723−1.ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−3



YS/2001.11.22
     ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)−3

■動き始めたジョージ・ソロス
 10月31日、ジョージ・ソロス氏率いるソロス・ファンド・
マネジメントは、新たなCEOにウィリアム・スタック氏(54)
が就任したと発表する。スタック氏は、ドイツの銀行大手ドレス
ナー銀行傘下の運用会社ドレスナーRCMグローバルインベスタ
ーズ最高投資責任者だった人物である。
                   
 ソロス氏は、ヘッジファンドの第一線から退くのではないかと
みられていたが、体制を整えて再び積極的な投資活動を再開する
可能性が高い。

 9月11日以降、外為市場では米国による軍事行動や報復テロ
などの行方が読みづらいことから、銀行などの主要市場参加者が
活発な取引に動けない状況が続いており、この人事によってソロ
ス氏が債券・為替投資型の新たなファンドを準備するのではない
かと予測される。

 最近、ソロス氏とアメリカ政府との密接な関係が目立っている。
昨年7月にクリントン政権の政府ミッションとして、ニュービジ
ネスの開拓、拡大、再建を目的にサウスイースト・ヨーロッパ・
エクイティ・ファンドが開始される。このファンドの運用には、
国家安全保障担当顧問を務めたサミュエル・バーガー氏とオーバ
ーシーズ・プライベイト・インベストメント(OPIC)社長兼
CEOジョージ・ムノーズ氏と並んでソロス氏率いるソロス・プ
ライベイト・ファンド・マネジメント (SPFM)が選ばれた。

 サミュエル・バーガー氏は、ヘンリー・キッシンジャー氏も認
めるアメリカで最も影響力のある国際戦略のエキスパートとして、
ストーンブリッジ・インターナショナルの会長とリーマン・ブラ
ザーズの上級顧問を務めている。

 ブッシュ政権も今年3月にアメリカ合衆国国際開発局(USA
ID)とオープン・ソサエティー研究所(別名「ソロス財団」)
が共同で設立しているバルチック・アメリカン・パートナーシッ
プ・ファンド(BAPF)の積極的な支援を打ち出している。

■オープン・ソサエティー研究所(別名「ソロス財団」)
 1930年、ハンガリーのブダペスト生まれたソロス氏は、ロ
ンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)在学中に出会
った哲学者カール・ポパーの著書に親しみ、その後の思想形成と
慈善事業活動に影響を与えた。

 ソロス氏は、1979年に最初の取り組みとしてオープン・ソ
サエティー・ファンドを立ち上げる。1984年にはハンガリー
でイースタン・ヨーロピアン財団を設立。その活動範囲は中欧、
東欧、旧ソ連の全域から現在では南アフリカ、ハイチ、グァテマ
ラ、モンゴル、アメリカなども加えて計31カ国に拡大していく。

 この活動の中枢機能として1993年に設立されたのがオープ
ン・ソサエティー研究所である。ニューヨークを本部にブリュッ
セル、ブダペスト、パリ、ワシントンに事務所を置き、50カ国
以上にまたがるネットワークのセンターとして教育、メディア、
ジェンダー、経済問題等のプログラムを作成している。なお20
00年度の総支出額は約5億ドルである。

 ソロス氏は長年麻薬合法化に向けてなにやら一生懸命なのであ
る。ニューヨークを中心に莫大な資金を投入して、メディアを巻
き込んだキャンペーンを実施してきた。そしてようやくパタキ・
ニューヨーク州知事及び州議会のリーダーらは、今年になって麻
薬法を見直すことに合意する。現在の麻薬法は、1973年に当
時のネルソン・A・ロックフェラー知事が作ったものでロックフ
ェラー・ドラッグ法と呼ばれている。まだ第一歩に過ぎず、「開
かれ過ぎ」との批判も多く、果たして実現できるかどうかは疑わ
しい。

 なおロックフェラーと言えば、前述のバルチック・アメリカン
・パートナーシップ・ファンド(BAPF)の役員会会長は、ロ
ックフェラー・ブラザーズ・ファンドのウィリアム・ムーディー
氏が務めている。

 また1995年のボローニャ大学の同大学最高栄誉賞である
「ラウレア・オノリス・カウサ」に続いて、1999年には日本
でも人気の高い20世紀を代表する政治思想家ハンナ・アレント
(Hannah Arendt、1906−1976)の名にちなんだハンナ・
アレント賞を授けられた。この選定委員には、今年退任したロッ
クフェラー・ブラザーズ・ファンドの前議長コリン・キャンベル
氏も含まれている。

