388−3.反原発の論理



父親の罪悪感           YS
 BABELさん、皆さんへ 

『私は今までは、常に子として、大人から与えられてきた者でした。
「子が親に与えるものがある」ことはよく知りませんでした。 
もうすぐ、きっと、YSさんが書かれたことを実感できるのでしょ
う。』

きっとまわりの皆さんはBABELさんからたくさんのプレゼント
をもらっていたはずですよ。子供が生まれたらのんびり見守ってあ
げて下さい。そのうち自分のことも思い出すかもしれません。 

ところで以前に書いた「193−1.エンデの問いかけ」でバベル
を使ったことがあります。 
児童文学作家であるミヒャエル・エンデのことを書いたコラムです
が、もう一度紹介させて下さい。 

『エンデは(現在の)資本主義制度がダーウィニズムからくる弱肉
強食を経済生活に適用させ正当化している点を指摘し、精神性や文
化といったものがないがしろにされている状況を嘆いている。
そして現在の金融システムを「バベルの塔」と呼び、いつか崩れる
瞬間が来ると警鐘を鳴らしていた。』 

『1990年元日、畳の上で寝っ転がってテレビを見ていたら、
突然画面にエンデが登場した。 
「時間の戦争が始まった〜2001年日本の選択」という番組だっ
た。冒頭に世界各地の子供たちの表情を映し出し、エンデは静かに
語る。すでに「時間の戦争」という第3次世界大戦が始まっており
、その被害者は子供たちだと。』 

もうすぐ2001年です。なにも選択ができないまま新たな世紀を
迎えることになりそうです。 
「ひょってして親が子供に戦争を仕掛けているのではないだろうか?」 
「ひょっとして親が子供の未来を壊し続けているのではないだろう
か?」 
あまりにもグロテスクな光景ですが、私は今でも罪の意識から逃れ
られないでいます。 

おそらくもっとも象徴的な存在が原発でしょう。 
私たちが生み出した大量の核廃棄物を私たちの子供達が未来永劫に
監視していかなければなりません。 
厄介なゴミを子供や孫やその次の世代にまで押し付けているわけです。 

もうこのことを考えはじめるとついつい深酒になってしまいます。 
もう父親失格ではないかと思い悩んでしまいます。 
従って積極的に触れたくないテーマでしたが、皆様の御意見お願い
します。 
豊かさってなんでしょうか? 
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コスモスです。 
 まっちょん様の疑問へ、私が知っている範囲で出来る限りお答え
してみたいと思います。 
 海外での軽水炉型の原発計画縮小についてですが、やはり事故の
危険性もさることながら、西欧はエコロジー先進諸国ですので、
エコロジーコミュニティーとしての都市建設計画の観点から反原発
運動が行われている様です。 
 エコロジーコミュニティーとは、利用エネルギーとしての都市へ
の資源流入から、廃棄物としての資源流出を全てコントロールし得
る、自立した半自給自足型の社会を意味します。そこではハイテク
、一般市民が扱えない高度過ぎる技術は敬遠され、故障しても自分
達の手で直せるという範囲の技術、ローテクが活用されています。 
 大きく脱線してしまいかねないので、エココミュニティーについ
てはいずれMLで。西欧の反原発は、日本の反原発と違い、「原発
推進活動が停止した後の社会形態まで考慮、計画されている」こと
が大きな違いです。それは新しい社会への希望に根ざした、健全な
活動があるのです。 

 さて、反原発が住民投票で決定した後も、どうやら再び原発推進
の動きが出始めている西欧諸国もあるようです。どうしても言及せ
ねばならないのは、「ではなぜ国家は原発を推進するのか?」とい
う事だと思います。 
 答えは簡単で、核エネルギーを大っぴらに開発するには、原子力
発電の研究を推進するしかないからです。 
 核不拡散条約によって、五大国が核兵器の管理を独占してしまっ
ている今、他の先進諸国がいざというときの核戦略構想に備えるに
は、常に自国の核技術の向上を図る必要があり、原子力発電は格好
の隠れ蓑となるのです。核戦術の衝撃は、今までの通常戦力による
戦術を大きく塗り替えてしまいました。第七艦隊がどの海域にいる
のかはっきり知らなくても、「この辺にいるだろうな」という辺り
に核を炸裂させれば、たとえ直撃しなくとも、核パルスによって通
信が完全マヒしてしまうため、無力化する事が出来ます。敵の潜水
艦についても同様ですし、最も優れた効果は、かわぐちかいじ先生
の漫画、『沈黙の艦隊』にあったように、「持っているように思わ
せるだけで絶大な脅しとなる」ことです。トム=クランシーの『恐
怖の総和』に出てきたテロリスト(小説でも、まさか本当に核をア
メリカで炸裂させるとは!?)のように、テロリストの超小型核に
よる脅迫は、ブラフ(脅し)であっても社会を激震させる効果があ
ります。五大国の核戦略に乗り遅れない様にするためには、永世中
立国のスイスでさえ原子力開発をするしかないのです。 

