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4.正義のミカタ 5.WILL 6.at Home 8.dele |
●「MOMENT」● ★☆ |
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2005年09月
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順番が逆になりましたが、「WILL」を読んで主役の2人が気に入ったので、その7年前の物語だという本書を読んだ次第。 死を間近にした入院患者の最後の願いを掃除人の一人が一つだけ叶えてくれるという“必殺仕事人伝説”。 うかうかと相手を信じて簡単に騙されている、お人好しでどこか抜けている感じのある主人公に対し、病院の掃除というバイトを紹介してくれた幼馴染の森野。若い女性でありながら葬儀店を親から引き継いだために繁々と病院を訪れている森野が、主人公と対照的な冷めたリアリストとして各篇に登場します。 率直に言って「WILL」と比較すると、神田も森野も人物造形として薄っぺらな感じがします。「WILL」の方がもっと味のある人物になっていると思う。 FACE/WISH/FIREFLY/MOMENT |
●「FINE DAYS」● ★☆ |
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2006年07月 2013年04月 2003/08/24 |
ラブ・ストーリィに、不可思議な要素が付け加わった4篇。 一口にラブ・ストーリィと言っても、主人公の思い出だったり、父親の過去における恋愛物語だったり、現在とストーリィだったりと様々。それに加えて不可思議要素も、軽いホラーに始まり、タイム・トラベル、不気味なホラーから、ファンタジーなものまでと、これもまた様々。 4篇の中では、表題作の 「FINE DAYS」が、衝撃的な結末故に最も印象に残ります。ほろ苦い高校生活+ちょっとホラー・ミステリという趣向。 FINE DAYS/イエスタデイズ/眠りのための暖かな場所/シェード |
●「真夜中の五分前
side-A・B」● ★☆ |
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2007年07月
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2冊セットで刊行された恋愛小説。2年という時間を隔てて2つのラブ・ストーリィが語られます。 まず「side-A」は水穂を失った6年後。主人公は中小広告会社に勤めるフツーの若者になっています。 恋愛とはそもそもどういうものなのか。恋人を失った時、人はどう感じ、行動するものなのか。愛はずっと続くものなのか。 |
●「正義のミカタ 〜I'm a loser〜」● ★★ |
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2010年06月
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高校時代を酷いいじめられっ子でずっと過ごしてきた蓮見亮太。 正義の味方? その言葉から思い出すTVのキャラクターはおよそ無尽蔵。子供時代、正義の味方が実際にいたらどんなに良いだろうと思ったことは幾度もあり。でも成長するにつれ、世の中そんな簡単なものではないことが判ってくるに従い忘れていった存在です。 そんな亮太を主人公に、これまでにない趣向で描く大学生版青春ストーリィ。 |
●「WILL」● ★★ |
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2012年03月
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今は亡き父親が営んでいた森野葬儀店。18歳の時に両親が突然事故死、流されるままに稼業を継いで、11年が過ぎた。 死者にまつわる様々な謎あるいは事件を、葬儀屋=森野が遺族のために解決するという、ミステリ風味の連作風ストーリィ。 葬儀屋が探偵役を勤めるという趣向、若い女性であるにも関わらず乱暴な森野の言葉遣いも味わい豊かなのですが、死者と残された遺族の想いを描くドラマである点が、やはり本物語のミソでしょう。 ※本書は「MOMENT」から7年後の物語という。その「MOMENT」は未読、近い内に読んでみようと思います。 プロローグ/空に描く/爪痕/想い人/空に描く(REPRISE)〜エピローグ |
6. | |
●「at Home」● ★★☆ |
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2013年06月
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あ、いいな、これ・・・と、読み始めてすぐ感じた一冊。 4篇とも家族小説なのですが、フツーの家族小説ではなく、型破りな家族小説。その象徴となるのが表題作「at Home」。 「リバイバル」「共犯者たち」の2篇は、いずれも家族という形が崩壊した後の家族物語。だからこその味わいあり。 at home/日曜日のヤドカリ/リバイバル/共犯者たち |
7. | |
「Good old boys」 ★★☆ |
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2019年05月
