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1.縁結びカツサンド 2.うしろむき夕食店 3.すきだらけのビストロ 4.しふく弁当ききみみ堂 |
「縁結びカツサンド」 ★★ | |
2022年08月
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第1回「おいしい文学賞」の最終候補作。 惜しくも受賞は逃しましたが、本作も十分楽しめました。他所行きではなく、普段着気分で楽しめる処が良さです。 舞台は、東京の駒込<うらら商店街>にある、昔ながらの町のパン屋さん「ベーカリー・コテン」。 三代目の音羽和久・29歳は、亡祖父創業の店を継ぐ資格が自分にあるのか、店名である「コテン」の意味も分からないしと、ずっと悩み中。 ただし、本作はその和久を直接主人公にするのではなく、和久の周辺にいる人物たちを各篇の主人公に据えた連作ストーリィ。 それぞれ人生のちょっとした岐路に立っている人物たちの葛藤を描くと同時に、それと歩調を合わせるように和久も一歩前進、という構成。 篇を進むにつれ、和久を囲む、応援する人たちが増えていく、という展開が楽しい。 やはり商売となれば、応援してくれる仲間たちが多くいてこそ、ですから。 見た目がお洒落で、まるでデザートのような美味しさを味わわせてくれるパンも勿論良いのですけれど、それと対照的に日常的な昔ながらのパンも良いものだと思います。 ・「まごころドーナツ」:結婚を控える理央・29歳、恋人の秀明と連絡が取れなくなり、不安・・・。 ・「落描きカレーパン」:就活にことごとく失敗している守田大和、自分のどこに問題があったのか・・・。 ・「花咲くコロネ」:仲良しのミユキちゃんと会えなくなって寂しい小学生の花、何とか乗り越えようとするのですが・・・。 ・「縁結びカツサンド」:商店街を挙げての夏祭り、和久も屋台出店するのですが、肝心のものが届かず・・・。 1.まごころドーナツ/2.楽描きカレーパン/3.花咲くコロネ/4.縁結びカツサンド |
「うしろむき夕食店」 ★★☆ | |
2023年05月
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路地裏奥にある家庭的な料理店<夕食店シマ>。その店の名物は“料理おみくじ”。 料理人で元芸者だったという店主の支倉志満(しま)と、その孫娘の希乃香(かおり)が「お帰りなさい!」「いってらっしゃい。明日もいいお日和になりますように」と明るく客たちを迎え、送り出してくれます。 悩みや鬱屈を抱えて店を訪れた客は、料理おみくじに託された志満の言葉に励まされ、勇気を以て新たな一歩を踏み出します。 居心地の良い料理店から客たちが再挑戦への転機をもらうという展開は、今や多くある連作小説のパターン。もはや珍しいものではありません。 それでも、本作、とても好いんだなぁ。 家庭的な料理に付されたおみくじ、志満の思いが篭められたその言葉が実に良い! 迷ったり、鬱屈を抱えたりする時があるのは、誰でも当たり前のこと。 そんな気持ちに寄り添い、さりげなくかつ優しく背中を押してくれる言葉の数々は、平凡ですけど、的確な人生訓。 でもそれをきちんと受け入れられるのは、各主人公たちの心の中に善性があるからでしょう。 各章における、今この時の人生ドラマは誰にも共通する身近なものばかり。仕事上のことだったり、人生選択や嫁姑問題だったりと。 それに加え、謎の怪人?“ごちおじさん”追跡や、希乃香の今後が掛かった見知らぬ祖父探し、という全章を横断するストーリィ要素も面白さ尽きません。 最後を締めるのがいつも「乾杯!」であるのも、宜しき哉。 1.願いととのうエビフライ/2.商いよろしマカロニグラタン/3.縁談きながにビーフシチュー/4.失せ物いずるメンチカツ/5.待ちびと来たるハンバーグ/おまけの小皿 |
「すきだらけのビストロ−うつくしき一皿− Le bistro plein d'amour」 ★★ |
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2025年07月
