超資本主義の日本について

1998-3-2

吉本隆明「超資本主義」のアイデアを基盤に、日本の民主主義や資本主義が 高度に発達したことによる民主主義や資本主義の制度疲労について検討する。
 この観点がないと、現在進行中の日本の問題を説明できない。
 よって、ここでは民主主義・資本主義を超えた主義の構築を試み、日本の 問題に対応したいと思う。検討の観点は、権力構造の変遷と現状の日本の 分析で、この視点から、検討を開始する。

1.民主主義と資本主義の成立とその歴史と今後について
・権力の変遷
 教会の神権が地上の王権より高いと言われた暗黒の中世から、人間中心の 復古主義のルネサンスをへて、地上権力は、神の代理をすると言う絶対王政に なった。その後絶対王制の王に対して、イギリスの商業資本家がその資金を 選挙という手段で民衆に配り、民衆の支持を得て、王政を止め議会制度の 民主主義を確立し、権力を富裕な階層まで行使できるように拡大した。
 その後、段々民衆・女性なども権力の1部とされている選挙権を行使 できるようになってきたのです。
 歴史の法則の第1は、近代・現代になるほど、権力が分散化してきた ことです。

・民主主義とは
 その資本家の政治の思想は、民主主義でしたが、後から労働者階層の思想 としての社会主義に対し、資本家の思想と言う事で資本主義となったのです。
この資本家とは何か?資金をもつ富裕階級ことでしょう。この階層しか高等教育が 受けられなかったため、国の政治を任すことにしたのですが、正当性を 保障するため、選挙という仕組みを作り、資金がないと被選挙権がなく 政治ができないことにして、教育のない民衆の政治関与を制限していたのです。
また、社会主義は、資本家と対立する労働階層が権力を握るとしたが、 高等教育を受けた一部のエリートが全ての権限を持ち、やはり民衆を政治に 関与できない仕組みにしていたのでした。資本主義より民衆が政治に関与 できなかったため、歴史の法則と逆行し、社会主義は思想自体がなくなった のです。この社会主義の失敗の分析は後章にしようと思います。
 いつの時代も、資金を持っている高学歴階級が政治に関与できる制度が、 その社会の思想になるのが世界の歴史の第2の法則です。

・国家権力の制限
 古代から中世にかけては、部族国家から広域な宗教国家へと権力を拡大 していった。近代・現代は2度の世界大戦を経て、とうとう世界が1つの 権力で統一されていく方向になり、戦後国際連合をつくり、国家権力の制限 を徐々におこなっている。また、国同士の関係(投資、貿易等)が緊密に なったことで、アジアの混乱はアメリカにも影響があり、この影響を最小限度 にしようとすると、相手国の政治に関与せざるを得なくなっていることも、 国家権力制限の必要性を正当化しているのです。現在、この世界権力の中枢は アメリカが担っているのです。
 歴史の第3の法則は、地域国家の権力が弱くなってきていることです。
今後、世界的な規範ができて、国家は2次的な権力になる可能性があるのです。

・今後のネットワーク化による個人の行動
 インタ−ネットや衛星放送により、個人が国家の情報や自国報道機関の 情報以上の情報を容易に取得できるようになっってきている。このために、 国家を超えた行動が容易にできるようになった。また、日本の政府や日本の 行動を他国がどう見ているかが個人レベルで理解できるようになっている のです。このため、私も皆さんに日本の報道機関とは違う視点を提供できる のです。世界市民との感覚がCNNやインタネットと見ていると出てくる ようです。英語民族のオーストラリアやイギリス・カナダなどは、本当に ほとんど同じ感覚でいるように私には感じます。このため、今後国より、 世界がより身近に感じる民衆が多くなると思うのです。
今後、歴史の法則には、まだなっていないが、民衆が国を超えた行動が 出来るようになるのでしょう。

2.現状の認識
・現在の資金を持っている層
 1で見たように歴史の法則は3つ。では、日本の現状を分析してみましょう。 日本で現在一番資金を持っているのは、誰でしょうか?その答えは民衆です。 銀行は簡単に破綻するのです。それは、民衆がその銀行に預けた資金を 引き上げればいいのです。また、日本経済・GNPの60%以上が民衆の 選択的消費支出です。この消費がなければ大不況となり、世界恐慌にもなる という怖さです。どうです民衆の力は、一部富裕層よりすごいでしょう。
といっても、日本に至っては、95%の人が中産階級と思っているのです。 この中産階級は、この場合の民衆と同じですから、貧困階級や富裕階層は 日本の場合はほとんどいないのです。
このことから、日本国自体が、民衆国家なのです。
この民衆は、高度の高等教育も受けているのです。実に60%以上の人が 高校以上の教育をうけているのです。
 このため、歴史の第2法則に照らすと、より広範な権力が民衆に 与えられる社会的な仕組みが必要なのです。

