姫野カオルコ作品のページ No.1


1958年滋賀県甲賀市生、青山学院大学文学部日本文学科卒。画廊勤務を経て作家業。本名:香子(きょうこ)。青山学院大学在学中、公募に応じてリライトを始める。その後大陸書房のシリーズ文庫に小説を書くが、版元倒産によりすべて絶版。89年「ひと呼んでミツコ」の原稿を出版各社に持ちまわった結果、漸く講談社より90年単行本にて刊行。以後多彩な作品を書き続けている。作家デビューの経緯は「ガラスの仮面の告白」に詳しく書かれている。2014年「昭和の犬」にて 第150回直木賞(候補5回目)、19年「彼女は頭が悪いから」にて第32回柴田錬三郎賞を受賞。


1.ひと呼んでミツコ

2.ガラスの仮面の告白

3.A.B.O.AB (旧題:四角関係)

4.変奏曲

5.ドールハウス (旧題:空に住む飛行機)

6.喪失記

7.H(アッシュ) (旧題:短編集H)

8.ブスのくせに!

9.終業式 (旧題:ラブレター)

10.バカさゆえ…。


不倫(レンタル)、受難、初体験物語、みんなどうして結婚してゆくのだろう、整形美女、蕎麦屋の恋、すべての女は瘠せすぎである、サイケ、特急こだま東海道線を走る、よるねこ、

→ 姫野カオルコ作品のページ bQ


ほんとに「いい」と思ってる?、ツイラク、桃、ハルカ・エイティ、コルセット、ああ正妻、すっぴんは事件か?、もう私のことはわからないのだけれど、リアル・シンデレラ、ああ懐かしの少女漫画

→ 姫野カオルコ作品のページ bR


昭和の犬、近所の犬、池袋と部長、謎の毒親、彼女は頭が悪いから、何が「いただく」ぢゃ!、青春とは、悪口と幸せ

→ 姫野カオルコ作品のページ bS

       


   

1.

●「ひと呼んでミツコ」● ★☆

  

1990年05月
講談社刊

1993年04月
講談社文庫
(543円+税)

2001年08月
集英社文庫


1999/03/20


amazon.co.jp

単純に面白い、楽しめる、という1冊。
何が面白いのか考えてみると、誰しも幾度となく願望として抱いたに違いないことを主人公・三子が成し遂げていることにある、と気付きます。
中3の時受けた盲腸の手術痕。その10.7cmの傷痕が痛み赤くなったとき、その瞬間何が起きるのか? 読者にとってはその時が、痛快!爽快!という気分に浸ってしまうときです。
各章の冒頭に繰り返される、ゲランの香水 MITSOUKO という自分自身のイメージと現実のギャップも可笑しい。また、章を追う毎に三子の性格、容姿が具体的に判っていくのと、三子への親しみが増すのとが連れ添うようでいて、快いです。

とくにどうというストーリィがあるわけではありません。ですから、頭もまったく疲れません。まさにストレス解消向きの1冊!

昼下がりの事情/満員電車、奥までつめて/大人はわかってくれる/SAD OF MUSIC/発火1/2/教育実習マル秘レポート/故意の手ほどき/律儀の味方―あとがきにかえてー

  

2.

●「ガラスの仮面の告白」● ★★

  

1990年03月
主婦の友社刊

1992年09月
角川文庫
(420円+税)

  

1999/05/20

あ〜あ、こんなにまで何もかも言っちゃって良いのかなあ、と思わず洩らしてしまうような、作家・姫野カオルコを洗いざらい語るエッセイ集。
ただ、お蔭でなんとなくはぐらかされていた、作家デビュー経緯がよく判りました。青山学院大学2年生の頃、ふと買った雑誌「SMセレクト」「団鬼六賞」の小説公募があり、たまたま書いた作品「俺の女神」が受賞、作家デビューとなったとか。それが契機でSM小説を書く勤労学生となった由。
キスもセックスもしたことないSM女性作家、それでいて男性と同じ寝具で寝て何もなかった回数世界一(かもしれない)、カップ・ラーメン啜りながら涙を流しつつSM小説を書いていたという。
そんな当時の生活状況を読むと、思わず姫野さんを抱きしめて慰めてあげたいと思うのですが、私より体重があると知ると、やはり良い仲間でいましょう、という気持ちになります。
そんなに何もかも語ってしまうのは、姫野さんのサービス精神の現れだと思うのですが、そんな悲惨的な話の中にもカラッとした明るさがあって、楽しめてしまいます。
姫野さんと友達になりたかったら読むべし!という一冊。ミツコ不倫のネタも判明。

※本書、実は「エッセイ形式をとったフィクション」なのだそうです。

  

3.

