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1.わたしの恋人 2.ぼくの嘘 3.ふたりの文化祭 4.ショコラティエ 5.涙をなくした君に 6.きみの傷跡 7.ギフテッド |
「わたしの恋人」 ★★ | |
2014年07月
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これ以上ないというくらい、清純な青春恋愛ストーリィ。 高一の古賀龍樹、保健室で出会った同学年女子=森せつなの「くちゅん」という可愛いくしゃみに、恋に落ちます。 それから、せつなと同じクラスの親友=笹川勇太の協力を得て、せつなに向かってひらすら攻勢を掛けます。 一方の森せつな、クラスでも孤立している観ある彼女にとって、まるで知らなかった他クラス男子の誘いは戸惑うばかり。たまたま一人では行かれなかった映画を観に行く同伴者を得られたということから龍樹の誘いに応じますが、古賀くんにいったいどんなメリットがあるのやらと疑問に思うばかり。 2人の家庭環境はまるで対照的で、それ故のせつなの鈍感さも、この恋愛劇においては面白いばかり。 それでもいつしか龍樹の気持ちはせつなに伝わり、せつなにもお互いの気持ちを大事にしたいという気持ちが生まれます。 本ストーリィ、とにかく気持ちが良い。 龍樹、せつなとも、それぞれ自分の気持ちに素直であり、それを表すことに率直であるところが魅力。 ヘンな恋愛ゲームの如き駆け引きをしようという気持ちなど、2人にはないのです。 また、2人だけでは単調になってしまうかもしれない処で、笹川勇太という2人の仲介役?を果たす男子の存在が好ましい。 こんな恋愛が出来たら、さぞ幸せでしょうねぇ。 清純にして清新、爽快な高校生による初恋物語、お薦めです。 |
「ぼくの嘘」 ★★ | |
2015年01月
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「わたしの恋人」の続編。 本作の主人公は、前作で脇役だった笹川勇太と、学校一の美少女という評判の結城あおい。 勇太、ある女性とのカーディガンを抱きしめている現場を結城あおいに写メで撮られてしまい、あおいから脅しを受けることになります。 ついては、あおいの親友である小桜かすみとのダブルデートの相手役を務めろと命じられ、勇太はあおいから命じられるまま眼鏡を変えたり美容室でヘアスタイルを整えたり、さらにオシャレな服の買い物まで。 ゲームとアニメのオタク男子である勇太、バイトでモデルもする世慣れた美少女にはひれ伏すばかりかと思えたのですが、あおいの弱みを知った辺りから、勇太のあおいに対する気持ちに変化が生じていきます。 「わたしの恋人」とは対照的に、息の長い恋物語。 最後は、勇太の見事な作戦勝ちといった顛末に、「わたしの恋人」とは違った充足感が溢れます。 「私の恋人」と続けて読むと、趣向の全く異なる2つの恋愛物語がたっぷり楽しめます。 2冊まとめてお薦め。 |
3. | |
「ふたりの文化祭」 ★★ | |
2019年02月
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片やイケメンでスポーツ万能な優等生で、女子にも優しく典型的なモテ男の九條潤。片やいるのかいないのか判らないくらい存在感の薄い地味な女子の八王子あや。 本書はそんな2人を主人公に、文化祭でのクラスの出し物を決めるところから文化祭当日までを、交互に第一人称で語らせるという形で進んでいきます。 モテモテ男の潤、私などからすると鼻白む思いで、地味で本好きのあやの方に親近感を抱いてしまうのですが、終盤、その優劣が逆転してしまうところが本ストーリィの面白さ。ミステリ小説のようなスリリングな面白さ、と言っても良い。 面白くはあるものの割りと平凡な高校青春ストーリィと思っていたら、最後に見事な逆転劇のような展開。すっかり作者の罠に嵌められたという気分ですが、痛快にして快感。・・・・藤野恵美さん、策士ですよねェ。 |
「ショコラティエ CHOCOLATIER」 ★★ | |
2021年04月
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題名のとおり、チョコレートを題材にした元同級生2人の、青春と友情ストーリィ。 一方の主人公は羽野(はの)聖太郎。9歳の時に父親が事故死し、つつましい母子家庭育ち。 もう一方は、ピースチョコという人気菓子を生み出した大宮製菓の御曹司である大宮光博。 2人の出会いは、誕生日会に光博が、同級生の聖太郎に招待状を差し出したところから。 そのパーティで出たチョコの美味しさに聖太郎が魅せられたところから、菓子作りという2人の共同作業が始まり、2人の間に友情関係が生まれます。 それがギクシャクし出したのは、光博の幼馴染でピアニストを目指す村井凛々花に聖太郎が出会ってから。 高校を卒業して菓子職人の道に入った聖太郎と、親に言われるまま何の目標もなくただ過ごしている光博は、極めて対照的。 出会いと別れ、そしてお互いに紆余曲折を経ての再会、というストーリィ。 聖太郎と光博の青春&友情ストーリィと言うのであれば、本書の頁が尽きたところからが本格的なストーリィの始まり。本作で描かれたのは2人の物語における前段部分に過ぎない、と言うべきなのでしょう。 本格的なストーリィ展開の手前で終わってしまうのは、当てが外れたような、残念な思いもしますが、いつまでも続くようなその余韻に心地良さを感じるのも事実。 物語として十分面白かったですし、洒落た幕切れにも好感。 |
