681−2.ニュー・グレート・ゲーム



YS/2001.10.09
        ニュー・グレート・ゲーム
■ニュー・グレート・ゲーム

 「米CNNテレビ」は10月7日(日本時間8日)、カブール
市内での攻撃開始の模様をとらえた映像をいち早く放映した。つ
いにアメリカの大規模な報復が開始された。長く続く戦いが始ま
ったようだ。

 9月11日、イスラム原理主義のアメリカに向けられた憎悪と
妬みは、民間旅客機を巨大な兵器に変え、アメリカの富の象徴を
瞬時に崩壊させる。そして、憎しみが更なる憎しみを生み出す。

 10月8日、タリバンは、まるで待っていたかのようにウズベ
キスタンへの攻撃を宣言し、ロシアが動き始めた。そしてアメリ
カは、再びイラクへの攻撃を示唆する。プレイヤーは今後ますま
す増えてくるだろう。西側諸国の思惑が入り乱れ、場合によって
はこの戦争が、19世紀後半から続くカスピ海地域の石油、天然
ガス資源をめぐる「ニュー・グレート・ゲーム」に発展する様相
を呈してくるだろう。そして同時に新たな冷戦構造へとつながり
かねない。

 しかし、この戦争には個人的な遺恨も潜んでいるようだ。だと
すると起こるべくして起こったのかもしれない。

■1988年 テキサス

 ひとりの人物がテキサスで軽飛行機事故で死んである。彼の名
は、サレム・ビンラディン氏、ウサマ・ビンラディン容疑者の長
兄にあたる人物である。サレム氏は、サウジの裕福な事業家だっ
た父の後を継ぎ、アメリカでのビジネスを任されていた。
 
 この事故は、その後いくつかの憶測を呼び起こすことになる。
つまり、彼が厄介な目撃者として排除されたとの見方である。少
なくともビンラディン一族は、固くそう信じているようである。

 もうひとりの主人公がいる。彼は、1968年5月、エール大
学歴史学部を卒業し、父親の元パートナーのもとで働くなどした
後、1973年にハーバード大ビジネス・スクールに入学する。
ここで経営を学び、1975年に経営学修士号を取得し、石油事
業を試みることになる。また、鉱業権や鉱区使用権の取引や、採
掘プロジェクトへの投資を行っていた。 
 
 彼は、アルブスト・エナジーという会社を設立したが、経営難
に陥り、1984年、別の中小石油探査会社と合併し、スペクト
ラム7という新企業の社長となった。しかし、石油価格の急落が
続き、スペクトラム社の財務状況は逼迫した。1986年には、
ハークン・エナジー・コーポレーションが、同社を買収した。彼
は、しばらくの間ハークン社のコンサルタントを務めたが、その
後は、父親の大統領選挙運動に、顧問兼スピーチライターとして
参加した。

 1994年11月、彼は少年時代を過ごしたテキサス州知事に
なる。彼の名は、現在のアメリカ大統領ジョージ・W・ブッシュ
である。
 
 1988年といえば、父親が大統領に当選した年でもある。そ
してブッシュ氏がアルブスト・エナジーを設立する際に、サレム
氏が共同出資者となっていたとする疑惑が持たれている。これは、
航空機ブローカーであったサレム氏の代理人ジェームス・バスを
通じて行われたようだ。

 テキサスを舞台にちょうど同じ時期に「飛行機」と「石油」と
「ブッシュ家」と「ビンラディン家」と「死」のキーワードが存
在していたことは事実のようだ。父親のブッシュ元大統領は、元
CIA長官だった。何が起こっていても不思議ではない。しかし、
真実は永久に公開されないだろう。

 そして、13年後にすべてのキーワードが再び蘇ることになる。

■米仏の駆け引き イラクもついでにやっちゃえ?

 9月20日付けニューヨーク・タイムス紙は、報復攻撃をめぐ
りブッシュ政権内部で、イラクにも大規模な武力行使を主張する
強硬派と、前段階での外交戦略を重視する穏健派との間で「最初
のハイレベルの対立」が生じていると報じた。

 「なぜイラク?」と考えるのが普通であるが、突如として浮上
した「イラクもついでにやっちゃえ」にアメリカの本音が見え隠
れしている。強硬派の中心は、ウルフォウィッツ国防副長官とチ
ェイニー副大統領の首席補佐官ルイス・リビー氏である。