●「A.B.O.AB(旧題:四角関係)」● ★


1992年10月
講談社刊

1998年02月
集英社文庫化


2000/05/22

血液型がA型、B型、O型、AB型だと恋愛はどうなるか、それも男性と女性においては? さらにそれらの組み合わせによってどうなるか。
そんな血液型を題材に、いろいろな組み合わせをシュミレーションした恋愛ショート・ストーリィ。
ただ、発想の面白さは感じますが、そのまま読んで面白いかというと、それはまた別。まあ、そうした小説もあるかぁ、というのが本書を読んでの感想です。
なお、動物学エッセイストである竹内久美子「小さな悪魔の背中の窪みによると、血液型と先天的性格には何の関係もないそうです。

  

4.

●「変奏曲」● ☆


1992年11月
マガジンハウス

1995年01月
角川文庫化



2000/05/15

双子の姉・洋子とその弟・高志の間における官能的な愛を、四章からなるオムニバス で描く一冊。
それぞれ、洋子と高志、洋子の婚約者・勝彦と高志のお相手・潤子が登場するものの、少しずつ状況設定が変えてあります。
また、時代設定も、平成、戦前、戦後、未来と、四つの時期を背景に描かれています。
兄妹、姉弟間の性愛といえば、官能的というほかないものであって、姫野さんは設定を変えつつ、いろいろと趣向を凝らして描いている訳です。コスプレに近いものがありますが、もうこれはこのまま読んでおくしかないものでしょう。

※近親の性愛というと三島由紀夫「音楽」が思い出されます。

   

5.

●「ドールハウス(旧題: 空に住む飛行機」● 


1994年04月
講談社文庫刊

1997年07月
角川文庫


1999/04/12

「処女」三部作の第1作。主題は“家庭”とのこと。

本編の主人公は大屋敷理加子、図書館勤めの29才。
一人っ子であるが、互いに憎しみ合っているかのような両親に抑圧されて育ち、“石の歳月”を29年間過ごしてきた。
そんな理加子の前に現れた粗暴で強引な男、江木。江木の度重なる誘いから、理加子の生活に少し変化が現れます。
はたして理加子は、石の殻を破って自分の生活を見つけることができるのか。
せつなくなるようなストーリィです。でも、最後にこの主人公を応援したくなった時、爽やかな微風を頬に受けたような気がします。

   

6.

●「喪失記」● 

  

1994年05月
ベネッセコーポレーション刊

1997年12月
角川文庫

  

1999/04/13

「処女」三部作の第2作。主題は“友情”とのこと。

「私は男に飢えていた」という印象強い一言から始まる本ストーリィの主人公は白川理津子、33歳、イラストレーター。
子供の頃カトリック神父の元に一時預けられた影響から、自分を律するのは当然という考え方が染み付いており、いわゆるフツーの女の子になれず、気がついてみるとこの5年間一度もプライベートに友人と食事をしたことがない、という境遇。
ドールハウスの理加子より大人に成っている分、もはや周囲に誰も友人はいないという状況にあり、読みながら理津子の寂しさが伝わってくる気がします。でも、彼女は不倫(レンタル)の理気子ほどまだ開き直れていない、その意味でまさしく三部作の中間に位置する作品です。
後半における理津子の思い切った行動には、彼女の孤独を思い知らされるようです。そして、漸く理津子が度々食事を共にするようになった大西は、結局彼女に欲望を覚えてくれなかったけれど、彼の励ましにより理津子はこの寂しさから抜け出すことができるのかもしれません。
その答えは「不倫」に求めるほかないでしょう。なお、大西という人物は次作にも登場しますが、同一人物だと思います。

  

7.

●「H(アッシュ)(旧題: 短編集H」● ★☆


H画像

1994年10月
徳間書店刊

1997年09月
徳間文庫


2000/12/09

題名の「H」から連想するように、Hなストーリィ主体、でもパロディ的可笑しさが充満している短篇集です。

姫野さん熟練の文章にうまくのせられ、胸をときめかせながら読み進むと、最後にとんでもない逆転業! 思わず笑い出したくなる、そんな可笑しさがあります。その類が「エンドレス・ラブ」「書を読め、町へ出るな」「課長の指のオブリガード」。とくに最後の「課長」には、思わずヤラレタ!という気分です。

「正調・H物語」“H”平家のこと。源氏も“G”と表記されて物語が語られると、なんとなく卑猥さがこみあげてきますから面白いものです。
「鞄の中の妖精」はちょっと他と趣の異なる一篇。女性なら共感を覚えるようなストーリィではないでしょうか。私は男性ですから共感までには至りませんが、判る気持ちがするなぁ。
最後の一篇は論文風。なんと処女膜は再生しうる、との論。何と言えばいいのでしょう・・・。
姫野流ヒネリが強烈に効いている一冊、楽しいです。

エンドレス・ラブ/アニキの嫁さん /あなただけが好き/猫/書を読め、町へでるな/正調・H物語/ちぢに乱れし黒髪の・・・/鞄の中の妖精 /課長の指のオブリガート/現代社会と再生

   

8.

