本多孝好作品のページ


1971年東京都生、慶應義塾大学法学部卒。94年「眠りの海」にて第16回小説推理新人賞を受賞。99年受賞作を収録した「MISSING」にて作家デビュー。
他に長篇作品「ALONE TOGETHER」「チェーン・ポイズン」、連作ミステリ作品「MOMENT」あり。


1.MOMENT

2.FINE DAYS

3.真夜中の五分前 side-A・B

4.正義のミカタ

5.WILL

6.at Home

7.Good old boys

8.dele

  


   

1.

●「MOMENT」● ★☆


MOMENT画像

2002年08月
集英社刊

(1600円+税)

2005年09月
集英社文庫化



2009/12/29



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順番が逆になりましたが、WILLを読んで主役の2人が気に入ったので、その7年前の物語だという本書を読んだ次第。

死を間近にした入院患者の最後の願いを掃除人の一人が一つだけ叶えてくれるという“必殺仕事人伝説”
そんな噂が密やかに伝えられている病院で掃除人のアルバイトをしている大学生、というのが本書の主人公=神田
その噂の仕事人が神田のことを差すのかどうか定かではないままに、神田、そんな入院患者の願いを聞いてできる範囲で応じようとする。
仕事人に最後の願いを叶えてもらいたいと願う入院患者と、それに関わる神田を描いた連作短篇集。
感動的なストーリィにならないのは、依頼したのが一癖も二癖もある人物で、神田に話した内容が真実という訳ではないから。

うかうかと相手を信じて簡単に騙されている、お人好しでどこか抜けている感じのある主人公に対し、病院の掃除というバイトを紹介してくれた幼馴染の森野。若い女性でありながら葬儀店を親から引き継いだために繁々と病院を訪れている森野が、主人公と対照的な冷めたリアリストとして各篇に登場します。

率直に言って「WILL」と比較すると、神田も森野も人物造形として薄っぺらな感じがします。「WILL」の方がもっと味のある人物になっていると思う。
キャラクターもストーリィも「WILL」に比べると、イマイチという印象。
ただそれは、神田も森野も7年の間に人間として成長した、ということなのかもしれません。
本作品では森野、神田の脇役に過ぎませんが、何故かその存在、すごく気になるのです。

FACE/WISH/FIREFLY/MOMENT

  

2.

●「FINE DAYS」● ★☆

FINE DAYS画像

2003年03月
祥伝社刊

(1600円+税)

2006年07月
祥伝社文庫化

2013年04月
角川文庫化

2003/08/24

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ラブ・ストーリィに、不可思議な要素が付け加わった4篇。

一口にラブ・ストーリィと言っても、主人公の思い出だったり、父親の過去における恋愛物語だったり、現在とストーリィだったりと様々。それに加えて不可思議要素も、軽いホラーに始まり、タイム・トラベル、不気味なホラーから、ファンタジーなものまでと、これもまた様々。
4篇各々目先の変わったストーリィですが、その分かえってストーリィへの親しみが生まれにくい、という気がします。ただし、一人称で語られる各篇の主人公はそれぞれに魅力あり。
そして、きめ細かな文章が印象的です。

4篇の中では、表題作の 「FINE DAYS」が、衝撃的な結末故に最も印象に残ります。ほろ苦い高校生活+ちょっとホラー・ミステリという趣向。

FINE DAYS/イエスタデイズ/眠りのための暖かな場所/シェード

       

3.

