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1.同士少女よ、敵を撃て 2.歌われなかった海賊へ |
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「同志少女よ、敵を撃て」 ★★☆ アガサ・クリスティー賞・本屋大賞 |
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2024年12月
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1942年、モスクワ近郊の農村イワノフスカヤ村で母親と暮らす少女セラフィマの日常は、突如として村を襲って来たドイツ軍によって奪われる。 母親はじめ村人全員が惨殺され、セラフィマ自身の命も危うかったところ、赤軍兵士に救われます。 その中にいた女性兵士イリーナから「戦いたいか、死にたいか」と突き付けられたセラフィマは、母親を撃ち殺したドイツ人狙撃手に復讐するため、狙撃兵となる道を選びます。 そこから始まる、狙撃兵としての成長と戦闘の物語。 イリーナが教官を務める訓練学校にて女性狙撃兵になるための訓練、後に狙撃専門小隊である「第39独立小隊」の仲間となる同様の経験を経た女性たちとの出会いと確執、そして実戦であるスターリングラード攻防戦とケーニヒスベルク攻防戦へ。 セラフィマの冒険、狙撃手としての成長、そして復讐譚というストーリィ展開は、存分に面白い。 女性狙撃兵たち一人一人の人間性も、しっかり書き込まれていますし。 さらに、戦闘、そして狙撃場面のリアル感もたっぷりです。 この揺るぎない完成度、これがデビュー作?と驚かされます。 一方、今、何故この物語なのか?と考えざるを得ません。 戦争が如何に人を狂わせ、変えてしまうということか。 自分を見失わないためには何のために戦うか、という目的意識をもつことが必要、ということか。 戦争においていつも被害者にされるのは女性である、という問題提起か。 それは読者一人一人が自分で考えるべきことかもしれませんが、侵略側が相手を劣等民族として見下す姿勢、アジア太平洋戦争における日本軍に共通する問題ではないかと改めて感じます。 プロローグ/1.イワノフスカヤ村/2.魔女の巣/3.ウラヌス作戦/4.ヴォルガの向こうに我らの土地なし/5.決戦に向かう日々/6.要塞都市ケーニヒスベルク/エピローグ |
2. | |
「歌われなかった海賊へ」 ★★☆ |
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舞台は、ナチス敗戦間近のドイツ国内にある小さな町。 母親は既に病死、ヒトラーを誹謗した罪で父親が処刑されて一人となった少年ヴェルナーは、犯罪人の息子という理由で少年団からも放逐されて居場所を失っていた。 そんなヴェルナーが出会ったのは、ナチス体制下の青少年教化に抵抗する“エーデルヴァイス海賊団”と名乗る少年少女=レオンハルトとエルフリーデの2人。 新たな仲間、居場所を得たヴェルナーは、2人と共にナチス体制への抵抗というべき活動を繰り広げていきます。 そして、町まで新たに鉄道が敷設されることになったと喜ぶ大人たちの傍らで3人は、その線路の先に強制収容所が設けられており、次々と大勢の囚人がそこに列車で輸送されている事実を知ります。 その事実を掴んだ3人は、どう行動するのか・・・。 “海賊団”、実際に存在したものだそうです。 ただ、組織化されたものではなく、各地で自然発生したもので、その行動はバラバラで、歴史に名を残すようなものではなかったそうです。 レオ、フリーデ、そしてヴェルナーも、抵抗運動などではなく、単なる“遊び”と自分たちの行動を標榜します。 歴史の傍らにあった事実を小説化したもの、というぐらいの認識で読み進んでいたのですが、本ストーリィに秘められた重大なメッセージに気づいたのは、最後の最後になってから。 「歌われなかった海賊へ」という不思議な本書題名に、何と大きな意味が籠められていたことか。 そこには、大人と子供、その間に横たわる永遠の課題があるように感じます。 前作「同士少女よ、敵を撃て」に優るとも劣らぬ圧倒力を持つ力作、是非お薦めです。 |