 私が思うに、核の五大国独占が無ければ、原発がこれほど増える
事も無かったと思います。三十年たっても原子力発電所は、相変わ
らず実験段階に過ぎません。今まで事故が起こっていない型の原子
炉を、おそるおそる作り続けている現状がそれを物語っています。
核兵器をもっと大っぴらに開発させる。そして核の平和利用とされ
る原子力発電も、もっと冷静に開発し、核の恐怖を偽装するアピー
ルも無く、全人類が核技術を真剣に考え、有効利用すべきだったと
私は思うのです。克服できない恐怖は、無関心と危機感の麻痺に繋
がります。核技術とはなんなのかを、大国独占の軍事機密としてで
はなく、そこらの中学校でさえ論理的に扱えるようになっていれば
、十分な研究を重ねた、今よりもっと安全な原発を、実験段階の原
子炉を乱立することなく、開発できたと思うのです。そこで私の、
「安全な原発に未来は無い」という持論がようやく現実味を帯びる
わけですね。 

 「日本の原発/電力会社は秘密主義ですか?」という疑問ですが
、「フランスの方が怖いぐらい秘密主義だ」とお答えしたいと思い
ます。もちろん日本の原発も、コントロールルームや緑が広がる外
庭を見学するツアーがありますが、原子炉付近での防護服を着けた
危険な作業を見学する事は出来ませんよね。3分以上の作業が許さ
れない、人海戦術の清掃、整備作業。 
 フランス政府とグリーンピースの闘争は、これはもう諜報戦から
実際の戦争状態に近いものがあります。ちゃんと処理しているとい
いながら海洋投棄されていた核廃棄物を、グリーンピースの水中カ
メラが撮影を試みた際、そのケーブルを切断しようと当局と攻防が
あったとか。核燃料輸送船を船で追いかける試み、そしてその輸送
経路を割り出す試みなどは、怖いぐらい戦闘的です。フランスの
官僚主義やエリート主義は日本のそれなど比べ物にならないほどだ
そうです。 

 詳しい研究は、他の反原発活動のサイトが充実していると思いま
す。私はまだインターネットに入って一月も経っていないのです。
未だに「原子力資料室」のサイトも覗いた事が無いので、そろそろ
今日辺り行ってみたいと思います。今日のところは以上です。 
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俺の屍を超えていけ            コスモス
コスモスです。 

 YS様、中国や現在の発展途上国が、アメリカ並みの大量消費生
活を目指しているのだとしたら、「豊かさ」の議論は非常に重要で
すね。 
 かといって、全体主義的な、強制的な環境指導は私の本位ではあ
りません。むしろ、「豊かさ」という言葉が持つ幸福なイメージを
利用して、「こうした方が得だ」「こんな生活が送れたら楽しいの
に」というPRが効果的と思われます。 
 とはいえ、コーラやマルボロ、牛肉の誘惑は発展途上国にとって
殺人的なまでに甘いそうです。阿片などより平和的に、現地の人々
を骨抜きにしてしまう誘惑。そうした嗜好品を求めて彼らは自国を
発展させようというのでしょうか? いつ欧米諸国に植民地にされ
るかと戦々恐々だったかつての日本に比べると、現代の発展途上国
が民族主義的、かつ宗教的な禁欲主義に走るのは時代の違いなのか
もしれません。 

 豊かさを模索する経済発展と、自己防衛のための切迫した経済発
展。日本は先人の努力のおかげで、ゆっくりと腰を落ち着けて豊か
さの意味を考える事が出来ます。エコロジーは共産主義的闘争が主
流のように見えますが、とことん利得主義に走っても、その目的は
平和的に解決できそうだと考えます。 

 もっと自分の欲望に忠実に、真剣に、他人に与えられる豊かさの
概念を、考え直す事。私は真言宗徒なので、人間の欲望を楽観的に
考えます。むしろとことんまで突き詰めないと、みんな欲求不満の
ままあの世で後悔する事になると思います。追及の過程で苦しみが
生じるのは、先進諸国の歴史が証明しています。しかしそろそろそ
れぞれの本当の欲望を見つけられる時期に来ているのではないでし
ょうか? 原発推進も、大量消費社会も、必要なつまづきだったと
思うのです。 

 私の座右の銘は「俺の屍を超えていけ」です。 
 私もYS様も、このフォーラムで勉強をなさっておられる皆さん
も、このままではダメだと、真剣な追求の過程にいらっしゃる。
それぞれに必死に戦っておられるわけです。 
 志半ばで倒れる人もおられるでしょう。しかし、子供達は分かっ
てくれると思います。 

