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築地の門出、料理人の光、星をつける女、踊れぬ天使、穢れ舌、廃墟ラブ、ねじれびと、春とび娘、ヤスの本懐、ラストツアー |
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「間借り鮨まさよ」 ★★☆ |
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新シリーズ開幕? “ヤッさん”・“佳代のキッチン”の両シリーズが完結し寂しく思っていたところ、本作の登場です。きっと新シリーズになる筈と期待しています。 さらに楽しさがアップした印象。 何故かと考えると、“ヤッさん”の場合は教え諭す、教え導くというパターンでしたが、本作にはそうした(敢えて言うとして)押しつけがましくない。 あくまで主役は各篇の登場人物たちであり、雅代はたまたま傍にいて彼らの悩みや愚痴を聞いてやる、そしてただ励ます、といった感じ。それがとても心地良く感じます。 ですからこの本シリーズ、今後に期待!です。 さてその雅代、外見は丸ぽちゃ顔のおばちゃん。しかし、鮨を握らせたら銀座の高級鮨店にも引けを取らないという鮨職人。 しかし、自分の店は持たず、あちこちの飲食店を短期間だけ間借りして<鮨まさよ>を開くのだという。 ・「バスクの誓い」:椋太と佑衣、夫婦で<バスク料理店>を開店し好評だったものの、コロナ禍で<スペイン食堂>に転換したものの業績は悪化、それに伴い夫婦の喧嘩も増えて、という苦境の真っ最中。そんな時、雅代というおばちゃんが間借りを申し込んできて・・・。 ・「能登栗の声」:金沢にある能登栗を使った洋菓子専門店<マロン亭>、その社長の座を亡父から継承した陽菜、古参の菓子職人は陽菜の言葉に耳を貸さずストレスばかり。そんな時、若い販売部長が東京の飲食会社から提携話を持ち掛けられ・・・。 ・「四方田食堂」:晃成、東京で高級焼肉店を開店して成功したもののコロナ禍で一転、結局自己破産し、実家のある千葉県富津市に戻ってきます。しかし、実家の母親からは貶されてばかり。そんな時、子供の頃から世話になった四方田食堂の経営者夫婦が年を取ったことから、手伝いを頼まれ・・・。 3篇とも再出発、ビジネス再構築ストーリィとして、存分に面白い。 そして雅代、決して出しゃばらず、若い人たちのためにそっと力を貸すといった感じで、その辺りの案配がとても良い。 ちょっと山本甲士“ひかりの魔女”を連想させられます。 今後の続巻がとても楽しみです。 1.バスクの誓い/2.能登栗の声/3.四方田食堂 |
22. | |
「たわごとレジデンス」 ★☆ |
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東京郊外の一等地に建つ、介護付きの高級分譲マンション<レジデンス悠々>が舞台。 一部の住人の身勝手な行動のおかげで、共有施設のスタッフや他の住民らが振り回されるという、人間喜劇(バルザックではない)を描いた連作ストーリィ。 冒頭2篇はドタバタ喜劇という印象でしたが、 3篇目の「奈落のリビング」は、ブラックなサスペンスという類のストーリィ。結末がどちらに転ぶのか全く予想が付かず、原さんにまんまとしてやられた、というスリリングさ。 そして「ミリヤ先生」「アラカンの恋」と、面白さは急上昇。 単にコメディというだけで終わらせず、現実感、サスペンス風味を織り込んだところが、巧い! ・「ディススポμ」:スポーツは悪だ!陰謀だ!と大声で唱えだした元高校教師の清宮幸介。悠々ジムに試用期間として働く千帆は、執拗にまとわりつかれ辟易。 ・「不条理なあなた」:図書室スタッフで、舞台脚本家志望の島森圭太、かつての名監督で現住人の瀬戸崎未菜監督から圭太が書いた脚本を映画化しようと声を掛けられますが、難題に振り回されっぱなし。 ・「奈落のリビング」:脳梗塞で倒れ植物状態と診断された柴山総太郎、しかし意識はしっかりとあり。 元コンパニオンの妻=早紀が勝手に動き始め、恐怖。 ・「ミリヤ先生」:リボーンコンサルタント=吉武ミリヤのおかげで自分に目覚めたという熊谷登紀子に影響され、コンシェルジュの木野内亜耶もリボーンに目覚めてしまうが・・・。 ・「アラカンの恋」:元パイロットで女性住人から人気の高い五十嵐。管理組合理事長に選出されたところ、管理会社を替えると言い出し、暴走をし始める。そのうえ女性差別者の本性まで曝け出し始め・・・。 1.ディススポμ(ミュー/2.不条理なあなた/3.奈落のリビング/4.ミリヤ先生/5.アラカンの恋 |