 ウォルフォウィッツ副長官の主張は「今回のテロとの関連があ
ってもなくても、イラクはテロ支援国家。これを機に攻撃すべき
だ」との論理に基づいている。ワシントンの保守系政治組織の一
部も、イラク攻撃を要望するロビー活動を始めた。なんとも恐ろ
しい国である。

 この強硬派に対してパウエル国務長官は「同盟国とよく協議す
るなど外交努力の重要性を訴え、軍事行動は国際法に基づかない
とならない」と真っ向から対立している。

 こうしたアメリカ側の思惑を真っ先に嗅ぎ取ったのはフランス
である。思い出して欲しい。今年のジェノバ・サミットで京都議
定書問題を巡ってブッシュ大統領とシラク仏大統領が、周囲があ
わててとりなすほどの正面衝突があったことを。ここに京都議定
書と同じ構図が見えてくる。

 シラク大統領は9月18日、ブッシュ米大統領との会談を行う
が、おそらくこの時にイラクへの攻撃に対して強い懸念を示した
ようだ。これとひき替えにアメリカ支援を打ち出したと考えられ
る。

 湾岸戦争の時にも石油を巡ってイラクとの政治的、経済的な思
惑を持つロシアやフランスの存在が西側の結束を遅らせた要因と
なっている。

 現にシラク大統領は、帰国後すぐにロシアのプーチン大統領と
電話会談を行い、「テロ対策には国連および国連安全保障理事会
を筆頭にしたすべての国際メカニズムを活用すべきだ」との認識
で一致したと伝えている。ここでブッシュ政権内の強硬派に対し
て再びけん制したのである。

 また国連を持ち出したことに非常に重要な意味がある。現在イ
ラクの原油輸出の代金は、ドル建てからユーロ建てになっている。
これにはフランスなど欧州主要国の働きかけがあったとの説が根
強く、ユーロ相場をテコ入れしたい欧州勢と、欧州を後ろ盾に米
国をけん制しようとするイラクの思惑が一致して実現したようだ。

 フセイン政権が原油代金を「敵国通貨」のドルではなくユーロ
で受け取ると迫ったのは昨年10月であり、認めなければ原油輸
出を止めると脅したため、国連安保理のイラク制裁委員会はこれ
を承認した。

 国連が管理するイラク口座には100億ドル以上のお金がある
といわれ、その管理銀行は仏最大手のBNPパリバである。この
BNPパリバの取締役会には、すでにコラムで紹介したビベンデ
ィ・ユニバーサルのジャン−マリー・メシエ会長を筆頭にフラン
ス・インナー・サークルが集結している。そして、BNPパリバ
は、この戦争の鍵を握る企業と密接な関係がある。

■トタルフィナ・エルフ
 
 トタルフィナ・エルフは、1999年に国境を越えた吸収合併
を繰り返して一気に誕生したフランスを代表する石油メジャーで
ある。

 仏トタルがベルギーの石油大手ペトロフィナを吸収合併し、フ
ランス第一の石油会社トタルフィナとなる。その後すぐに日本の
石油公団のような国営企業であったエルフ・アキテーヌと合併し、
現在のトタルフィナ・エルフとなる。

 エクソン・モービル(米)、ロイヤル・ダッチ・シェル(英蘭)
 BPアモコ(英米)に次ぐ世界4位の石油メジャーである。

 BNPパリバとトタルフィナ・エルフとは、2件の取締役兼任
により結合しており、相互に情報を共有できる体制にある。また
BNPパリバには、ドイツドレスナーバンクや保険大手アクサと
も結合している点は注目に値する。

 このトタルフィナ・エルフでは、国策重視の観点からいわば強
引にメジャー化を推し進めたため、合併前からコール前独首相、
ミッテラン元仏大統領、デュマ元外相を巻き込んだ一連の汚職事
件が続いている。私自身はアメリカのエシュロンが深く介在して
いると予測している。それ程、米系石油メジャーとアメリカのエ
ネルギー戦略にとって最も恐れられる存在となっている。

 現在、フランスは、「ユーロ建て」を武器にイラク政府との間
で天然ガス開発計画を進めようとしているが、この計画には、ト
タルフィナ・エルフや仏ガス公社(GDF)などが参加する予定
となっており、この計画は対イラク制裁が解除されれば正式締結
される見込みだ。

 またトタルフィナ・エルフは、イラン・リビア制裁法で動きの
とれない米系石油メジャーをしり目に、イランに対してもカスピ
海からイランのペルシャ湾を結ぶガス・パイプラインの建設を構
想しており、アメリカのイランやロシアをう回し、カスピ海とト
ルコを結ぶパイプライン計画と真っ向から対立している。