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題名の「すき」、てっきり「隙」かと思い込んでしまったのですが、「好き」でした。 シロクマのような容姿で料理バカのシェフ=有悟、それと対照的に冷静で猫のような身のこなしを見せるギャルソン=颯真は、何と実の兄弟。 二人はキッチンカー&トラックで全国各地を回り、野外ビストロを訪れたその地で開店しています。 その店の傍らにはいつも、音楽や美術等々、何らかの芸術が開催されています。 有悟の説く「世界で一番おいしい料理」とは? 判るなぁ。是非お楽しみに。 なお、二人の店の名前は<ビストロつくし>。 「つくし」とは奇妙な名前?と感じたのですが、その意味は? それもどうぞお楽しみに。 ストーリィは、有悟と颯真が、かつて有悟を支援してくれた謎の人物「翁」を探して全国を廻る長篇部分と、各地で<ビストロつくし>に偶然出会い、その料理を味わったおかげで希望を手にする人たちを主人公にした一幕のドラマ連作という、二重構成。 有悟が各篇主人公たちに提供する、その思いを込めた料理<スペシャリテ>の数々、読むだけでも美味しそうです。 ※実際に、ビストロつくしのテントで料理を味わえたら、さぞ美味しいでしょうねぇ。 ビストロの朝食〜おいしいパンとよい酒があれば〜/ ヴィルトゥオーゾのカプリス−真鯛のグリエ、アメリケーヌソース−/ マエストロのプレジール−仔牛のポワレ、パレット仕立て−/ ギャルソンの昼食〜クスクスの中でペダルを漕ぐ〜/ シュヴァリエのクラージュ−地鶏のコンフィ−/ トルバトゥールのパシオン−自家製ソーセージ、アリゴ添え−/ シェフの夕食〜ニンジンは煮えてしまった〜/ ピオニエのメルヴェイユ−夕暮れブジヤベースと船−/ フィロゾフのエスポワール−伊勢海老と帆立貝のメダイヨン−/ ビストロのデザート〜最後のものにうまいもの〜 |
「しふく弁当ききみみ堂」 ★★ | |
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多くの人たちを励まし、支える料理ストーリーを書き続けている冬森さんが今回題材にしたのは“お弁当”。 といっても、何処ででも買えるような弁当とはちょっと違う。 届け先である相手へ依頼人の想い(応援や励まし)を届ける特別なお弁当、名付けて<しふく弁当>、という次第。 なお、「しふく」とは「至福」と思ってしまいがちですが、それは誤り。さて、どんな漢字が当てられているのでしょう。それは最後まで読んでのお楽しみです。 しふく弁当の作り手は、赤毛、耳には幾つものピアスというワイルドな恰好の女性、鳴神冴良(なるかみさら)、37歳。 クリーニング店<ベルロープ>店主=十朱紀久子から、その奥に建つ離れを借りて、日替わり弁当&しふく弁当の店<ききみみ堂>を開いている。 店には毎朝のように常連客である老女たちが押し寄せ、あれこれ注文を付けてくるとかまびすしいですが、それがあってのききみみ堂なのでしょう。 自分に自信が持てずネイティブな気分になっている時、貴方が頑張っているのを私は解っている、応援しています、と言ってもらえたらどんなに嬉しく、救いになるでしょう。 そんなお弁当を冴良は届け続けています。しかしそれは、冴良の身にも跳ね返ってくること。 しふく弁当の届け先との繋がりが増えていくと同時に、冴良への励ましも増えていく、そこが本連作の魅力です。 もちろん、しふく弁当の中身の描写も、読み処です。 ・「みちを拓く鮭弁当」:夫は単身赴任、五歳の双子女児と乳幼児を抱えてまもなく産休明けを迎えようとしている紫村果英の思考はネガティブに陥り気味。そんなとき、会社の同僚だった泰美がしふく弁当を果英に送ってくれます・・・。 ・「星を探すハンバーグ弁当」:大学デビューに失敗し「ヨワシ」と呼ばれたトラウマを脱せないままの桃谷剛。そんな彼の元にしふく弁当が届けられた経緯は・・・。 ・「先そめる花づくし弁当」:自分に自信がもてないでいる保育士の水上ゆりな。4年前から夢中になったあめくんの旅立ちを引き留めるため、しふく弁当を依頼するのですが・・・。 ・「思いさますローストビーフ弁当」:緑原泰美、最近パートナーであるヴィクと気持ちが行き違ってばかり。そんなヴィクが泰美のために依頼したしふく弁当は・・・。 ・「虹を架ける幕の内弁当」:大手弁当チェーン経営者から冴良に、挑戦状が叩きつけられます。それに対して冴良はどう立ち向かうのか。また、しふく弁当から繋がった人の輪は・・・。 ひとつめ.みちを拓く鮭弁当/はしやすめ一/ふたつめ.星を探すハンバーグ弁当/はしやすめ二/みっつめ.咲きそめる花づくし弁当/はしやすめ三/よっつめ.思いさますローストビーフ弁当/はしやすめ四/いつつめ.虹を架ける幕の内弁当 |