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「同居鮨-間借り鮨まさよⅡ-」 ★★ |
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シリーズ化を期待していた“間借り鮨まさよ”、第2弾。 “ヤッさん”シリーズも確かに面白かったのですが、比べると私は、この“まさよ”シリーズの方が好きかも。 男性と女性という違いもありますけど、“ヤッさん”は教え諭す感じ。それに対して“まさよ”は寄り添うという感じが強い。その分、親しみやすいように感じます。 そして“間借り”“鮨”の効能は?というと、まず前者は日本全国あちこちへ足を運ぶ理由にも、その分人脈が広いという利点になっていますし、後者は各篇主人公と関わるうえでの触媒になっている、と言えるでしょう。そして、それが楽しい。 ・「ハノイの母」:舞台は上野、主人公は舞衣、小五、10歳。 実兄の葬儀に参列するためベトナムに里帰りした母親が、約束の四日間が過ぎても戻らず、そのうえ連絡も取れない。 渡されていた金も少なくなり、追い詰められたところ行き当たったのが子ども食堂。そこでゲスト料理人だという鮨職人の雅代と出会います。 ・「ファイナルステージ」:ロックバンドで一時人気を博したものの今は人気低下、解散コンサート巡業中のKAZこと和人。 しかし、仲間2人との関係は最悪、ステージも盛り上がらず、そのうえ内緒で経営していた帯広のチーズバル、任せていた友人が失踪? ケータリング鮨という雅代につい愚痴。 ・「同居鮨」:甲府、夫の淳平が開いた<劇場型高級鮨店>で若女将となった咲良。しかし、思うように客は入らず、焦り。 そんな中、義母が店の2階に間借り鮨まさよを迎え入れます。 昼だけの営業、夜だけの営業と競合はしないまでも、客の入りは対照的。さらに味もレベル違い。咲良、覚悟を決めます。 1.ハノイの母/2.ファイナルステージ/3.同居鮨 |
24. | |
「蕎麦打ち万太郎」 ★★ |
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原宏一作品には、食+人情物語として、“ヤッさん”“佳代のキッチン”という2シリーズがありますが、本作もそれに連なる作品と言って良いでしょう。 ただ上記2シリーズと異なるのは、店という居場所があること、そして独り者ではなく夫婦であるという処。 主役は、モンゴル人で元力士、引退して蕎麦職人となり、妻となった希子と一緒に<蕎麦処まんた>を一年前に開業した万太郎(ガンボルド・バトヤバル)。 ※希子の実家が両国にある<蕎麦処ひろき>で、万太郎は力士を廃業してそこで修業。父親が眞山部屋後援会のメンバーであったことが縁。 なお、語り手(主人公)は、妻の希子。 万太郎、温厚で優しい人柄だが、困っている人がいると放っておけない性格で、トラブル解決のためには猪突猛進。 そうした万太郎、いかにもモンゴル人男性らしいと評するのが、常連客の楠木先生。 同じ新橋烏森口に店を構える<一献屋>の珠江女将、オーセンティックバーのマスター・日吉も加わり、皆で盛り上げている、といった観がとても楽しい。 ・「正面突破」:一献屋のバイト=綾乃が地下アイドル活動で窮地に。綾乃を救うため万太郎たちが奮闘。 ・「三立て」:SNSで<まんた>に対する虚偽の悪評が拡散。いきり立つ希子に対し、万太郎は我慢している様子。 ・「先輩」:万太郎の後輩で躍進中の鉄眞山、次の場所が重要な勝負処になるのですが・・・。 ・「テレビ」:TV局からの取材依頼に希子は乗り気、一方の万太郎は拒否姿勢。結局希子が押し切ったのですが・・・。 ・「覚悟」:<まんた>に蕎麦粉を提供してくれている喜多方の久保田爺が怪我、入院。蕎麦粉が入手できなくなる危機。 1.正面突破/2.三立て/3.先輩/4.テレビ/5.覚悟 |
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