●「真夜中の五分前 side-A・B」● ★☆
    five minutes to tomorrow


真夜中の五分前画像

2004年10月
新潮社刊

(各1200円+税)

2007年07月
新潮文庫化



2005/03/30



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2冊セットで刊行された恋愛小説。2年という時間を隔てて2つのラブ・ストーリィが語られます。
主人公は、学生時代に恋人・水穂を交通事故で亡くした青年。彼の一人称でこの物語は語られていきます。

まず「side-A」は水穂を失った6年後。主人公は中小広告会社に勤めるフツーの若者になっています。
彼がちょっと他と違うのは、自分の周囲への関心が薄いこと。だからこそ、誰もが嫌がる辣腕家の女性上司に平気で仕えている。その原因は、19歳で死んだ恋人・水穂の、時計を5分遅らせるという習慣からもたらされたものなのか。
そんな主人公だからこそ、新たに親しくなったかすみという女性と付き合っていけるのかもしれません。かすみは一卵性双生児の片割れで、今なお失恋の痛手に苦しんでいる女性。
普通の人であれば重要事であることを、都会の中を拭きぬけていく風のようにこの主人公は受け流していく。そんな雰囲気が印象的です。
そして物語は「side-A」をプロローグのようにして、「side-B」へと引き継がれていきます。その「side-B」は、かすみと知り合った2年後の物語。

恋愛とはそもそもどういうものなのか。恋人を失った時、人はどう感じ、行動するものなのか。愛はずっと続くものなのか。
本書の主人公は、それらの感情をまるで何処かに置き忘れてきてしまったかのようです。
5分の遅れとは、それを象徴しているのかもしれません。
そんな主人公を中心軸にして描く、ちょっとセンチメンタルなラブ・ストーリィ。

 

4.

●「正義のミカタ I'm a loser」● ★★


正義のミカタ画像

2007年05月
双葉社刊

(1500円+税)

2010年06月
集英社文庫化



2007/06/10



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高校時代を酷いいじめられっ子でずっと過ごしてきた蓮見亮太
三流大学とはいえやっとの思いで入学した飛鳥大学で、これから大学生活を満喫できると思いきや、高校時代のイジメ男が同じ大学とは! イジメの再現というところを救ってくれたのが、ボクシングでインターハイ三連覇を成し遂げたという桐生友一
そのトモイチから誘われ、亮太は“正義の味方研究部”なるサークルに入部することになります。

正義の味方? その言葉から思い出すTVのキャラクターはおよそ無尽蔵。子供時代、正義の味方が実際にいたらどんなに良いだろうと思ったことは幾度もあり。でも成長するにつれ、世の中そんな簡単なものではないことが判ってくるに従い忘れていった存在です。
それが大学キャンパス内であろうと復活するのですから、魅せられるところがあります。
新入部員の2人を迎えた先輩4人もなかなかの猛者。正義の味方研究部がちょっと逸脱した大学生達を懲らしめる前半の部分は、なかなか面白いものがあります。
しかし、それがキャンパスを越えるような問題に至ったときはどうなのか。正義である、正義ではないって、そんなに簡単に決め付けられるものか。正義の味方と名乗って相手を倒すだけで問題は解決するものなのか。
元いじめられっ子で、今も本質的にはいじめられっ子気質を抱え続けている亮太だからこそ、“正義の味方”をそう単純に信じきることは出来ないのでしょう。
そこにこそ本作品の読み処があります。その意味で、本物語はちょっと良い話。

そんな亮太を主人公に、これまでにない趣向で描く大学生版青春ストーリィ。
しがないサラリーマンの父親、自分を持て余していたトモイチ、同級生の蒲原里香と、亮太だけでなく一人一人が何らかの葛藤を抱えていた。そんな人間群像が亮太の背景に描かれている点も、本書の魅力です。

  

5.