 ロスチャイルドと並ぶ世界的な二大企業グループの間で巧みに
泳ぎ回る術は、今でも衰えてはいないようだ。

 しかし?訟から逃れる術はまだ身につけていない。昨年末も
パリ予審判事が、ソロス氏、ナウリ元仏大蔵省官房長など4人を
インサイダー取引の疑いでパリの裁判所に起訴した。これは、仏
政府が1988年にソシエテ・ジェネラル株を政府系機関を通じ
て買い支えた際に、ソロス氏らが事前に情報を得て不正な利益を
得たとの疑惑である。

 常に彼のまわりにつきまとう疑惑には、カール・ポッパーが生
きていればさぞかし困惑しただろう。

■ソロス氏とペルー、中国、日本、そしてカスピ海
 フジモリ政権の崩壊以来、政治混乱が続いていたペルーでは、
今年7月、先住民系のトレド大統領(55)率いる新政権が発足
した。選挙ではユダヤ系であるソロス氏がトレド陣営に多額の献
金をしていたようだ。その結果、第二副大統領でもあるバイスマ
ン国防相、クチンスキ経済財政相など多くのユダヤ人脈を政権に
送り込むことに成功する。

 今年10月には、中国で大学を設立する準備に取りかかると発
表する。すでに教育ベンチャー事業の一環として、ソロス氏は、
セントラル・ヨーロピアン・ユニバーシティーを設立しており、
実現すればその第二弾となる。WTO加盟で世界中の大物が連日
のように中国に押し寄せる中、得意の戦略で挑むようだ。

 さてあまり話題にはならないが、日本にもすでに上陸している。
ソロス・リアル・エステート・インベスターズは、投資対象をホ
テルに絞り込み、米ホテル運営大手のウエストモント・ホスピタ
リティ・グループと組んで、京都ロイヤルホテルとリーガロイヤ
ルホテル成田を取得した。

 なおソロス財団の支出先として、ロシア5657万ドルも含め
て、カスピ海沿岸地域への積極性が読みとれる(グルジア537
万ドル、カザフスタン490万ドル、ウズベキスタン412万ド
ル、アゼルバイジャン325万ドル、アルメニア191万ドル等)
。カスピ海地域の石油、天然ガス資源をめぐる「ニュー・グレー
ト・ゲーム」の陰のプレイヤーであろう。

■ソロス氏の後継者達
 11月15日保険・再保険業務などを中心とする金融会社XL
キャピタルは、フロントポイント・パートナーズに5億ドルの投
資を行うことを発表する。このフロントポイント・パートナーズ
は、ソロス・ファンド・マネジメントやジュリアン・ロバートソ
ン氏が率いたタイガー・マネジメント、モルガン・スタンレー等
の出身者が集まるヘッジファンドの最強軍団でもある。

 このXLキャピタル自体もバンカーズ・トラスト、J・P・モ
ルガン、マーシュ&マクレナン、マッキンゼー、ベクテル、ロッ
クフェラー保険等の出身者で固められた超エリート集団が率いて
いる。そして本拠地をバミューダに置くオフショアカンパニーで
ある。

 ところで、10月に入って米証券取引委員会(SEC)は、証
券ブローカーらに対して同時多発テロ直前に不審な取引が行われ
ていた兆候があるかどうか38銘柄について取引記録を調査する
よう要請しているが、その38銘柄の中にXLキャピタルの名前
もある。

 しかし真相は決して公表されないだろう。なぜならソロス氏が
パートナーを務めるカーライル・グループにはSEC前委員長の
アーサー・レビット氏が今年5月1日付けで上級顧問に就任して
いるのである。なおレビット氏は過去最長の7年半にわたってS
EC委員長を務めた人物である。

 なおアーサー・レビット氏は、カーライル・グループの上級顧
問に就任する2ヶ月前の今年3月には、金融・経済情報メディア
として知られるブルームバーグの取締役にも就任している。そし
て、このブルームバーグを一代で築き上げたマイケル・ブルーム
バーグ氏が、今月11月に行われた市長選に勝利し、ジュリアー
ニ現市長(共和党)の後任として、来年1月から同時多発テロで
大打撃を受けたニューヨークの復興に向けかじ取り役を担うこと
になる。

 「ヘッジファンド」(浜田和幸著 文春新書)によれば、ソロ
ス氏の口癖は、「エリザベス女王陛下の資産運用をお手伝いして
いる」ということらしい。この言葉には憧れにも似た彼の本音が
あるようだ。悲しいことに、この世界にはビッグ・リンカーはい
ない。                      
                         (つづく)


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