歩く」は、実際に歩いて旅するように、一宿一宿の様子、その途中の風景等が語られていきます。
そのため、五十三次の旅模様が、ヴァーチャル(挿入されている図絵と読者の想像力)で繰り広げられていくようです。
半月もの間歩き詰めでようやく辿り着く京の都、単に大変だと思うか、だからこそ旅の楽しさもある、旅のし甲斐がある、と思うかどちらでしょう。
いずれにせよ、現代の新幹線のような味気ない旅とは、全く異なる旅であったことは間違いないですよね。

旅好きだったご先祖/江戸の旅に出る前に/女も子供も旅に出る/東海道五十三次を歩く/旅を支えた江戸の平穏

    


 

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