466−1.THE LAST RESORT in DAVOS 2



YS/2001.03.11
THE LAST RESORT in DAVOS 2
        −ミッデルホフの逆襲−
■AOLとの訣別

 2000年1月にコラム「THE LAST RESORT in 
DAVOS」で、AOLの社外取締役であったベルテルスマンのCEO
トマス・ミッデルホフが、AOLタイム・ワーナー誕生により辞任を示
唆していると書いた。事実彼はAOLを去ることになるが、1953年
生まれの若きリーダーはその後とてつもないことをしでかすことになる。

■ビベンディ・ユニバーサル誕生

 2000年6月20日、フランスの複合企業のビベンディと同社傘下
の有料テレビ会社カナルプリュス、そしてユニバーサル映画などを持つ
カナダの醸造・娯楽企業シーグラムの三社の合併が合意したと発表され
た。ビベンディ側によるシーグラムの事実上の買収となり、買収総額は
約340億ドル(約3兆6千億円)にのぼる。

 ビベンディと言っても日本ではまだ馴染みのない名前かもしれないが、
現在のフランスでは赤丸急上昇中の企業グループである。従業員は27
万5千人、売上高は約410億ドルでこの企業を率いるジャン−マリー
・メシエも若干44歳の若きエリートである。

 シーグラムはまもなく大阪に完成するハリウッド映画大手ユニバーサ
ル・スタジオズに加え、ユニバーサル・ミュージック、ポリグラムなど
豊富な音楽コンテンツを持っている。ユニバーサル・スタジオズは90
年に松下電器産業が買収したが、経営方針の違いから「シーバース・リ
ーガル」で有名なシーグラムに売却されたという経緯がある。

 今回のビベンディ・ユニバーサル誕生により米AOLタイム・ワーナ
ー、日ソニー・ミュージックエンタテインメント、独ベルテルスマン、
英EMIグループのわずか5社が、市場に出回っている楽曲の約9割を
配給することになる。

■ビベンディ・ユニバーサルの取締役会

 ビベンディ・ユニバーサルの取締役会には何かと話題の多いシーグラ
ムのブロンフマンも副会長に就任するが、なんとここにトマス・ミッデ
ルホフが社外取締役としてしっかりと名を列ねている。1999年より
ビベンディの取締役に就任してきたが、シーグラム買収の動機がここに
あるようだ。

 実はネット事業でもビベンディは、AOLフランスの経営権を持つほ
か、ボーダフォンとの合弁会社によるポータル事業では「米ヤフーをし
のぐものにする」(メシエ会長)と積極的に取り組んできた。そして遂
に3月5日にはビベンディ・ユニバーサルは、AOLフランスの保有株
をAOLタイム・ワーナーに7億ドルで売却することに原則合意する。

■ダボスで語られた新たなる再編

 今年のダボス会議でも情報技術(IT)関連では、ゲイツマイクロソ
フト、クーグル・ヤフー会長と並んでトマス・ミッデルホフもジャン−
マリー・メシエも昨年同様顔をそろえた。そして忘れてはならないのは
今年も同席した出井伸之ソニー会長の存在である。出井会長は、エレク
トロラックス、GMに続いて4月からはスイスに本社を構える食品、飲
料で名高いネスレの社外取締役にも内定しており世界的トップエリート
の階段を駆け昇っている。

 ソニーの欧州本社ソニー・ヨーロッパ(ベルリン)は昨年11月にビ
ベンディ傘下で、欧州最大の有料テレビサービス会社、仏カナルプリュ
スの子会社の株式3%を取得すると発表しており、今年2月にはビベン
ディ・ユニバーサルとソニーとの合弁会社「デュエット」の設立を発表
した。

 メシエ会長は仏経済紙トリビューヌで、「デュエット」によりインタ
ーネットでの音楽著作権を扱うことで「世界の音楽著作権の約半数を占
めるようになるだろう」と述べている。

■ナップスター訴訟

 3月5日サンフランシスコ連邦地方裁判所は、インターネット上で音
楽無料交換サービスを展開する米ナップスターに対する仮命令を下した。
この訴訟は1999年12月に、旧ユニバーサル・ミュージック、ソニ
ー・ミュージック、旧ワーナー・ミュージック、EMIグループ、ベル
テルスマン傘下のBMGなど世界の大手レコード各社が起こしたもので
ある。

 ここで気になるのはミッデルホフ率いるベルテルスマンの動きである。
昨年11月にベルテルスマンはナップスターと戦略提携を交わし、共同
で新しい会員制音楽サービスの開発に取り組むことを発表している。敵
対関係から一転して戦略提携へ大きく転換するが、ここでもメシエ会長
は、ナップスターの海賊版防止用の保護機能の有効性が立証されれば、
ビベンディがソニー・ミュージック・グループと共同開発している「デ
ュエット」サービスで、喜んで音楽のライセンスを提供する可能性があ
ると述べたという。 

 従ってビベンディ・ユニバーサル、ベルテルスマン、ソニー・ミュー
ジックエンタテインメントの日独仏のまたがる戦略的な提携も予測され
る。その鍵を握る人物はミッデルホフである。

■ビベンディの挑戦

 時代の変化のスピードが加速していく中で、若い世代が世界を動かす
時代になった。今夜はあまり深酒をせずに「ミネラルウォーター」にし
て企画書でも作ることにしよう。

 そう「水」も重要である。ビベンディの母体は水道会社のジェネラル
・デ・ゾー社であり、もともと水道事業をベースに環境関連や建設、エ
ネルギー部門に多角化してきた。1999年12月にビベンディは、日
本での電力自由化参入に向け丸紅と共同で丸紅ビベンディ・エンバイロ
メント株式会社を設立している。

 そしてアメリカでは「水」を巡ってビベンディはエネルギーの巨人エ
ンロンと真っ向勝負に挑んでいる。

THE LAST RESORT in DAVOS
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/kak1/120130.htm



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