一原みう作品のページ


「水恋花」にて 第160回コバルト短編小説新人賞受賞後、2013年「大帝の恋文」にてロマン大賞を受賞し作家デビュー。代表作にコバルト文庫「嘘つきたちの輪舞」、“錬金術師”シリーズ、“妖精の庭”シリーズ等。

 


                   

「祭りの夜空にテンバリ上げて ★★☆


祭りの夜空にテンバリ上げて

2021年03月
集英社
オレンジ文庫

(640円+税)



2021/06/27



amazon.co.jp

深窓の令嬢になり切ろうとしていた主人公=西脇渚・23歳が、テキヤ(露天商)だった父親の突然の死により、その借金返済のため嫌っていた<たこ焼き>商売に奮闘する、という痛快ストーリィ。

そもそもテキヤの父親=
広瀬尊と由緒正しい深窓の令嬢だった母親=西脇清子が恋愛結婚したということが、本ストーリィの出発点。
父親がテキヤということで悲哀を味わい続けて来た渚、5年前に両親が離婚したのを機にテキヤと決別、したつもりだった。

テキヤの親方から父親の借金返済を督促され、このままでは父親が居候させていた3人が住む処に苦労することになるからと、父親に代わって返済すると明言。してその方法はというと、父親が伝説の名人と評判を取っていた<たこ焼き>しかなし。

考えるより先に言葉が飛び出してしまう意地っ張りな性格、そして決断力、行動力を備え、さらには窮地に追い込まれるほど大胆な発想をする処等々と、如何にもテキヤ向きの性格なのです、主人公の渚は。
そこからの行動が面白く、まさに読み応えたっぷり。

SNSが当たり前、コロナ下で祭りが行われない苦境下、テキヤだって時代に合わせた新しい発想が必要だというのに、頭の固いオジサンたちが今までどおりに固執して渚の挑戦に反対するという展開は、どこの世界でも変わらないですねぇー。
それでも負けずに発想を打ち出し続けるところが痛快です。

コロナ下の苦境を何とか打開しようとする奮闘記、だからこそ陰鬱さを突き飛ばしてくれるような気持ち良さがあります。
お薦め!

「テンバリ」とは露天商用語で、屋台の屋根の幕のこと。「テンバリを上げる」とは、商売を開始する、お祭りが始まる、という意味との由。

        


   

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