 科学というのは、「ここまでは分かった。後は頼んだ」という、
論文全てが遺書のようなものだそうです。私達の投稿も、誤解が生
んだ諍いも、徒労に思えて吐いたため息も、子供達は尊い遺言だと
受け取って欲しいものですが。 
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原発問題について。 まっちょん。
   
コスモスさん、ぼくの稚拙な疑問へのご返答ありがとうございます。

>西欧のエコロジーコミュニティー、ハイテク敬遠 
 半自給自足型の都市社会。日本ではまったく考慮されていないこ
とですね。日本では大都市は周りを食い尽くすだけですし。ローテ
クの話については感心いたしました。専門的になりすぎて、他のも
のに気が回らないような生活は送りたくないものです。最先端技術
を追うよりも、それぞれが身の回りのモノに対しての関心を養うほ
うが先ですものね。 

>原発推進は国家の軍事戦略 
 軍事研究としての原発推進ですか。確かに大国の核戦力は驚異で
す。しかし海外はそれでいいとして、日本はどうして原発を推進す
るのでしょう。平和憲法により核兵器どころかいかなる軍事的威圧
も制限する日本において、軍事利用で原発を造っている・・・とい
うのは考えにくい。もちろん政府が裏でなにを考えているかはわか
らないのですけれど。純粋に平和利用だとしても、核を扱っている
だけで国際的驚異になりうるわけですしねえ・・・。土地が狭い日
本では原発が有効とのフレコミなのですが。狭いぶん廃棄物置くと
ころもないわけで。矛盾ばかりです。 

>核技術を冷静に論理的に開発すべきだった 
 確かに学問としてしっかりした社会的基盤ができてから実用化さ
れれば良かったと思いますね。原理的には単純すぎて、初期の頃に
まったく安全性が重視されなかったのが悔やまれます。やっている
のは実用実験ばかり。実験は失敗しないと進まない。しかし核で失
敗は許されない。辞めれば良いのに、目先の利益ばかり追ってしま
う。悪循環しております。一回全部捨てるしか、やり直す道はない
のかもしれないですねえ・・・。 

>フランスとグリーンピース 
 フランスは核について、いろいろ問題があるようですね。日本の
原発が見学を許すのは、安全に対しての幻想を植えつけるためだと
思っておりますが。単なる危険への目隠し。きっと原発が事故った
ら、お偉い関係者が近くの農村で取れた野菜を無害だと言い張って
食べたりするんでしょう。フランスのほうはある意味危険だと割り
切っているフシがあるのでまだマシか・・・な? 
 グリーンピースについては、ぼくは一種の宗教だと思っております。 
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なぜ原発に手を出すのか?      コスモス
   
 まっちょん様、クジラ論争の異様さを見ていると、グリーンピー
スを諸手を上げて受け入れるわけにはいきませんね。フランス核産
業への攻撃、ニクソンの遺産であるクジラ論争、グリーンピースが
アメリカの傀儡か否か、確証がなければやすやすと連携を組むわけ
にはいきません。多くの環境保護運動は幼稚なシャーマニズムに見
えて仕方ないです。 
 とはいえグリーンピースの資料や論文は本当にレベルが高い。
広範囲の問題を扱わねばならない以上、論理の整合性と思想の偏向
はやむをえないかもしれません。情報を拝借するにはいいのですが。

 大企業はどこでもそうなのかもしれませんが、分かりやすい例と
して建設業を。よく建設会社が、商業的に信用できない外国で、利
益があるのか素人目には分かり難い大型プロジェクトを手がけてい
ますね。若い頃の私はそれがなぜだかよく分からなかった。リスク
が大きすぎるし、好かれていない社員を追い払うためのものかと考
えたりしました。 

 まず挙げられる理由として、 
1 大手建設業が国内建設業を圧迫しないためには、外国に手を広
  げざるを得ない 
2 外国の困難なプロジェクトを完遂し、国際的な知名度を信頼を
  得る事が出来る 
3 未知のプロジェクトを手がける事で、新しい技術とそのノウハ
  ウを得る事が出来る 
 以上の三つの推察が可能だと思います。 

 原発もこれに当てはまるのではないでしょうか? つまりは民間
企業の視点ですが。原発建設には高度な技術が必要とされ、そのノ
ウハウを得るには格好の機会です。政府からもらう原発の仕事は、
先生から出された宿題を喜んでやる学生に似てますね。3番の理由
が、一見儲けもリスクも少なそうなプロジェクトに、企業が手を出
す理由。 