・政治制度の疲労
 しかし、現在、この民衆を政治に参加させているのは選挙の時だけで、 あとは一部代表が、国の政治をして、ほとんどの期間、民衆の意向を 無視しているのです。このため、小沢さんのような先導型リーダを 現代日本人は好きではないのです。また、小沢が嫌いなために選んだ自民党 の橋本政権のように、民衆の意向と違う行政をすると、民衆は政治に反発し、 選択的消費を減らし不況にするのです。このことでもわかるように、 民主主義の制度の制度疲労がでてきたように思うのです。この民主主義を 改革し、民衆の意見を有効に取得する方法が必要になっているのです。
 また、日本に投資しているのは、日本人だけでないことが問題を複雑に しています。この日本に投資している人の意見も聞くことが必要です。
このような制度を取らないと、世界の民衆が日本の政治に反発した時 たいへんなことになるのです。

・アジア恐慌の原因
 今回のアジア恐慌は、韓国財閥の短期資金による拡張、アジアの華僑資本家 の不動産投資のやりすぎと日本の民衆の政治への反発により引き起こされた 不況ように、感じられるのですが、この中で、一番世界経済に対して影響が 大きいのが日本の不況です。この原因が、再度言いますが日本の民衆の 政治への反発なのです。
 日本の民衆の選択的消費は、日本のGNP500兆円の60%ですから、 300兆円です。仮にこの20%が減るとすると、60兆円です。
これは、韓国のGNP50兆円やタイのGNP15兆円より、大きいのです。 日本の民衆の力がいかに大きいかです。

3.日本の歴史からの見方
 もう1つ、日本の歴史から見ると、衆議(多数の人での議論)は非常に 大きな意味をもっているのです。衆議がでてくるのは、ごぞんじの聖徳太子の 17条憲法です。この1条が和の規定で、第17条が衆議での合意の条項です。 これは和=衆議の合意の意味なのです。
日本は、衆議の重要性が古い時代からあったために、早い時期から権力の 分散があったのです。古い順では、平将門の国、一向一揆により独立した 加賀や商人が支配した堺が衆議制で政治をしていたのです。

4.マルクス主義の失敗は、なぜか
 先の結論を急ぐ前に、資本主義周辺の現状調査など、寄り道して おきましょう。まず始めに、なぜマルクス主義が失敗したかです。

・マルクス主義とは何か
 皆様は、資本主義の次に来るのが社会・共産主義であると学校時代に 考えたはずですので、ここでなぜ、マルクス・エンゲルスの考えた思想が、 失敗したのか分析したいと思います。この原因が後の考察にも有効になる はずです。
 マルクスは、資本階級と労働階級の利益は相反していて、製品利益の分配 で資本家は、労働市場で必要な労働者を得るために必要な最低賃金しか 与えないはずであるから、労働者に不利であり、資本家に有利になっている と規定した。このため、この改善をするには、労働者が資本を独占し、利益の 分配を労働者相互に平等化する必要があると結論づけたのでした。

・マルクス主義の失敗
 この理論が失敗したのは、当時と今では、必要とする労働の質が違っていて、 この原因は全労働者の2次産業の割合が違うためなのです。もう少し、 分かりやすく言うと、当時(イギリス産業革命とその後の時代)は、 第2次産業の鉱業・工場労働者が大多数で、チャップリンが描いた モダンタイムスの様な単純労働が中心でした。一方、現代は2次産業従業員の 割合は30%以下で、3次産業従業員数は60%以上となっているのです。 この3次産業では、人のアイデアにより売り上げが大きく違ってくるため、 高度な知能労働が必要で、労働者の質が問題になるのです。このため、単純な 労働市場が成立しないのです。また、このような労働者は、高等教育を受けて いる必要があり、社会的にも高等教育が義務教育のように感じる社会になって いるのです。また、この人達は政治的能力も高いはずです。
 よって、上流階級と知的な労働者階級の能力の違いはほとんどなくなり、 数の上で多い労働者の中から経営者になる人が出てくることになるのです。 その内、この会社は労働者の社長が支配することとなり、また、戦後 アメリカの進歩的な人達が日本にきて、財閥解体をしたため、一挙に労働者の 会社が増えていったのでした。これらの会社は、徐々に社員株主や他の会社 からの投資を入れ資本家の支配から脱していったのです。また、この会社も 他の会社へ投資して、他の会社も資本家から経営権を奪い取ることになり、 最後は全ての会社が労働者階層で経営することになってしまったのです。 これが今の日本の姿です。
 今の日本は、純正な資本主義でしょうか?すこし違うように感じます。 では共産主義でしょうか?これも違います。日本型の超資本主義のように 思うのですがどうでしょう。このため、日本の資本主義のことを、 法人資本主義と言ったり、人本主義と言っています。
マルクス・レーニン主義の失敗は、このような事象を看過せず、労働者の質を 上げずに、独裁政治を行ったために民衆と支配階級の2つに分離して、 民衆の支持が最後まで得られなかったためでもあります。

