愛川 晶
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1957年福島県福島市生、筑波大学第二学群比較文化学類卒。高校の社会科教員を務めながら執筆、94年「化身」にて第5回鮎川哲也賞を受賞し作家デビュー。


1.十一月に死んだ悪魔 

2.名探偵 円朝 

  


     

1.

「十一月に死んだ悪魔 ★★


十一月に死んだ悪魔画像

2013年09月
文芸春秋

(1800円+税)



2013/11/06



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作中小説、中原健太宛ての手紙、そして小説家である柏原育弥を主人公とする本ストーリィが同時に蓋を開け、それらがどういう関係にあるのか示されないままストーリィは進んでいく。
一体どんな小説なのか、どんなストーリィ構成なのか、皆目見当つかず。

作中小説の主人公は閉ざされた部屋の中で亜美香と名付けられたラブドールに欲情を催し、柏原は宮崎舞華という若い女性と出会い、部屋に招き入れた途端にその舞華に翻弄されていく。
そしてその柏原が抱えていた問題、11年前歩道に倒れていたところを助けられたその前一週間の記憶を失っているという事実が浮かび上がってきます。
その事実が今になって突然柏原の前に立ち塞がり、次々に登場する人物たちが、柏原が記憶を失っている間の出来事を言い立てて柏原を脅し付けていく。

エロスに満ちていた雰囲気は一転してホラー的サスペンスへ。
記憶を失っているという事実の何と恐ろしいことか。それが事実なのか虚偽なのか、まるで自分では判らないのですから。
まるで足元の地面が崩れ落ち、どんな穴の中に落ち込んでしまうのかまるで判らない恐怖。まるでジェットコースターのように容赦なく膨らんでいくスリル感は、怖いものの蠱惑的で頁から目が離せなくなります。

現代のラブドール、江戸時代の吾妻形人形小泉八雲「骨董」解離性障害と、気を惹かれる小道具がいっぱい。
ストーリィとしてどうなのか、また読み手の好みに合うかどうかという面はありますが、怖ろしい程スリルに満ちたサスペンス性は読み応えたっぷり。

       

2.

「名探偵 円朝−明治の地獄とマイナイソース− ★★   


名探偵円朝

2025年09月
中央公論新社

(2300円+税)



2025/11/16



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幕末〜明治期に活躍し、“三遊派中興の祖”“近代落語の祖”と称えられる噺家の大名人、初代三遊亭円朝を“名探偵”に据えた日常ミステリ3篇。

主人公は円朝ではなく、神楽坂にある西洋料理店<
西寅軒>でコック修業中の加藤正太郎、19歳
ある事情から内藤新宿にある
出淵次郎吉の家を料理指南のために訪れた正太郎、そこに三遊亭二朝が偶然飛び込んできて、相手が円朝師匠だとやっと気づき、驚愕します。
実は12年前に死去した父親、人気噺家にはなれなかったものの、円朝の弟子であった「
ぽこ太」。
そうした縁から、正太郎は引き続き円朝宅へ出入りすることになります。
その過程で正太郎が出会うことになったのが、謎解き3件。

ただし、最終的にミステリ要素があり、円朝が鮮やかに謎解きして見せるという構成はあっても、それは主たるストーリーにはなっていません。むしろ添え物、という印象。
本作を読む楽しさは、ミステリより、明治という時代の空気、様相に浸れるところ、さらに明治期らしい人物たちの登場にあります。もちろん正太郎の青春篇という魅力もあり。
そしてそれらに加えて、ストーリーに絡んで披露される<噺>が面白い。
とくに冒頭、文明開化に合わせて地獄、三途の川辺りも文明開化されたと語られる
「明治の地獄」が抜群に面白い!
これで一気に円朝という噺家に魅了されてしまった思いです。
落語好き、円朝に興味ある方には、是非お薦め。

・「明治の地獄とマイナイソース」:円朝宅内で起きた騒動、その真相は?
・「牡丹灯籠異聞」:二朝に頼まれ、亡くなった栄朝の家に洋食を届けた正太郎、未亡人である美代が抱え込んだ深刻な苦衷を知ることとなり・・・・。
・「即身仏」:円朝宅の留守番を頼まれ泊まり込んだ正太郎、厨子の中にある木乃伊に気づいてしまい・・・。

※なお、円朝を題材とした既読小説に、
奥山景布子「圓朝があります。

明治の地獄とマイナイソース/牡丹灯籠異聞/即身仏

  


  

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