 国家が、とくに日本政府が原発に手を出す理由は、これは本で得
た知識と、私見を分けてあげておきますので、参考にしていただき
たいと思います。 
 ちなみに、この疑問に答えてくれる本は不思議な事にひどく少な
いのです。相手が求めるもの、必要とするものが分からなければ、
攻撃と妥協のしようがないと思うのですが。 

 ○『別冊宝島81 原発大論争』(懐かしい!)で広岡公治氏が
あげている理由が、原子力企業がすでに二千年まで莫大な先行投資
をしてしまっているからだとしておられます。 

 ○この論拠はどの本から得たのか失念してしまいました。終戦直
後に、アメリカの財閥が、日本の電力業の株を買い占めてしまった
ため、今でもアメリカ原子力業界の言いなりにならねばならない、
という説。しかしこれは、他の大手産業(例えば重工業、繊維業)
はどうなのか? なぜ電力業界のみ? という疑問を私は持ってい
るので、少し割り引いて考える必要があります。そもそも企業の株
式をインターネットで調べる方法がまだわかりません。そのうち自
分でも調べてみないと。 

 さて私見ですが、これは軍事的なものになりますが、やはり技術
の進歩というのは常に追いかけ続けないと世界から取り残されてし
まうので、前回でも述べたように「いざというときのための」技術
投資だと私は思うのです。核技術の根本と原材料は、五大国の国際
的な監視下にありますから、平和的に、着々と学んでおくためには
原発に手を出さざるを得ない。上記の通り、企業はとにかく勉強を
したい優等生ですから、今の政策は好都合だったのでしょう。 

 こういう方程式は、国際情報を理解するちょっとした手助けにな
りますし、考えているといいヒマつぶしになりますよ。
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原発とロケットと地球観測衛星は核時代の国家の三種の神器だった 
得丸久文
   
 僕の専門は、人工衛星による地球観測なのですが、最近世界的にこ
の分野は衰退していっています。 

アメリカでも、宇宙産業はリストラばやりで、国防省も「いかさず
殺さず」程度の予算をつけるだけで、その結果としていい人材がIT
関連に流れ、宇宙産業の技術者は高齢化の一途をたどっているとか。 

ロケットと原発と地球観測衛星というのは、実は核ミサイルと、核
爆弾と、敵地を偵察するための道具だったんですね。 
日本が原発の導入を行ったのも、核時代の国家としてそれが必要だ
と判断したからなのでしょうね。 
この考え自体が間違っていたとは、必ずしも言いきれないと思いま
す。 

ところが、今はそんな時代ではなくなった。 
三種の神器も変わるわけですね。 
宇宙産業と同じように、原子力産業も斜陽化してしまった。 
人材も払底しているだろうし、夢も希望もないのだと思います。 
だから、あまり一方的に彼らを責めるのは可哀想じゃないかな。 

残るのは、かつての国家戦略に凝り固まったままの人々の発想、原
子力産業なり宇宙産業で生計を立てている大小の会社の利益、そし
て当時の国策によって作られた原発や廃棄物処分場、、、 

どうするのが一番将来の日本のためになるのでしょうね。 
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良いクリスマスを どばしようこ   

 今晩からボーンホルム島に5日間くらい行くので、しばらく来られ
ません。 

BABELさん、デンマークの少子化と税の問題について、もう少しいろ
いろ見てみますね。 

コスモスさん、原発のことについて興味深く拝見しています。 
デンマークでは原発なくて、研究所しかなく、原発はとても人気が
ないのですが、それについての人の意識について今度調べたいと思
います。 

YSさん、地域通貨の説明ありがとうございました。 
地域通貨の使用にあたって、起こる人間関係のメリットやデメリッ
トはあるのでしょうか。今度はデメリット(もしあったら)につい
て教えてください。 

得丸さん、「一神教」的考え方とは何か、思わず考えてしまいまし
た。そんなことを普段意識しないところが多神教的人間なのでしょ
うか。デンマークの人は自動的に国教会?(ルター派プロテスタン
ト)に加入して教会税を払うことになるのですが、彼らは一神教的
なのかなあ。 
どうも、ここでも宗教離れが目立つようです。 

前習っていたラテン語のせんせいは、一神教を嫌悪していました。 
そういうことを公言するところは、かなり変わっていたのですが。 
「あれは、『自分が信じるものをおまえも信じろ』ということだ!!」 
とかいって。 

19世紀の聖職者グルントヴィは、国民高等学校を創設して国の教育 
に大きく貢献した人でしたが、彼も他のロマン派の思想家や文学者 
と同じように歴史や古代北欧神話に民族の根を求めることを提唱して 
いました。ただ彼は、プロイセン的国家主義には距離をとっていまし
た。

ではみなさん良いクリスマスを!! 

土橋葉子 

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