5.ケインズ理論、近代経済学の限界
 ケインズ理論やその後の経済学の根幹は、限界効用仮説です。この限界効用は、 同じ製品でも需要があれば効用が増加し値段が高くなり、需要がなければ 効用が低下して値段が下がることになるという理論です。この理論の発展系 が近経ですので、製品の価格というミクロな視点で、マクロな視点を論議する のです。
 近経でのマクロな経済学は、産業連関など計量経済学ですが、これも マルクス経済学のような思想性がなく、人間のどういう行動するかの巨視的な 目が不足しているのです。
 また、この頃、情報化が発展し、アダム・スミスが言った「見えざる手」 が見えてきたために、好不況の波を大きくしているように感じられるのですが、 このマクロ的な政策の基礎となる思想が確立していないのです。
 これまで近経が経済政策に貢献していたのは、需要を政府が創れば景気が よくなるという単純な理論なのです。しかし、何遍も言う通り、民衆の選択的消費が 日本のGNPの60%と占めるようになると、このような単純な経済政策だけ では、景気の浮揚効果が充分でなくなっているのです。ここがポイントです。
このため、今の経済現象に対して何も説明できない近代・マルクス両経済学の 死と言われるのです。

6.日本の消費者動向について?
・産業界戦後の動向
 まず、この戦後50年のトップ企業を見てみましょう。戦後、 まずエネルギー生産を重視され石炭会社がトップに立つ事になるのです。
そのエネルギーを利用した鉄鋼産業が復活し、次のトップ企業となり、 その鉄を原料とする造船業界が復興し、戦前にはなかった自動車業界、 そして今通信業界やゲーム業界の企業がトップになってきているのです。
日本近代産業史は、必須製品の産業からし好品の産業に産業転換が行われて いることが分かると思います。この傾向と同じような事が個人消費にも 言えるのです。

・消費の内容
 消費者の家計のエンゲル係数はドンドン小さくなって、全消費のたった 20%だけが食費となっているのです。雑費が全消費の61%を占めている。
 下記の数値は1988年の統計で少し古いが、この傾向は段々高まっている 方向であるので、現在はこれより雑費が増えている可能性が大です。
この統計から、交通通信・教養娯楽・交際費の3つが10%づつ使っている のです。この額は食費より大きいのです。このため、生活水準を落したと 思わずに消費の内容を変更できるのです。

        家計支出の内容

   食費 20% ┌──耐久財   4%
   住居  6% │  医療    2%
   光熱費 6% │  交通通信 10%
   被服費 7% │  教育    5%
   雑費 61%──┘  教養娯楽 10%
              交際費  10%
              その他   8%(美容等)
              使途不明 12%(小遣い等)

7.新政治制度の試み
・現状の試み
 この民衆の政治への関与増大が、既に日本の地方政治では開始している のです。例えば、沖縄のヘリポートの可否の直接投票、名古屋のゴミ廃棄地 の可否の直接投票などですが、これを国政のレベルで実施すると、直接投票 となるため、高コストな政治構造になるはずです。
 このため、アメリカでは、ルービン財務長官を始め、クリントン政権は 市場の動向で国民階層の信任を得ているかどうかを判断しているのです。
アメリカの場合は日本と違って、上流階層の資金や法律の401Kにより 年金資金が株式市場に流れているため、この傾向でアメリカ市民の意見を 反映していると見る事ができるのです。また、この年金や上流階層の 投資動向が国の経済に大きな影響があるためです。上流階層の人や勤め人 の年金は必ず資産形成を市場を通しておこなっているので、このような 市場動向により意見収集の代用が可能なのです。日本では、民衆のほとんどは 資産形成のために市場に参加していないし、年金資金が個人積み立てでない ために、この方法は無意味でしょう。このため、日本政治の場合は、 市場の動向も重要ですが、民衆の動向も重要ですので、市場の動向をみるだけ でいいアメリカよりむずかしいのです。

・新政治制度をサポートする技術
 最新技術が、この高コストになる政治制度を安くする可能性があるのです。
直接投票は手間がかかるのですが、それは、紙上に記述してこれを人間が 判断して、得票とするからであり、この方式を止めて新方式にするだけで、 コストは激減するのです。また議論の期間も必要ですので、これも地方会議だけ ではなくWWW上で議論すればいいのです。一部の人が密室での議論は、 今後許されないはずです。この方法も確立は簡単です。地域の行政機関が ウエブサーバを立ち上げ、この中に全ての情報を公開し、この中で議論すれば いいのです。
 議論後には、投票ですがこれだけは、全てを電子的に行うのはムリかも しれないので、アメリカのように事前登録し、ある期間に投票する方法が いいと思います。この時、代替えができないような制度は必要であると 思いますが。

8.新経済学の期待
 情報化による影響の拡大化と経済の民衆化を理論の中に入れた理論にする ことが必要のようです。もう1つ、人間心理を読めるようなの経済の理論が 必要なはずです。
 また、豊かな生活が、自然環境を破壊するようだと、我々の生命を脅かす ことになり、それが豊かな生活とは言えないことになる可能性を検討する 必要があるので、自然を保護し、かつ豊かな生活をするためにはどうする のかの検討が必要でしょう。
 最後に、個人が国家を越えて行動するようになった時、自立した個人の 集合体としての経済が必要で、国家経済学の出番が無くなると考えられます。 マルクスは資本家の搾取を中心にした思想であり、ケインズは利益を最大化 を中心にした思想でしたが、どちらも国家経済を論じていたのです。
今後もこの問題を検討していく必要があると思います。

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