「涙をなくした君に」 ★★ | |
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教員の父親は、外面だけは良く立派な教師という評判を得ていたが、家庭内では妻と2人の娘に対し常に専横的に振る舞い、家庭内を恐怖で支配していた。 そのため、長女である主人公の橙子は、律と結婚して小一の息子=蓮までいるにもかかわらず、今も時々悪夢にうなされている。 もう父親と関わりたくないと思い、実家に足を運ぶことも避けているのですが、その一方で娘であるからにはある程度の務めを果たさなくてはいけないという思いを切り捨てられないでいる。 橙子、いわゆる「いい子」、今でもそうなんだろうなぁと思います。だからこそ、本心と義務感の板挟みになり、それがストレスとなっているようです。 その点、離婚してさっさと再婚した母親はすでに「他人」とはっきりしたものですし、父親と関わるのはもう絶対に嫌と断絶宣言している妹=桃華のように橙子も割り切れたら、ずっと楽だと思うのですが、そうできないからこそ苦しい。 それに対し、息子の蓮は単純に「おじいちゃん」と慕っているのですから、娘であり母親でもある橙子の立場は難しい。 その橙子の仕事が、臨床心理士としてのカウンセラーであるというのですから、面白い。 あれこれ苦労する中でも、父親や桃華の言動を冷静に分析している橙子がいます。 夫婦とは簡単なものです。離婚してしまえばもう他人なのですから。その点、親子という関係は疎ましい。 日頃断絶していても、病気で入院、あるいは死去して葬式ともなれば、無縁ではいられないのですから。 最後、ようやく橙子の視界が開けたように感じられてホッとさせられます。結局は時間による解決を待つ他ないのでしょうか。 |
「きみの傷跡」 ★★ | |
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中高を男子校で過ごしたため女子にどう接してよいか分からない星野公平、大学法学部2年生。 高校生の時に起きた出来事がトラウマとなって、今も心の傷を引きずる花宮まい、法学部の新入生。 そんな不器用もの同士の2人の恋物語が始まるのは、まいが星野の所属する写真部に入部してきたところから。 同じ法学部でもあり、写真撮影に関するアドバイス等、同期の笹川勇太の助けもあって徐々に2人の仲が進んでいきます。 ストーリィは、星野の側から、まいの側から交互に綴られていきます。 星野の側では、好きな気持ちが抑えられないが、暴走してはいけない、ストーカーのように思われてはいけないと懸命に自制する胸の内が語られます。 一方、まいの側からは、次第に星野先輩に対する好きだという気持ちの自覚の一方、過去のトラウマを吹っ切れない苦しさが語られます。 お互いに初恋同士とあって、じれったい思いが綴られますが、そこが初々しく、また清新という印象です。 だからといって昔のようなプラトニックな恋愛ということには留まりません。 気持ち良く、自分の青春時代を振り返れた思いがします。 なお、私はそんな羨ましいような恋愛事から全く無縁でしたが。 ※星野公平、大学構内をうろつく猫からクッション代わりにされているというエピソードが楽しい。 |
「ギフテッド Gifted」 ★★ | |
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子どもの教育課題について描いた長編作品。 他人事だと思えば達観して考えることができますが、いざそれが我が子のこととなったらと思うと、難しいですよねぇ。 本作題名の「ギフテッド」とは、先天的に平均よりも顕著に高い能力を備え、特定分野で並外れた才能を示す子どものことだそうです。しかし、大人にとって聞き分けがよく、学習能力が高いとは限らないという点が悩ましい処。 主人公の森川凛子は、大学トップのT大卒ながら、就職した一流企業の職場に馴染めず、退職して今はフリーランスの翻訳者。自分は凡庸な人間と自覚し、慎ましく暮らしている。 一方、凛子の妹は医者の家系という整形外科医と結婚して小五の莉緒を筆頭に、まひる、幼稚園児の真之介と3児の母親。 父親の岡田は莉緒を名門私立のS女子校に入学させたいと望んでいますが、肝心の莉緒はというと、受験塾の教師を嫌って成績が低下する一方である等々、中々手に負えない。 ついに妹が「お姉ちゃん、助けて」と言い出し、凛子は莉緒の受験勉強をサポートすることになります。 莉緒も、その下のまひるも、凛子を信頼して慕っている、というところが本ストーリィの鍵になっています。 友人である綾乃から、姪っ子ちゃんはギフテッドかもしれないと言われた凛子、その指摘に納得できるものを感じます。 また、末っ子の真之介にも学習障害が指摘される等、凛子は子供たちの学習もしくは教育問題に関わっていくことになります。 子どもの個性や興味ごとへの関心は伸ばしてやりたいなぁ、と思います。とにかく、子供を平均的な子ども像に押し込めないで欲しい、と願います。親としては、我が子が他の子どもたちと同じようであって欲しい、そうすれば安心できる、という気持ちは分かりますけど 「ギフテッド」、本作で初めて知り、ひとつ勉強になりました。 なお、本ストーリィの結末、莉緒のひと言が痛快です。 流石はギフテッドという処ですが、大人としては顔色なし、ですね〜。 |