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少年サッカーチームを背景にした、子供たち、そして父親たちの物語。 「牧原スワンズ」は市内最弱、中でも現在の4年生チームはその中でも最弱という評判のチーム。 親からしてもチームの様子は緩いとしか見えないのですが、監督やOBからなるコーチたちはそれに何の批判もしない。また、過去勝ったことさえないという戦歴にもかかわらず、メンバー8人の子供たちは仲が良いし、本当に楽しそうなのです。 しかし、そんな子供たちのプレーぶりを見守る父親たちの思いはそう単純ではない。 家庭内に屈託を抱えながら息子を見ている父親もいれば、元サッカー選手の父親は息子のサッカー能力をもっと高めてやらなければと思う父親もいる。また、仕事上の悩みを抱えている会社員もいれば、日本人女性と結婚して来日したブラジル人の父親は居場所がないという思いを抱えています。 サッカー素人の父親も多くいれば、サッカー経験があるからこそ息子に厳しく当たってしまうという父親もいて、皆で仲の良い子供たちと対照的に、一様に「〇〇〇パパ」と呼ばれていても父親たちの姿は様々です。 8組の親子を順々に描いた連作風の長編。 読んでいて気付くことは、子供だからといって親の思うままにできる訳ではないこと。その一方、子供たちは父親の背中を見ていて、良くも悪くもそれに影響を受けているということ。 逆に、子供たちを見ていて親が学ぶ、という関係も描かれています。 要は、親子とは互いに影響を及ぼし合う関係だということを、改めて教えられた気がします。それは、守ってやらなければならない存在であると同時に、別の人格であり尊重する必要もあるのだということ。 本書を読んで、自分は父親としてどうなのか、とつい振り返ってしまう方はきっと多いだろうと思います。 最後、子供たちが子供たちだけで考え、実行して、一歩ステップアップする場面は、爽快な感動があります。 勝ち負けにこだわるより、サッカーは楽しくやらなければダメという一人の父親の言葉には説得力あり。そして子供たちが自主的に行動して成長する姿は、たとえ結果がどうであろうと、嬉しいものですから。 父親と子供たちそれぞれの成長ストーリィ。お薦めです。 ※なお、8人のメンバーの中、走りたくないからキーパーというダイゴのキャラクターも可笑しいのですが、それ以上に魅力的なのはダイゴの妹である幼い美佳りん。すごく可愛らしい。 是非スワンズのマスコットガールに推薦したい位です。 プロローグ/1.ユキナリ/2.ユウマ/3.ヒロ/4.リキ/5.ショウ/6.ダイゴ/7.ハルカ/8.ソウタ/エピローグ |
8. | |
「dele ディーリー」 ★★ |
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2018年05月
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あなたの死後に依頼されたデータを削除します、そんな依頼を請け負う会社“ディリー・ドット・ライフ”。 もっとも社員は、所長兼唯一人の事務員であった坂上圭司と、新しく雇われた真柴祐太郎の2人だけ。 さらに、圭司の姉で同じビルの階上に弁護士事務所を開いている坂上舞から家賃を無料にしてもらっているという状況で、果たして事業として成り立っているのか少々疑問に感じるような状況。 主人公は、新入り社員の真柴祐太郎。 依頼人が死んだらさっさと依頼通りにデータを削除する、依頼人の意思に従って削除しなければならない、というのが至極もっともな圭司の方針。 それに対し、遺された遺族のために、時にはその内容を確かめた方が良いのではないか、というのが祐太郎の考え。 2人が意見対立し、お互いに妥協し合うところから、車椅子姿の圭司に代わって祐太郎が依頼人の事情を調べる、そうしたところから語られる5篇の連作風ミステリ。 今やPC、スマホに大事なデータを保管しているの当たり前。であれば、そのデータを自分の死と共に削除して欲しい、そうしたニーズは至極当たり前のように思います。その点において、如何にも現代的なストーリィ。 私だったらどちらの道を選択するか・・・圭司だろうなぁ、やっぱり。 ・「ファースト・ハグ」:28歳で殺害された新村拓海が抱えていた思いは? ・「シークレット・ガーデン」:大手ゼネコンの役員だった安西達雄が削除を望んだのは、白いワンピース姿の女性の写真? ・「ストーカー・ブルーズ」:交通事故で昏睡状態にあるコミュ障青年=和泉翔平の胸の内には、どんな思いがあったのか? ・「ドールズ・ドリーム」:5歳の娘を残して余命僅かな渡島明日香が削除を依頼したデータとは? ・「ロスト・メモリーズ」:投資顧問会社に勤務し、長く無料学習塾を開催していた広山達弘が死んだ今、息子の輝明は20百万円の資金が消えていると焦慮中。 ファースト・ハグ/シークレット・ガーデン/ストーカー・ブルーズ/ドールズ・ドリーム/ロスト・メモリーズ |
9. | |
「こぼれ落ちる欠片のために Praying for the Spilled pieces」 ★★☆ |
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異色の警察小説と言って良いでしょう。なにしろ、警察にまで疑いの目を向けるのですから。 主役となるのは、和泉公輝(こうき)と瀬良朝陽(あさひ)という、県警捜査一課強行犯係ではまだ新米と言える二人。 管内で起きた3つの事件、その捜査で二人がコンビを組みます。 ただこの二人、対照的。とくに瀬良朝陽、交番勤務時代に“職質の女神”という異名を取ったにも関わらず、極端にコミュニケーション能力を欠く。相棒となった和泉と目も合わさない程。 でも二人には共通点がひとつあります。それは互いに、怖いという思いを抱えていること。 和泉は、犯罪が怖い。一方の瀬良は、人が怖い。 犯罪、犯罪を犯す人が怖いというのは、刑事としては異端かもしれませんが、ストーリーとしては理解できます。 しかし本作は、そのうえに、警察、刑事たちの怖さも描き出している処が、異色と感じる故です。 ストーリー中、ベテラン刑事が和泉に対して明言します。 警官の仕事とは「被害者の罪を最大化すること」だと。 何と恐ろしいことか。強権力を持っている警察が本気で襲い掛かってきたら、抵抗などできようもない、警察の怖さとはそういうこと。冤罪が生まれるのも、そうした処に一因があるのではないか、と思えてきます。 そうした警察の怖さを引き出したのは、和泉と瀬良という二人がいてこそです。 「イージー・ケース」と「ノー・リプライ」は殺人事件。 「ホワイト・ポートレイト」は小学生男児失踪事件。 殺人事件は捜査員たちの奮闘により、犯人が特定され、解決となります。しかしそこにはまだ、隠れた、零れ落ちた欠片のような事実が潜んでいます。 それを感じ取るのが瀬良であり、具体的に動いてそれを明らかにするのが和泉。 このコンビが事件の陰に見出すもの、これからも是非見たい、と思います。 お薦め。 イージー・ケース/ノー・リプライ/ホワイト・ポートレイト |