近本洋一
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2012年「愛の徴−天国の方角−」にて第48回メフィスト賞を受賞。

  


     

「愛の徴(しるし)Signum Amoris−天国の方角Direction Caeli ★★  メフィスト賞




2013年05月
講談社刊

(2381円+税)

  

2013/07/15

   

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片や17世紀のフランスが舞台。ヴェルサイユのゴンディ家の城館に拾われた孤児アナが、長じて自らの意思で城館を脱出、狼のギュスターヴの力を借りながら繰り広げる歴史上の冒険劇。
片や近未来の沖縄が舞台。量子コンピュータを駆使して歴史上の事跡を調べようとする実験。こちらの主人公は、語学技官としてプロジェクトに参加した
太良橋鈴(りん)
そして時代を超えた2つのストーリィがその秘密を明らかにしていく対象とは、太陽王ルイが君臨した
ヴェルサイユ宮殿
まさに時空を超えた、愛と冒険の大ロマン。
 
とまぁ、本書の内容を簡単に語れば上記のようになるのですが、約 600頁という長大な作品。プロローグはスペイン人の巨匠画家
ディエゴ・ヴェラスケスの名画「鏡のヴィーナス」に始まり、前半こそ中世歴史冒険劇と思いきや、後半になると語られるところはどんどん観念的、抽象的になっていくのですから、いやはや参りました。
近未来沖縄でのプロジェクトがアナの冒険物語とどう結びつくのか、最後の最後までそれは判らず、しかも前半と後半では物語が変質してしまっているように感じる程大きく変わります。
ダルタニャン物語の時代、テンプル騎士団、ヴェネツィア共和国、ノートルダム寺院の秘密等々、馴染みがない訳ではないのでその面で戸惑うところはないのですが、いったいこの長大な物語はどこを目指しているのか、その面でつかみどころがなかったというのも事実です。
 
意欲作であることは理解できるにしろ、最初こそ歴史冒険物語と思っていたストーリィが、終ってみればかなりファンタジーな物語に一変してしまっていることに、いささか戸惑いを禁じ得ません。
本書を読むには、かなりの覚悟をもって読み始めた方がよさそうです。

 


  

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