●「WILL」● ★★


WILL画像

2009年10月
集英社刊

(1600円+税)

2012年03月
集英社文庫化



2009/11/29



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今は亡き父親が営んでいた森野葬儀店。18歳の時に両親が突然事故死、流されるままに稼業を継いで、11年が過ぎた。
そんな森野に、葬儀を終えた遺族から次々と死者にまつわる相談事が持ち込まれ、その解決を森野が引き受けることになります。
葬儀屋が何でそんなことまで?というと、死者をきちんと弔い、遺族の心を納得させるのが仕事だから、とのこと。

死者にまつわる様々な謎あるいは事件を、葬儀屋=森野が遺族のために解決するという、ミステリ風味の連作風ストーリィ。
しかし、本作品は単なる連作短編小説ではありません。
両親の突然の事故死に呆然と立ちすくむ高校生の森野を描いたプロローグ。そこから始まる、父親にとって自分はいい娘だったのだろうかと問い続けるドラマが、全篇を通して描かれます。
さらに、冒頭の「空に描く」で森野が関わった同級生の家族ドラマは、その1篇で終わらず、その最終解決は最後の篇まで持ち越されます。
そんな3層構造のストーリィが、お見事。

葬儀屋が探偵役を勤めるという趣向、若い女性であるにも関わらず乱暴な森野の言葉遣いも味わい豊かなのですが、死者と残された遺族の想いを描くドラマである点が、やはり本物語のミソでしょう。
死者をきちんと悼みたいという気持ちが貫かれているストーリィだからこその味わい良さ、と感じます。
並行して描かれる、同じ商店街の文房具屋の息子で現在はアメリカに住む神田と森野の関係、その優しさにも心惹かれるものがあります。

※本書はMOMENTから7年後の物語という。その「MOMENT」は未読、近い内に読んでみようと思います。

プロローグ/空に描く/爪痕/想い人/空に描く(REPRISE)〜エピローグ

       

6.

●「at Home」● ★★☆


at Home画像

2010年10月
角川書店刊

(1500円+税)

2013年06月
角川文庫化


2010/12/10


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あ、いいな、これ・・・と、読み始めてすぐ感じた一冊。

4篇とも家族小説なのですが、フツーの家族小説ではなく、型破りな家族小説。その象徴となるのが表題作「at Home」
父親は空き巣、母親は結婚詐欺師、長男は偽造屋。その下に中学生で家事担当の妹、小学生の弟という5人家族。しかも、5人とも一切血の繋がりはない、というところが注目点。
そんな5人が何故家族として暮らしているのかというと、もちろんそれなりの訳があって、そこに切なさと愛しさとを感じるところ大です。
ストーリィは、母親が監禁され身代金を要求されるという一家の危機を描いたもの。その危機において、血の繋がった家族以上の家族らしさが発揮されるという次第で、これが真に圧巻。
血が繋がっていなくても家族になりうる、お互いに家族であろうとする強い意思がそれをもたらす、という熱いメッセージを本篇から感じます。
それは次の、妻の連れ子と新しい親子関係を築いた父娘2人を主役とする
「日曜日のヤドカリ」にも共通すること。

「リバイバル」「共犯者たち」の2篇は、いずれも家族という形が崩壊した後の家族物語。だからこその味わいあり。

at home/日曜日のヤドカリ/リバイバル/共犯者たち

      

7.

「Good old boys ★★☆


Good old boys

2016年12月
集英社刊

(1500円+税)



2017/02/05



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少年サッカーチームを背景にした、子供たち、そして父親たちの物語。

「牧原スワンズ」は市内最弱、中でも現在の4年生チームはその中でも最弱という評判のチーム。
親からしてもチームの様子は緩いとしか見えないのですが、監督やOBからなるコーチたちはそれに何の批判もしない。また、過去勝ったことさえないという戦歴にもかかわらず、メンバー8人の子供たちは仲が良いし、本当に楽しそうなのです。
しかし、そんな子供たちのプレーぶりを見守る父親たちの思いはそう単純ではない。

家庭内に屈託を抱えながら息子を見ている父親もいれば、元サッカー選手の父親は息子のサッカー能力をもっと高めてやらなければと思う父親もいる。また、仕事上の悩みを抱えている会社員もいれば、日本人女性と結婚して来日したブラジル人の父親は居場所がないという思いを抱えています。
サッカー素人の父親も多くいれば、サッカー経験があるからこそ息子に厳しく当たってしまうという父親もいて、皆で仲の良い子供たちと対照的に、一様に「〇〇〇パパ」と呼ばれていても父親たちの姿は様々です。

