お正月特別企画「温泉の科学特別コラム」2002

温泉の化学特別コラム

ちょっと体調が良くない人の
温泉入浴法 byやませみ


お正月休みが明けると体調不良を訴える人が多くなります。年末からの忙しさや連日の忘 ・新年会、徹夜で年賀状書きに大掃除、明ければついつい暴飲暴食、はたまたゴルフやス キーで筋肉痛、子供連れの帰省で気疲れが溜まるなどなど・・・。そんなあなたにうって つけの温泉入浴法をご紹介します。

二日酔いを直す入浴法

お酒を大量に飲むと、アルコールの分解でできた有害な代謝産物(アセトアルデヒドなど )が生じます。これをさらに分解するにはとても時間がかかるので、なるべく早く体外へ 排出することが必要です。効果的に排出するには発汗がいちばんですが、だからといって 熱いお湯につかるのは良くありません。

二日酔いの身体では水分が不足し、血液が濃くな っています。ここで熱いお湯に入浴すると、血管が収縮して思わぬ弊害を生じる危険があ ります。 40℃くらいの少しぬるく感じるくらいの温度で15分くらい、休憩をはさみながら繰り返し ゆっくりと入浴するのが効果的です。

入浴前や休憩時には水分をたっぷりと補給しましょ う。糖分のある生ジュースなども良いです。こうすると全身の血管が拡張してゆるやかな 発汗が続き、同時に腎臓の血流も増えるので尿もよく出ます。これで有害物を効果的に排 出できるので気分が回復します。

温泉の泉質にはとくにこだわらなくてよいですが、強塩泉などの成分の濃い温泉は体温の 上昇が急激に過ぎますし、長湯にはむかないので避けられたほうが無難です。湧出温度 が38〜40℃くらいの単純温泉や中性の硫酸塩泉(ボウ硝泉や石膏泉)が適当です。

なお、 水分補給だからとむやみに大量に飲泉をするのは、内蔵に負担をかけて逆効果になること もあるのでおやめ下さい。

宮城青根温泉不忘閣

スポーツやレジャー疲れを直す入浴法

休日を利用して思いきりスポーツを楽しむ方も多いでしょう。たっぷり汗をかいた身体を 早く洗いたいし、明日に疲労を残さないためにもすぐに温泉に飛び込みたい気分はよくわ かります。でもちょっとお待ちを。

酷使した筋肉には、疲労物質の乳酸がたくさんできています。これを除去するためには酸素がたくさん必要で、このために運動後の身体では大量の血液が筋肉に集中しています。 ここで温泉に入ると体表面の血管が拡張するので、血液は筋肉に集まってくることができ なくなってしまいます。その結果、乳酸がいつまでも残ることになり翌日の筋肉痛や疲労 感につながるのです。

過激な運動をした後は、身体を冷やさないようにしながら1時間以上の休息をとりましょう。汗が出なくなり、体温が平常に近くなったらもう温泉に入って も大丈夫です。

湧出温度の低い温泉(25〜35℃)では、加熱の浴槽とは別に源泉のままの冷浴槽を備えて いるところもあります。また、浴槽の温度を他段階に調整している施設もあります。まず はなるべくぬるいほうの浴槽から順番に、徐々に熱い方へ入浴していくと翌日に疲労を残 さないですみます。お試しください。

この場合も泉質はあまり問いませんけど、汗や埃で 汚れた皮膚を清浄にしてサッパリするには、アルカリ性単純温泉やナトリウム−炭酸水素 塩泉(重曹泉)が好都合です。 遊園地やショッピングなどで歩き疲れて足がむくんでいる人には、脚部だけの「足湯」も おすすめです。


食べ過ぎが心配な人の入浴法

身の回りに買い置きの食べ物が溢れるお正月。ゴロゴロしているだけなのに何故かお腹は 空くし、ついつい食べ過ぎてしまいます。なんとか食欲を押さえておきたいという貴方に も温泉がお役に立ちます。

暖かいお部屋で炬燵にこもっているのは、ぬるい温泉に長時間入浴しているのと同じ様な 作用をします。胃酸の分泌や胃の運動が活発になるので、食物の消化が良くてのべつ空腹 を感じるようになるのです。

熱い温泉の入浴はこれとまったく逆の作用をします。脳に軽いストレス刺激が加わり、い わゆる「闘う体制」をつくるので、胃酸が出るのを抑制し胃の運動を停止させるのです。

緊張すると食欲がなくなるのとおなじ事です。料理自慢の温泉宿に行ったけれど、夕食前 に熱い湯につかったばっかりに食欲が減退し、豪華な料理がさっぱり美味しくなくて残し てしまった経験をもっている人は多いはずです。

市街地にある温泉銭湯や古くからある共同湯などは、熱めの温度設定にしてあるところが 多いです。これらを上手に利用するとよいでしょう。42〜43℃くらいの温度で3分入浴・5 分休憩を3回までとするのが食欲抑制に効果があるそうです。湯上がりに冷えたビールを 一杯、といきたい気持ちはぐっとこらえましょう。

山形蔵王温泉下湯共同浴場

寝付きが良くない人の入浴法

お正月は夜更かし朝寝で生活のリズムがくるいがちになります。また、なんとなく気分が 高揚して軽い興奮状態にあるので、なかなか寝付けなかったりします。これでは休み明け に疲れが残ってしまうのは必至です。こんな方には就寝前の温泉入浴をおすすめします。

38℃前後のぬるい温度のお湯に20分くらい長めにつかります。脳の自律神経のうち「副交 感神経」の作用を高めることで、脈拍数と心臓や血管の収縮を減らし、血流や血圧を静穏 な状態に戻すことができます。時間が経つにつれて湯温をほとんど感じなくなってきたら 上がり頃です。このとき、寒いからといって熱い上がり湯をつかってはいけません。かえ って興奮状態を誘い出して目が冴えてしまいます。

ぬるめの泉温の単純温泉や単純硫黄泉、硫酸塩泉などがむいています。酸性泉や強塩泉な どの刺激が強い泉質は脳の興奮状態を誘うのでやや不都合です。二酸化炭素を含む温泉( 炭酸泉)は血流を体表に集める効果があるので34℃前後の低温入浴でも暖かく感じ、身体 に負担なく長湯ができます。冷え症でお悩みの方にもおすすめです。


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