覇権の装置と移行について


   F/1999-8-1

  世界史の中心テーマは、覇権の移行史で、ギボンのローマ興亡史は 覇権確立から滅亡までのローマ史である。
  その他中国の三国志や新書太閤記等、どの地域の歴史書も その地域の覇権の取り合いを描いたものです。

1.覇権のテーゼ
  この歴史書を読むと3つのテーゼがあるようです。
  1.第1テーゼは、覇権国が衰退すると、世界が不安定になると言うこと。
  2.第2テーゼは、覇権国の条件は、軍事力と経済力が他国を圧倒している 必要があることです。
  3.第3テーゼは、覇権の確立は、世界を支配する体制が必要であることです。

  覇権は、世界のすべての人々に影響を与えます。もし、ソ連が世界の覇権を 握ったら、我々の生活は今に比べて貧しくかつ自由のないものになっていた でしょう。
  もし、日本とドイツが世界の覇権を握っていたら?仮定の話は止めましょう。

2.覇権の4条件
  1.軍事力が他国を圧倒していること。
   米国は現在12隻の空母を持ち、3隻の空母を全世界に展開しているのです。
   この3空母で1編成され、1隻が配備、1隻が訓練、1隻が休暇というように 構成している。他国は軽空母を1隻か2隻しか持たず、常時空母を世界に派遣できない。
このように、米国は世界でただ1つの大海軍国となっています。

  2.経済力が他国を圧倒していること。
   軍事力は経済力の裏付けが必要です。軍事力の意味は、自国の海外での 権益の保護が目的です。米国であっても、米国の利益のために軍事力を行使する のです。国連のためでも日本のためでもないのです。
  それでは、経済力が無くなるとどうなるのか?
  この良い例は、ソ連の軍事力が経済的な問題で、米国の展開したスターワーズ に対抗できないこととハッキリしたため、米国との対決を放棄したことです。

  3.文化・思想レベルが他国に比べて高く、その文化・思想をひろめよう とすること。
   戦後生まれた世代は、米国に強烈な印象を持っている。米軍キャンプに いくと、いろいろ便利な道具があり、おいしい食料・お菓子がある。
  米国に強く憧れたものです。これは、文化レベルが高いためです。
この憧れの気持ちは、米国の覇権確立を助けたはずです。
  少なくとも2度と米国と戦争しようとは思わない。

  4.支配体制を確立していること。
   第2次世界大戦後の米国が構築した世界支配体系を見るのがてっとり 早い。米国は戦前参加を拒否した国際連盟に似た国連を作り、通貨体制として プレズン・ウッド体制、IMFを米国指導できる形で作り、金融として、 世界銀行を作った。

3.覇権移行の原因
  覇権の移行は、覇権の条件が揺らいだときです。

 ・軍事力が揺らいだ時
  軍事力が揺らぐと、他国の軍事力に挑戦を受けた時、脅しが効かなくなる。
  このことが、覇権の移行として推移していくことになる始めです。
  また、経済力が他国より劣るとソ連のように軍事力を増強できなくなって しまいます。
  軍事力が強く経済力が弱いと、近代以降では他国の経済権益を守ることに なり、経済原理に反することになり、長続きしないことになる。
  軍事力がグローバルで経済力もグローバル・パワーが一番安定している。
  しかし、軍事力がグローバルで経済力がリージョナルであり、他国が反対に 経済力がグローバルで軍事力がリージョナルである時、世界は不安定になります。

 ・日米関係不調の原因
  日本と米国の1990年代当初も同様の状態になり、米国は日本をたたき、 米国経済の再復興を意図したのです。このため、国家経済会議のローラ・タイソンと MITを中心として、日本経済の原動力を研究し、米国の復活ができ、日本を沈没 させることができたのです。
  米国はNECの方が国家安全保障会議NSCより上に位置づけられた時期が あったのです。今は再度NSCの方が上です。

 ・支配体制の崩壊
  支配体制は、軍事力や経済力に欠陥が現れた後に崩壊となる事が多いのです。 それと文化レベルが他国より低いと判定されると、モンゴルのように軍事力 が少し衰えると、すぐに被支配民族の反乱が多発し、支配ができなくなるのです。

4.覇権移行の歴史
 ・ローマからイスラムへの移行
  ローマ帝国崩壊時、ローマ文化・文献等をイスラムが引き継いだのです。 1世紀以上後、欧州のルネサンスまでイスラムが近代科学の基盤を保管・発展 させたのです。アラセン帝国は中東・地中海地域およびスペインまで制圧した のです。シルクロードの交易で富も得たのです。

 ・スペインから英国への移行
  スペインの無敵艦隊を全滅させて、制海権を英国が取った。そして、 制海権取得の後、産業革命が起こり、経済力・軍事力とも他国を圧倒し、 覇権を確立することにより、大英帝国を築くことになるのです。

 ・英国から米国への移行
  英国の工業力が低下し、経済的に弱くなって、化学工業・自動車工業 などの発展してきた独国に世界を分けてくれと、挑戦を受け第1次・第2次 世界大戦となった。このとき、米国は積極的に英国を助け、第2次世界大戦 後、覇権を英国から引き継いだのです。

5.今後の覇権移行
  米国の現在経済・軍事ともに絶好調で、他国が米国の覇権を取れるとは 思わないのですが、米国経済がおかしくなると、一挙に崩壊する可能性が あり心配しています。それは、累積債務が世界最大で、資金の流出 が起こるとどうなるか分からないためです。米国の影響力は世界的ですので 日本の景気にも多大な悪影響を及ぼすはずです。
  日本が気がつかずにいたのですが、防衛費では世界で米国に次ぎ多いのです。
  このため、日米同盟、NATO、米韓同盟では日本だけが在米経費のほとんど を拠出しています。在日米国軍は米国で一番安い軍隊なのです。
  日本の地政的にも、横須賀は海外米国軍で唯一空母を修理できる乾ドックが ある空母基地ですし、米国と正反対のアジアにあり、政権も安定している民主主義国 ですので安心です。
英国等の欧州中軸国は安定していますが、EC全体というと疑問です。 米国の言う通りにならない可能性も高いのです。NATOに軍を出していない仏国 が良い例です。
  この米国が覇権維持できなくなったとき、日本か欧州しか覇権は維持できない と思います。今は米国の負担を軽くして、協同で世界の安定化を図ることが重要 です。
 

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