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1.百年泥 2.ティータイム |
「百年泥」 ★★ 新潮新人賞・芥川賞 | |
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騙されて多重債務を負わされてしまった主人公、取立屋らから逃げ出すように、元夫が紹介してくれたインドでの日本語教師の道に飛びつきます。 そしてチェンナイ生活3ヶ月半にして遭遇したのは、百年に一度という大洪水。 水が引けた後に残ったのは、夥しい泥。 その百年泥の中から住民たちが引きずりだしたものは、その間に死んだり行方不明になっていたりした友人や家族・・・・。 百年泥、それは混沌そのものと言って良いでしょう。 現地の人々の摩訶不思議な過去が引きずり出されるだけでなく、主人公の日本時代の回想、そして泥の中から見つかった大阪万博のメモリアルコインがある物語を語り出す・・・。 現実と非現実が巧妙に組み合わされたストーリィ。 混沌というと、とかく訳の分からぬ重さを感じてしまうのですが、本作はそこがカラッとしていてすんなり読んでいけるところが楽しい。 それは主人公において、自分に自信がなく、この世界で底に位置していて皆を見上げるようにして見ている所為なのかもしれません。 石井さん自身のインド・チャンナイでの生活が、きっと本作品の養分になっているのだろうと思います。 |
「ティータイム」 ★★☆ | |
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これってホラー? でも笑ってしまう処あり。 これはもう、語りの上手さ故でしょう。ゾクゾクッと惹きつけられる、奇想を含んだ4篇。 程度の差こそあれ、どの篇も主人公がよんどころない状況に置かれている、という点で共通します。 そこから抜け出せるのか、抜け出せないのか。そこは各篇の趣向により異なります。 もちろん、抜け出せそうな気配を感じる2篇の方が、成長物語といった要素も感じられて、ホッとさせられます。 ・「ティータイム」:温泉地の中級旅館で住み込み仲居として働く明里。しかしこの旅館、長老格の仲居は暴言ばかり吐いてろくに働かないし、番頭たちはサボってばかり。明里がその割を喰ってばかりなのは、相手にきちんと抗議できないから。 その明里の懐に入り込んできたのは、夏休みだからとやってきた先輩仲居の子ども2人。素直そうだったのに、実は悪辣なその母子。明里は目を覚まして自分を変えることができるのか。 ・「奇遇」:夜の埠頭でくつろぐ明良は、外国航路の客船でウェイター試用期間中。そこに話しかけてきたのは、貨物船でインドから来たというクリシュナ。この二人の来歴話がそれぞれ面白いのですが、そんな結末が待っていようとは・・・。 ・「網ダナの上に」:特別列車<借馬>の網棚に居座っているのは、轢死した女子=早紀の魂魄。車内販売員の青木ひとみを網棚の上からいつも見下ろしています、或る機会を狙って。 ファンタジーというより怪異? 轢死するまで、また轢死ぶりも悲惨極まりない。結局、目的は果たせたのか。 ・「Delivery on holy night」:いやーとんでもないサンタを創り出したものです。このサンタ、主人公である智史の願いを叶えただけ、智史にご褒美を、とはいうものの、発想が人間離れしていてかつ独善的というブラックさ。おかげで智史、とんでもない人生を送ることになるのですが、最後にやっと開き直り? いやいや笑えます。まさにブラック・ファンタジー。 ティータイム/奇遇/網ダナの上に/Delivery on holy night |