●「ブスのくせに!」● ★


ブスのくせに!画像

1995年10月
毎日新聞社刊

2001年04月
新潮文庫
(400円+税)


2001/03/31

「だれかに向かってブスと怒鳴っているわけではない。“ブスのくせに!”という怒りの心理や、理不尽だと感じる心理について考えてみた」というエッセイ。

敢えて判り易く言えば、ヒメノ式美人論(顔主体の)というところでしょう。
男性関係と全く無縁であったと自称する姫野さんの女性観は、男性とも、同性である女性とも違った独特なもの。むむむ、そんな捉え方もあったのか、という具合に、楽しみながら読み流すのに丁度良いのが本書です。
かつて人気あった映画女優、女性タレントの名前がバンバンでてきますし、“モモコの系譜”“ノリカの系譜”という分析が存分に展開されているところが面白い。

余談ですが、本書にて姫野さんの筆名の所以が判りました。最初は「姫野オマンコ」と名づけようとして、流石に編集者に止められたとか。その結果、本名の香子(きょうこ)をカタカナ読みして「カオルコ」としたのだそうです。

優等生の密かな愉しみ/性にめざめてよかですか/COME、COME、GOGO!/それでもブスになりたいあなたへ

     

9.

●「終業式(旧題: ラブレター」● ★★★


終業式画像

1996年04月
光文社刊

1999年03月
新潮文庫
(590円+税)

2004年02月
角川文庫化


1999/03/14

高校3年の時に始まり20年後まで、男女4人(悦子、優子、宏、紳助)が交わし続けた手紙から構成される、珍しい形式の小説です。
最初はクラス日誌、それから葉書、手紙、次第に4人以外の人物の手紙、ファックスも入り混じり、彼らの別々に過ごした20年間が織り上げられていきます。

学園小説というと、学校を卒業したところで終わってしまうパターンが多いのですが、このストーリィは、その後の彼らの恋愛、仕事、結婚をすべて語っていくところが、何より貴重に感じられます。
手紙で語られるだけに、その時々の彼らの感情がストレートに伝わってくるようで、いつしか私自身の人生をも辿っているような気分になります。時折話題に登場する、DJ、歌手、アイドルらも懐かしいですしね。
ストーリィの中心は、恋愛模様です。幼い恋愛から、恋愛に恋愛しているような時期、そして大人の恋愛、打算の入り混じった愛、その過程を経てやっと人は自分に素直な恋愛をすることができるのでしょうか。
甘酸っぱさとほろ苦さ、そして切なさを感じていた頃を思い出させてくれる、そんな作品です。

   

10.

●「バカさゆえ…。」● ★☆

   

1996年07月
角川文庫
(460円+税)

  

1999/05/20

昔人気あったTV番組、マンガのパロディ作品集。
それも、姫野さんが当時から胸に溜めていた想念にもとづき、気の済むようにパロディ化した、という内容です。
したがって、面白く感じるかどうかは、パロディ化された番組への懐かしさの深さにもよるでしょうし、セックス度への好悪・許容度にもよるものと思われます。(私としては面白かったのですけれど ^^;)

とくに“奥様は魔女”! 
こんな風な展開があっても良いなあと、今にして故に思うところあります。
※それ以前に、オープニングのナレーションを読むだけで、当時の面白さがありありと頭の中に広がってきました。
また、鮎原こずえの“アタックbP”
私はこの主題歌が唄えてしまうのですけれど、当時から「卵巣摘出」などという展開は、あまりに唐突で違和感ありました。
あとは読んでのお楽しみ。ちなみに、題名は当時のヒット曲、ジャガースの“若さゆえ”の捩りだそうです。

奥様はマジよ(奥様は魔女)/りかちゃんのお引っ越し/かんちがいしがちな偉人伝/美徳の不幸(アタックbP)/困ったじょー<パッション篇・メランコリック篇>(あしたのジョー)/タクシー・ドライバー(魔法使いサリー)/ケンちゃん雲に乗る<自慰式篇・セックスアピール篇・誘惑篇・構造篇・解脱篇>

       

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