安達千夏
(ちか)作品のページ


1965年山形県生。1998年「あなたがほしい」にて第22回すばる文学賞を受賞し作家デビュー。

 


   

●「ちりかんすずらん」● ★★☆




2009年09月
祥伝社刊

(1600円+税)

2012年09月
祥伝社文庫化

  

2009/10/17

 

amazon.co.jp

祖母・母・主人公と3代、女ばかりの世帯+母の妹という、女たちの穏やかな日常を味わい深く描く連作長篇。

7年前、板前だった父親は、錦糸町のパブで働いていたコロンビア人女性に惚れて母と離婚、コロンビアに渡って今は彼女の娘たち4人+実娘1人に囲まれスシー・バーを経営、順調らしい。時々主人公へ電話がある。
元姑の祖母は、離婚後も元嫁である母との同居を強く望んだことから、今の3人暮らしとなっている。
その祖母は友人たちとの旅行や観劇を楽しみ、母は経営するフットマッサージの店が繁盛して超多忙。32歳の主人公は、最初に勤めた商社を退職し、今は児童館に勤めており、ネット関係の仕事を友人と起業したユウジという恋人がいる。
母の腹違いの妹すずは、生まれてすぐ実母が姿をくらましたことから母の両親に引き取られて育ち、その両親が小学生の時にそろって死んだためそれから後は当時大学生だった母に育てられる。今も時々お土産を持って、「お姉さん、すずです」と言って訪ねてくる関係。
そんな4人+α(ユウジ)の日常が、細やかに描かれていきます。

穏やかな日常といっても、それなりに多少の事件はあります。すずの恋人(不倫)が殺傷される事件が起きて皆が心配したり、父の義娘マグダレーナが主人公に頼みごとをしてきたり、捨て犬をめぐって皆が一喜一憂したりと。そこにちょっとしたミステリ風味があるのも、良いスパイスになっています。
また、後半では主人公の婚約、結婚という、めでたいけれど家を出る寂しさ、その後のちょっとした騒動という展開もあります。
でもそれらは皆、日常の暮らしの中に収まってしまう出来事。
何よりも、お互いに好きだから一緒に暮らしているんだ、という温もりがじわじわと伝わってくるところが味わい深い。
祖母と母の同居暮らしも、主人公とユウジの結婚も、その点で共通するもののようです。
「おいしいものは誰かと分かち合えば、2倍おいしくなる」は、本書において名言です。

お互いを大切にし合って築いてきた暮らし、そしてこれから好きな人と新たに築いていこうとする暮らし。その温もりが実に快くて秀逸。お薦めです。
なお、表題の「ちりかんすずらん」は、鈴蘭の簪のこと。

ちりかんすずらん/愛の名の川/ちいさなかぶ/赤と青/バニラ/ホオシチュウ

 


   

to Top Page     to 国内作家 Index