 フランスに続いて伊ENIは油田開発に調印し、日本勢は石油
に続き天然ガス田開発に乗り出し、中国もイランでの資源開発に
意欲的な姿勢を見せている。

 アメリカにとって唯一の牙城であるサウジアラビアに対しても
トタルフィナ・エルフの攻勢が開始されており、米系石油メジャ
ーが焦燥感を強める中、この事件が発生したのである。

 なお、もし日本政府がトップシークレットの情報を得たいので
あれば、秘策がここに隠されている。自民党の麻生・バズーカ・
太郎政調会長も近い存在ではあるが、その言動からいささか疑問
を感じざるを得ない。

■パウエル国務長官の得意技

 穏健派で人気を博しているパウエル国務長官は、カタールのハ
マド首長に対して「アラブ世界のCNN」といわれる衛星テレビ
局アルジャジーラに影響力を行使するよう依頼する。アルジャジ
ーラは、中東では数少ない独立・中立的な報道機関であり、米国
に対しても批判を向ける姿勢に対してお気に召さなかったようだ。

 実はこれがパウエル国務長官の得意技でもある。あまり知られ
てはいないが、パウエル氏は、AOLタイムワーナーが合併する
前まで、アメリカ・オンライン(AOL)の取締役であった。
 
 現在AOLタイムワーナーの傘下に「米CNN」や米タイム誌
があり、現在のAOLタイムワーナーのステファン・ケース会長
は、パウエル氏にとって元同僚の関係になる。「米CNNテレビ」
が、いつもいち早く放映する理由がここにある。

 他にパウエル氏は、米エンジニアリング大手のベクテル社のエ
グゼクティブも務めたこともあるが、このベクテル社は、米政府
が推し進めてきたアゼルバイジャンからのトルクメニスタンを通
る天然ガスパイプライン建設コンソーシアムの中核企業であった。
この計画は、ロシア側からの攻勢等により交渉がこじれ、撤退す
る事態にまで陥った経緯がある。

 それにしても、今回のパウエル国務長官のハマド首長に対する
要請は、果たして日本にはなかったのだろうか。

■歴史に残る「ショー・ザ・フラッグ」

 10月5日、日本記者クラブで行われたハワード・ベーカー駐
日米大使の講演で、アーミテージ国務副長官の「ショー・ザ・フ
ラッグ」について、「これは英語の慣用句。『旗幟(きし)鮮明
にせよ』ということを意味したのではないか。自衛隊派遣まで考
えてなかったと思う」との見方を示す。

 日本国内では一般的に「日の丸を見せてほしい」と訳され、事
実上の自衛隊海外派遣のきっかけをつくった。その経過を詳しく
見てみよう。

 テロ発生の翌12日、小泉首相は福田康夫官房長官を執務室に
呼んで「自衛隊の派遣も含めて検討してほしい」と伝えていたが、
政府・与党内の足並みはそろっていなかった。

 そして15日。ワシントンにある国務省の一室でアーミテージ
国務副長官が柳井俊二駐米大使に「ショー・ザ・フラッグ」を告
げる。アーミテージ国務副長官は、米政府きっての知日派で対テ
ロ戦略を練る中心人物であり、会談内容を記録した公電は「極秘
扱い」になった。

 巨額の資金協力をしながら評価されなかった10年前の湾岸戦
争時の「ツー・リトル、ツー・レイト(少なすぎる、遅すぎる)」
の二の舞いは避けたいとの強迫観念にも似た思いから、野上義二
事務次官ら外務省幹部の間にはテロ発生直後から強い危機感を持
っていた。

 野上事務次官と確執が続く英語に強い田中真紀子外相は、米国
務省職員の退避先を記者団に明かした問題に絡み、柳井駐米大使
との直接の電話をつながないよう野上事務次官から部下に指示が
出ていた。

 おそらくこのときに「『日の丸を見せてほしい』でいっちゃえ
〜」となったと予測される。

  防衛庁幹部は『空母と日の丸を付けた護衛艦のツーショット
が、「CNN」にでも流れればうれしい』と有頂天になり、政治
家たちは次々に「派遣賛成派」に転じていく。小泉首相は歓声を
上げ、一気に自衛隊派遣の流れができることになる。

 10年前の湾岸危機における日本に対する批判がトラウマとな
って、異常な行動につながることになるが、本来歯止めとなるべ
きマスコミが全く機能していなかった。同時多発テロ発生から、
10月4日の衆院予算委員会で民主党の菅直人幹事長が小泉首相
に対して、「ショー・ザ・フラッグ」の意味を問いつめるまでの
間、この誤訳にふれた記事は日経、朝日、毎日、読売、産経5紙
でわずか一件である。何の検証もせず、「日の丸」や「旗」を流
し続けた。

