(だん) あやこ作品のページ


1978年東京都生、上智大学および同大学院経済学研究科に学ぶ。放送作家、小説家。


1.14歳のバベル

2.さよなら、エンペラー

 


                   

1.
「14歳のバベル ★☆


14歳のバベル

2018年02月
新潮社刊

(1800円+税)



2018/03/22



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8年前に起きたサイバーテロの結果、日本社会は東日本大震災の被害を遥に超える傷と閉塞を負ってしまったという、近未来の日本が舞台。
主人公は14歳の中学生、
雨宮冬人。8年前のテロがトラウマになったのか、あるいは学校でのイジメが原因なのか。学校では保健室登校、時折発作に襲われ意識を失いかけること度々、という状況にあります。

そんな冬人が、意識を失った後の夢の中で見たものは、見知らぬ世界。そしてそこで出会ったのは、その世界を統括する、同じ14歳の少年
シルト

近未来SF、ファンタジーサスペンス、どう展開していくのかまるで見当つかないまま読み進みましたが、とんでもなく奇想天外な、そして壮大な歴史的計画にぶち当たったことに気づくや、開いた口が塞がらなかった、というのが正直なところ。

表題の「バベル」、当然ながら連想されるのは旧約聖書にある
「バベルの塔」の物語。いったい本ストーリィとどう関係するのやら。
バベルの塔が民族の違う人々の間でのコミュニケーションが破壊された物語であるのなら、本書で描かれるのもまた同じ問題なのでしょう。
ただ、コミュニケーションが成り立たない理由が、民族の違いではなく、嫉妬という個人的感情によるものであったとしたら、それは危険であり、かつ恐ろしいことと。

最後、新たな道が開かれたらしい結末に、ホッとする思いです。

※それにしても、ビールがストーリィ上こんなにも重要な要素になるとはなぁ・・・。

プロローグ/1.診察室/2.ウルの旗章/3.モニュメント/4.エンキになる/5.最後の晩餐/6.イエローフライデー/7.バベルの塔の頂で/8.アンズー島の黙示録

                

2.
「さよなら、エンペラー Goodbye,Emperor ★★


さよなら、エンペラー

2020年07月
新潮社

(1600円+税)



2020/08/13



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4年前、首都直下型大地震が予告され、皇居や政府関係機関、大企業等はこぞって京都や地方に移転、商業施設等は相次いで閉店し、東京は今やすっかり荒廃した都市となっていた。
そんな近未来の東京が主舞台にしたストーリィ。

そんな東京に突然、
「国民の総意を受け、ついに東京帝国の皇帝(エンペラー)になることを決意した」と宣言する田中正と名乗る人物が現れます。
黒羽根飾りをつけた山高帽、肩章や金ボタンのついた軍服を思わせる服装に杖、という姿。
主人公である
17歳の青年は、バイト先のコンビニが閉店されたことから、彼に雇ってくれませんかと頼み、エンペラーの付き人となります。
正体不明ながら何故か不思議な魅力を持った人物。住民たちに
「何かお困りかな?」と訊ね歩き、困りごとの相談を受けると真摯に救いの手を差し伸べようとします。
次第にエンペラーは、取り残されたと感じる人々の間で信頼を得ていきますが、その一方で反エンペラー派が牙をむく。
さて京都にいる<天皇>と、東京帝国の<エンペラー>。2人は両立しうるのか、日本は東京とそれ以外の地域に分裂するのか。

ユニークな着想による近未来SFコメディの類かと思ったのですが、お付き青年の本名が明らかになるところから、それまでと全く違ったストーリィが浮かび上がってきます。

エンペラーとはどういう存在か、国民の前にどういう姿であるべきなのか。
それは、主人公の青年が抱え込んでいた迷いとシンクロします。
ユニークなアプローチによる“エンペラー小説”。
読み手の好み次第でしょうけれど、着想、意外性、展開の巧妙さと、私にとってはとても面白い、魅力ある作品でした。

※なお、エンペラーの正体は最後まで明らかにはされませんが、多分・・・と推測してみるのも楽しき哉。

      


   

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