乾くるみ作品のページ


1963年静岡県生、静岡大学理学部数学科卒。98年「Jの神話」にて第4回メフィスト賞を受賞し作家デビュー。


1.
イニシエーション・ラブ

2.物件探偵

3.ジグソーパズル48

  


 

1.

「イニシエーション・ラブ」 ★★


イニシエーション・ラブ

2004年04月
原書房刊
(1600円+税)

2007年04月
文春文庫化



2005/04/21



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主人公である大学4年生の僕(たっくん)は、合コンで知り合った彼女(マユ)から誘われるようにして付き合い始め、やがて恋人関係となります。それが前半。
後半は、僕が彼女の傍にいたいと地元静岡で就職したにもかかわらず2年間の東京勤務を命じられ、長距離恋愛故の難しさにぶつかってしまうという展開。

初めての恋愛が一歩一歩進んで実っていく様子、遠距離恋愛の難しさが一つ一つ現れていく展開には、初々しい喜びが、そしてホロ苦さが感じられ、つい夢中になって読んでしまいます。
そんな気分が吹っ飛んでしまうのは、最後の頁での一言。思わず動転し、もう一度最初の頁に戻ってストーリィを読み直さざる得なくなります。
作者の仕掛けた爆弾が最後の最後に炸裂したというところなのですが、思えばその予兆はあったのです。はっきり意識しないまでも潜在的にはもしかすると、というものを感じていたのです。
改めてストーリィ全体を見直すと、別の面が現れてきます。

ただ、その仕掛けが本ストーリィをさらに面白くしたか、感動をもたらしたか、というと疑問。仕掛けは単に仕掛けであるというに留まった気がします。
題名の「イニシエーション」とは、「通過儀礼」の意とのこと。子供から大人になるための通過儀式のような恋愛を描いた、ということです。
本作品はイニシエーション・ラブを描いたストーリィかと思いきや、イニシエーション・ラブのその後も描いたストーリィだったと言えるでしょう。
思わず動転してしまうような仕掛けを体験したい方には、お薦めです。

     

2.

「物件探偵 ★★


物件探偵

2017年02月
新潮社

(1400円+税)

2021年01月
新潮文庫



2017/03/17



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中古不動産物件の売買に絡む、不可思議な出来事、ちょっと奇妙な出来事の謎解きもの。
ちょっと毛色が変わっていますが、連作ミステリと言って誤りではないでしょう。

中古物件となれば、何か問題があっても不思議ない・・・かもしれません。
リアルな背景の中で異色ミステリを楽しめると同時に、中古物件を買う時の注意事項も学ぶことができるという、まさに一挙両得の一冊。
そのうえ、探偵役が実にユニークなのです。
各章の主人公たちが困惑したりする時、ふとドアを開けると、目の前にいきなり見知らぬ女性の姿が目に入ります。
それは30歳手前の小柄女性。
不動尊子(たかこ)と名乗り、自己紹介して曰く、中3で宅建試験に合格、数多くの不動産を見続けている内に、物件の声が聞こえるようになった、と。

「田町 9分1DKの謎」:利回り重視、投資目的で中古マンションを購入したのですが、購入直後に賃借人が退去・・・。
「小岩20分一棟売りアパートの謎」:満室の筈なのに、何故空室ありと広告されているのか。
「浅草橋 5分ワンルームの謎」:誰によるものか、急にいやがらせ? それはなぜ起きたのか。
「北千住 3分1Kアパートの謎」:小さな書店を営む主人公の支えは所有しているアパート。何故立て続けに退去者?
「表参道 5分1Kの謎」:中古マンションを購入しようとしたところ、新幹線の座席等々残置物の多さにびっくり。
「池袋 5分1DKの謎」:ペンシルビル最上階のメゾネット。ただし、前の住人が首つり自殺した事故物件。主人公は全く気にならないと購入を決めますが、本当に大丈夫か?

異色の謎解きという面白さ。十分楽しめました。

田町9分1DKの謎/小岩20分一棟売りアパートの謎/浅草橋5分ワンルームの謎/北千住3分1Kアパートの謎/表参道5分1Kの謎/池袋5分1DKの謎

      

3.

「ジグソーパズル48 ★☆


ジグソーパズル48

2019年03月
双葉社

(1400円+税)



2019/04/24



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私立曙女子高等学校、その生徒たちを主役に据えた、連作スクールミステリ。

ジャンルとしては日常ミステリに入るのでしょうけれど、各章の趣向は様々。ミステリという単純な枠には収まり切りません。そこが魅力。

「ラッキーセブン」:カードゲームの勝負において7人各自の推理力が問われますが、ストーリィ仕立ては何とホラー!
「GIVE ME FIVE」:カラオケルームで、高価な苺一粒が消え失せてしまいます。犯人は同級生2組、計5人の内の誰れかか?
「三つの涙」:独身女性の殺人事件。刑事、関係者2人の娘3人が偶然にも同級生。さて犯人は・・・。
「女の子の第六感」:頼まれた福引に外れた筈なのに、何故彼女はその商品であるスマホケースを持っているのか?
「マルキュー」:個性豊かな問題児を集めたクラスが、マルキューこと各学年9組。父親が詐欺に合い困窮することになった同級生に奨学金をと力を合わせるのですが・・・。
「偶然の十字路」:防音棟内の十字路で、女生徒が昏倒。いったい何があったのか?
「ハチの巣ダンス」:置き忘れたスマホをネタに男から恐喝電話。持ち主である同級生のためスマホを取り返してやろうと、7人がチームワークを組みます。

趣向の多彩さも楽しめますが、本作の魅力は女子高生たちにあるといって過言ではないでしょう。
ちょっとしたことで妬みが生まれたり、行き違いから関係がぎくしゃくしたりすることもありますが、逆に皆が強力なタッグを組んで同級生のために奮闘する、ということもある。
それでこそ、高校の同級生という関係でしょう。

個性的な名前と、個性的なキャラクターの持ち主ばかり。
また、個性的な生徒ばかりを集めた“マルキュー”という発想がおもしろい。
特に「偶然の十字路」と「ハチの巣ダンス」が面白かったです。

1.ラッキーセブン/2.GIVE ME FIVE/3.三つの涙/4.女の子の第六感/5.マルキュー/6.偶然の十字路/7.ハチの巣ダンス

   


  

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