8組の親子を順々に描いた連作風の長編。
読んでいて気付くことは、子供だからといって親の思うままにできる訳ではないこと。その一方、子供たちは父親の背中を見ていて、良くも悪くもそれに影響を受けているということ。
逆に、子供たちを見ていて親が学ぶ、という関係も描かれています。
要は、親子とは互いに影響を及ぼし合う関係だということを、改めて教えられた気がします。それは、守ってやらなければならない存在であると同時に、別の人格であり尊重する必要もあるのだということ。
本書を読んで、自分は父親としてどうなのか、とつい振り返ってしまう方はきっと多いだろうと思います。

最後、子供たちが子供たちだけで考え、実行して、一歩ステップアップする場面は、爽快な感動があります。
勝ち負けにこだわるより、サッカーは楽しくやらなければダメという一人の父親の言葉には説得力あり。そして子供たちが自主的に行動して成長する姿は、たとえ結果がどうであろうと、嬉しいものですから。 
父親と子供たちそれぞれの成長ストーリィ。お薦めです。

※なお、8人のメンバーの中、走りたくないからキーパーという
ダイゴのキャラクターも可笑しいのですが、それ以上に魅力的なのはダイゴの妹である幼い美佳りん。すごく可愛らしい。
是非スワンズのマスコットガールに推薦したい位です。

プロローグ/1.ユキナリ/2.ユウマ/3.ヒロ/4.リキ/5.ショウ/6.ダイゴ/7.ハルカ/8.ソウタ/エピローグ

            

8.

「dele ディーリー ★★


dele

2017年06月
角川書店刊

(1600円+税)



2017/10/10



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あなたの死後に依頼されたデータを削除します、そんな依頼を請け負う会社“ディリー・ドット・ライフ”
もっとも社員は、所長兼唯一人の事務員であった
坂上圭司と、新しく雇われた真柴祐太郎の2人だけ。
さらに、圭司の姉で同じビルの階上に弁護士事務所を開いている
坂上舞から家賃を無料にしてもらっているという状況で、果たして事業として成り立っているのか少々疑問に感じるような状況。

主人公は、新入り社員の真柴祐太郎。
依頼人が死んだらさっさと依頼通りにデータを削除する、依頼人の意思に従って削除しなければならない、というのが至極もっともな圭司の方針。
それに対し、遺された遺族のために、時にはその内容を確かめた方が良いのではないか、というのが祐太郎の考え。
2人が意見対立し、お互いに妥協し合うところから、車椅子姿の圭司に代わって祐太郎が依頼人の事情を調べる、そうしたところから語られる5篇の連作風ミステリ。

今やPC、スマホに大事なデータを保管しているの当たり前。であれば、そのデータを自分の死と共に削除して欲しい、そうしたニーズは至極当たり前のように思います。その点において、如何にも現代的なストーリィ。
私だったらどちらの道を選択するか・・・圭司だろうなぁ、やっぱり。

「ファースト・ハグ」:28歳で殺害された新村拓海が抱えていた思いは?
「シークレット・ガーデン」:大手ゼネコンの役員だった安西達雄が削除を望んだのは、白いワンピース姿の女性の写真?
「ストーカー・ブルーズ」:交通事故で昏睡状態にあるコミュ障青年=和泉翔平の胸の内には、どんな思いがあったのか?
「ドールズ・ドリーム」:5歳の娘を残して余命僅かな渡島明日香が削除を依頼したデータとは?
「ロスト・メモリーズ」:投資顧問会社に勤務し、長く無料学習塾を開催していた広山達弘が死んだ今、息子の輝明は20百万円の資金が消えていると焦慮中。

ファースト・ハグ/シークレット・ガーデン/ストーカー・ブルーズ/ドールズ・ドリーム/ロスト・メモリーズ

     


  

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