 一件の記事は9月28日付け毎日新聞長官に掲載された。
『[私はこう考える]米国同時多発テロと日本』の中で 栗山尚
一・元駐米大使が記者との質問に答えている。
=============================
――「日の丸」が見える支援は、決定的に重要なことですか。
◆アーミテージ米国務副長官が「ショー・ザ・フラッグ」と(柳
井俊二駐米大使に)言った件だろうが、あの人は、湾岸戦争の時
も同じことを言っていた。やはり「リスクを負ってほしい」とい
うこと。

――「汗」はまだしも「血」を流す国民合意がありますか。
◆米軍や多国籍軍に参加して前線まで出て戦うことは、現時点で
日本がやらねばならないとは必ずしも思わない。その他の面で協
力することは憲法でも認められている。その過程で尊い人命が失
われることも、全くは排除されない。リスクを負う、と言ったの
はそういうことだ。
=============================

 特に目に余る誤訳を伝えたのは、産経新聞である。9月21日
朝刊の『【新法を追う】テロ対策 自衛隊の派遣決断 踏み出し
た「見える支援」』にて、「『日章旗』を見せてほしい」と書い
ている。これは完全な行き過ぎである。戦前を思い出させる異常
なものが垣間見られる。断じて許されるものではない。

■日本の国際協力

 ハワード・ベーカー駐日米大使の「ショー・ザ・フラッグ」誤
訳発言は、日本政府の外圧利用政策への痛烈な批判も含まれてい
る。また小泉政権への不信感の表れだろう。

 アメリカがこんな時でも一貫して日本に要求している協力とは、
不良債権処理である。ようやく実現した9月25日の日米首脳会
議でも、ブッシュ大統領は、敢えて踏み込んで不良債権処理に言
及している。ブッシュ政権が、今回の同時多発テロで何よりも怖
がっているのは、世界的な金融危機であり、日本がその一因にな
りえる可能性を見抜いているのである。

 国際協力を完全に間違えて理解し、猛然と突き進む小泉丸の前
途は険しいものとなるだろう。そして、第二、第三の危機が日本
発となる危険性をはらんでいる。

 しかし、これは日本にとって絶好のチャンスでもある。更なる
不良債権の発生すなわち世界的な金融危機回避を目的に、早期戦
争終結を訴えることは、極めて説得力があり、自国のみならず世
界的な支持を集めるはずだ。本来日本には、「ニュー・グレート
・ゲーム」への参加資格などない。ましてや外務省が正常に機能
していない以上、無謀ですらある。この点を踏まえて早急に政策
の見直しが必要であろう。

 一部経済界に戦争特需を待望する勢力も存在しているようだが、
時代に応じて需要は変化する。今回の戦争の特徴が限定的攻撃と
徹底した諜報戦と見られている点で、戦争特需が生まれたとして
も極めて限定されたものになる。

 残念ながら古き良き時代にはもどれない。過剰な期待をせず、
粛々と燃料電池電池に代表されるエネルギー技術に取り組む方が
はるかに戦略的である。

参考・引用
CNN、CNNジャパン、英エコノミスト、ロイター、ワシント
ン・ポスト、ニューヨーク・タイムス、ロサンゼルス・タイムス
他海外メディア
日本経済新聞、時事通信、共同通信、産経新聞、毎日新聞、朝日
新聞、読売新聞、NHK他日本メディア

■ABOUT TEH BIN LADEN FAMILY
http://www.pbs.org/wgbh/pages/frontline/shows/binladen/who/family.html

●About PBS
http://www.pbs.org/insidepbs/

●PBS Board Of Directors
http://www.pbs.org/insidepbs/annualreport/leadership.html

■KLA and Drugs:The `New Colombia of Europe'Grows in Balkans
http://www.larouchepub.com/other/2001/2824_kla_drugs.html

■Harken Energy Corporation
http://www.harkenenergy.com/index2.asp

■小型燃料電池実用化へ、NASAが日本で提携先募集
http://www3.nikkei.co.jp/kensaku/kekka.cfm?id=2001092305765

■米国防見直し、柱は諜報活動強化とナノテク利用
http://www.yomiuri.co.jp/05/20011002i111.htm

■QDRのPDFファイル
http://www.defenselink.mil/pubs/qdr2001.pdf


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