513.京都議定書と21世紀覇権構造(1)



YS&柳太郎/2001.04.23
★サステナブル・ディベロプメント=持続可能な開発は可能か?★
         ======京都議定書と21世紀覇権構造(1)======

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▼YS
今回のアメリカの京都議定書離脱問題は国際関係上極めて興味深い
問題になったように思います。

アメリカがあり、反米色の強くなったEUの結束があり、途上国が
ある。そしてNGOも第三の勢力として大きく関わってきています。

このなかで途上国の姿がみえてこないんですね。
このあたり柳太郎さんはどう考えますか?
アメリカの新提案には、途上国への戦略も反映されると思います。
いいように利用されなければいいんですが。

▼柳太郎
この辺の見方なのですが,一つは、途上国があまり口出ししすぎる
と、IMFの補助金の条件が悪くなるということで、アメリカのや
ってることにはあまり積極的に否定しないという面があると思いま
す。

もう一つですが、レジーム理論が参考になると思います。
レジーム理論とは、リーダー(覇権)国が築き上げた枠組みの中で、
物事がルール付けされ、安定に向かうといった内容のものです。
これには二つの見方があり、ひとつは、このルールの下ではどの国
にも利益をもたらす方向に行くというリベラルな考え、もう一つは
強者が得をするようになるという現実主義的な見方です。

中国、インド、ブラジルなどは日本よりも二酸化炭素を多く排出し
ているわけですが、温暖化防止のためには,これらの国の積極的参
加も将来的には必要になるのは目に見えています。
ところが、そのためには、これらの国の経済成長を抑制しなければ
ならないということになります。

つまり、現実主義的な見方をすれば、この議定書は将来的に途上国
にとって不利な方向に働く可能性を秘めているということになりま
す。そこで、途上国にとってはあえて反対意見を唱える必要はない
わけです。

逆にアメリカは、この議定書を盾に、途上国を巻き込む方向に持っ
ていき、温暖化防止協定を結ばせることで、中国、ロシア、インド
などの将来の経済的ライバルの芽を早いうちに摘んでおくといった
手に出ようとしているかもしれません。

今のところ、上記の二つが主な原因かと思いますが、
アメリカの出方次第では途上国も対応を変えてくると思いますので、
そこが見ものでしょう。

▼YS
現在EU側は、途上国の協力を取り付けたと表明しています。
7月のCOP6までにアメリカは巻き返すことができると思います
か? 私はかなり否定的です。

加州電力危機が他州へと拡大しながら、長期化する気配を見せてい
ます。国内問題に追われて。アメリカ本来の外交戦略が機能するか
疑わしい。

アメリカは、環境技術面でEUと比べて大きく遅れています。
20世紀に獲得した石油覇権体制が足かせとなっています。
チェルノブイリを身近に経験したEU側は、まさにこの特性を見抜
いて準備してきました。
EU側とすれば本格的な覇権調整に持っていきたいのではないでし
ょぅか。

そのとき「武器としての環境」の具体的な構成が見えてこない。
従ってイデオロギーの柱にはなりえる要素はあるものの軍事や食料
分野に直接関わってきません。実際のパワーは極めて限定的です。

従って20世紀のアメリカのような強力な覇権体制は難しいでしょ
う。このあたりの長期的な戦略がみえてこないですね。
そうなると、分散型の共同覇権体制ということになります。
このあたりはどう予測されますか?


▼柳太郎
まず、EUが途上国協力を取り付けたと表明した」いう部分ですが、
途上国は具体的にどの国を指すのかがポイントだと思います。
例えば、「『中所得国』になるまではCO2削減などの規制には応
じられない」と表明している中国は、この件に関してどのような立
場をとろうとしているのか、といったところは注目に値します。

また、「途上国」が意味するところが、欧米の旧植民地国を主に指
しているのだ、とすれば、これも注目すべきところです。
旧宗主国が中心的役割を果たしているEUとの関係を強化し、経済
的な援助、産業における技術支援を中心とした関係を結んでいこう
としているのであれば、環境問題を機に、新たな勢力図が生まれよ
うとしているのかもしれません。
アフリカ諸国が自国の利益を常に優先させてきたアメリカのネオリ
ベラル的なイデオロギーから脱却しようとしていると考えても不思
議ではないでしょう。

これを基に、次の「分散型の共同覇権体制」に関して考えることが
できると思います。アメリカは、環境問題のようにEU主導で国際
的な政策を打ちされることには、自国の不利益に結びつくこともあ
りえるという観点から、基本的には阻止しようとする力が働くと思
います。

一方EUは、NATO以外にEU独自の軍隊を作り上げようとする
案を検討し、EUという国家連合を一つの擬似国家のレベルまで発
展させようとしており、アメリカやアジアに対する影響力を高めよ
うとしています。

ですから、EUがアフリカや中東の国々と経済的な援助関係を結ぶ
ことで、EUの覇権態勢が確立されていく可能性は十分あると思い
ます。ただ、世界的な覇権体制というよりは、どちらかというと地
域的なものであろうとは思います。

たとえば、北アメリカとラテンアメリカの関係、EUとアフリカ諸
国の関係が主なものになってくるかもしれません。
日本と東南アジア諸国の関係はどうか。
残念ながら、今のところ日本がこの地域で覇権的な力を握ることは
難しそうですね。
(つづく)

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