280−1.マックとマクドのグローカリズム(4)



YS/2000.08.28
        -----ダーウィニズムの限界-----    

◆立ちこめる暗雲

 以上見てきたように、アメリカの食糧戦略は政府とカーギルに代表さ
れるアグリビジネスとが一体化してベースを築き、そして時期を見計ら
ってマクドナルドやコカ・コーラが仲良く手をつないで登場する。その
清潔感と愛くるしいキャラクターは、人々を魅了し同時にアメリカ文化
の虜にする。

 しかし、いつも成功するとは限らない。最近特にマクドナルドは災難
続きである。

 1999年8月、フランス南部の農村ミヨーで仏農業団体幹部ジョゼ
・ボベがマクドナルドを農業のグローバル化象徴として襲撃し店舗を破
壊した。

 器物破損罪に問われたボベ被告らの公判が今年6月30日よりミヨー
軽罪裁判所で始まったが、同被告をグローバリゼーションへの抵抗の象
徴とみなす非政府組織(NGO)活動家など3万人以上が人口2万人の
同村に集結した。

 NGOの活動家らは、今回のデモを昨年11月の米シアトルでの世界
貿易機関(WTO)閣僚会議への大規模抗議行動に次ぐ反グローバル化
運動の好機と位置付けた。ボベ被告への支援を訴えるとともに「世界は
売り物ではない」「WTOにノン!」といったプラカードを掲げてデモ
を繰り広げる。
 
 また世論調査でもフランス国民の45%が同氏を支持、不支持の4%
を大きく上回る結果が出ている。どうやら21世紀はこれまでの手法が
通じそうにないようだ。

◆真のグローカリズム

 私もビジネスマンの端くれである。電車から一駅ごとに現れるひとき
わ目立つ黄色い『M』の文字を見るたびに、闘争心がかき立てられる。
たかだかハンバーガーにその戦略の多くを傾けざるを得なかったアメリ
カの文化的背景とだからこそ成功につながった単純明解さに敬意を表し
たい。

 批判的に考えると出口の見えないジレンマに陥るだけだ。すでに土俵
に乗っかっているのだから、選択の余地はない。幸いにも世界中で日本
の食文化は注目されている。強引な手法を取らなくとも異文化に歓迎さ
れる要素はある。

 GOOの海外ページで「japanese food recipe」
で検索すると36,282件がヒットする。その多くが自然発生的なも
のだ。

 ただ私は父親でもある。子供達にはいろいろな世界を見せてあげたい
と思う。画一的な文化の押し売りはきっぱりとお断りしたい。さてどう
書こう。

 現在カーギルのマイケル・H・アーマコストはアスペン研究所のスト
ラテジー・グループのメンバーである。このグループには他にジョセフ
・S・ナイ、レスリー・H・ゲルブ、ウィリアム・J・ペリー、ブレン
ト・スカウクロフト、リチャ−ド・B・チェイニー(共和党副大統領候
補)、アルバート・ゴア(民主党大統領候補)、ストローブ・タルボッ
トなどそうそうたるメンバーが仲良く名を列ねている。

 アスペン研究所(The Aspen Institute)は19
50年にコロラド州の自然豊かなアスペンで設立された。第二次世界大
戦が生んだ東西冷戦や核開発競争など新たな国際的緊張に危機感を抱い
た有識者たちが、ゲーテの生誕200年祭を契機に、人間の精神、課題
を見つめ直そうという趣旨で設立された。ちょうど今年で50周年を迎
える。

 世界の政財界のトップが集い、二週間を基本に対話のための合宿特訓
を同研究所は続けている。アスペン研究所の役員を務める小林陽太郎富
士ゼロックス会長が77年のアスペン・セミナーに初めて参加、衝撃を
受けたとして次のように述懐している。

「米国のビジネスマンは当面の短期利益しか考えていないなどと私が思
っていたのは、全く恥ずかしい限りだった。事実、利益をあげるという
点では米国のビジネス社会はものすごく厳しい。しかし一方で、その同
じビジネスマンが一夜漬けでなく、哲学や倫理を論じる。その二つが全
然矛盾していない。米国人たちの底の深さに触れた感じだった」

 同じく役員を務める鈴木治雄昭和電工名誉会長とともに98年にはオ
リックス、キッコーマン、資生堂、セコム、大日本印刷、電通、東芝、
富士ゼロックス、ソニーなど22社の出資により「日本アスペン研究所」
も設立されている。

 テキストには、ヴィーコ「学問の方法」、キケロ「友情について」、
ダーウィン「種の起源」、デカルト「方法序説」、ハイゼンベルク「部
分と全体」、プラトン「ソクラテスの弁明」、ヘーゲル「法の哲学」、
ポアンカレ「科学の価値」、モンテーニュ「エセー」、朝河貫一「日本
の禍機」、ヴァスバンドゥ「唯識二十論」、大森荘蔵「流れとよどみ」、
岡倉天心「東洋の理想」、坂口安吾「日本論」、本居宣長「ういやまぶ
み」、ルーミー「ルーミー語録」、和辻哲郎「鎖国」 などが使われて
いる。

 ここにぜひある生物学者の著作を加えて欲しい。日本が生んだ世界的
な社会人類学、生態学者今西錦司(1902〜1992)である。

 今西は、ダーウィンの進化論に立ち向かった数少ない研究者である。
生物をありのままにみつめてきた今西にとって、ダーウィニズムの自然
淘汰、適者生存、弱肉強食といった考えは、産業革命以来の経済思想と、
機械論などに利用された極めて都合のよい西洋的な自然観であるとし、
独自の『棲み分け理論』で多様性を理論付けた。

 おそらく今西理論の正当性について、誰よりも理解できるのはあなた
方ではないだろうか?

 今西は、晩年、次の言葉で真のグローカリズムを唱えている。

「一つの種社会が文化発展するとき、種社会間に生存競争が起こったり、
自然淘汰が起こったりすると考えるのは、ダ−ウィニズムであって、起
こらへんというのが今西進化論なんやで。」


参考/引用

日本経済新聞、産経新聞、朝日新聞他

企業、シンクタンクホームページ

PL480号
スーザン・ジョージ『なぜ世界の半分が飢えるのか』(朝日選書1984)
http://www.portnet.ne.jp/~kazu-t/L'amitie/vol2/no3/MS.vol2.no3.htm

学校給食の歴史
http://www.ntgk.go.jp/kyuusyoku/rekisi/rekisi2.html
http://www.nikonet.or.jp/~kana55go/rekisi/nirekisi.html
http://www.netlaputa.ne.jp/~oyayubi/kyusyokurekisi.html

ウィリアムズ・レポート
岩城淳子『国際寡占体制と世界経済』(お茶の水書房1999)

畜産情報ネットワーク推進協議会
月報「畜産の情報」(海外編)/週報「海外駐在員情報」 
http://www.lin.go.jp/

今西錦司
http://www.ipe.tsukuba.ac.jp/~s965525/
http://www.hi-ho.ne.jp/tadaoki/tadaoki/dokusho/4.htm

ディープエコロジーの環境哲学−その意義と限界 森岡正博
http://member.nifty.ne.jp/lifestudies/library01/deep02.htm

その他多数

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