144.モルガン戦略解剖−MS、ボーダフォン、ソニ−



2000年4月2日(日) 20時27分 

和解交渉が決裂、今週中にも判決へ=マイクロソフトと司法省の溝埋ま
らず(時事通信)


 【ワシントン2日時事】世界最大のコンピューターソフトメーカー、
マイクロソフトを相手取り米司法省と19州が訴えていた反トラスト法
(独占禁止法)訴訟は、法廷外で和解交渉が続けられてきたものの、交
渉は1日に決裂、今週中にもワシントン連邦地裁で判決が言い渡される
ことになった。判決はマイクロソフトの同法違反を認定するものになる
とみられている。
 今回の和解交渉は、昨年11月に同地裁のジャクソン判事がマイクロ
ソフトに厳しい事実認定を示して以降、シカゴ連邦高裁のポズナー判事
を調停人として法廷外で進められてきた。同判事はこの日の声明で、
「わたしの調停努力の終わりを発表しなければならないのは残念だ。双
方の違いが大きすぎた」と述べた。 

[時事通信社 2000年 4月 2日 20:27 ]


『めざせ!! IT革命』  YS/2000.01.15 より
http://www.asahi-net.or.jp/~vb7y-td/120119.htm

またマイクロソフト分割も司法省はアドバイザーとしてニューヨークの
投資会社グリーンヒルを指名している。グリーンヒルはATTの199
6年の再分割でファイナンシャル・アドバイザーを務めたモルガンスタ
ンレ−から分離した情報通信分野を得意とするM&A専門企業である。

おそらく3社か4社に分割されるだろうが、近い将来いずれかの企業が
旧ATT企業(ATT、ルーセントテクノロジー、NCR)やGE、I
BMなどを巻き込み再統合されるだろう。この中でルーセントテクノロ
ジーあたりの動きは注目される。またミッキーマウスも動き出すかもし
れない。

ビル・ゲイツ氏はCEOを辞任したが、ロックフェラー家で講議を受け
るといいだろう。題して『分割における傾向と対策』と『いい人になる
方法』あたりが最適かもしれない。1911年のスタンダード石油解体
から苦節88年もの歳月を経てのエクソン・モービル再合併のいきさつ
は大いに参考になるはずだ。

「IT」分野が牽引してきたアメリカ金融市場も多少影響がでるかもし
れない。ただし次なるターゲットを完全にとらえた上での戦略転換であ
ることを認識すべきである。(ただし大統領選の前後は要注意)

カーギル、デュポンなどが生分解性プラスチックの商業化に乗り出すら
しい。燃料電池分野を含めいよいよ環境関連ビジネスに本格的に取り組
む気配を感じる。EUあたりとの駆け引きがおもしろそうだ。


NEW
YS/2000.04.02

=========「市場主義」対「伝統経営」==========

『ソニーのネット銀行参入』

ソニーは3月30日の取締役会でインターネット銀行参入を正式に決定
した。資本金は375億円を予定しており、出資構成はソニー株式会社
が300億円(80%)、メインバンクであるさくら銀行が60億円(
16.0%)、J・P・モルガン15億円(4.0%)となる見込みであ
る。

新会社の役員人事は未定だが、現在ソニーの社外取締役である末松謙一
氏(さくら銀行常任顧問)や5月1日付でデピュティーCFO(財務執
行責任者)に就任する近藤章氏(住友銀行元常務、現大和SBCM副社
長)は筆頭候補であろう。

同日午後、会見した出井伸之社長は、新インターネット銀行で「便利な
支払い手段や質の高いバンキングサービスを提供したい」と語り、伊庭
保・副社長は、ネット銀行は来年前半の開業を目指し、開業後3年で単
年度黒字、5年で累積の黒字化を目標とすることを明らかにした。また、
預金量は5年で1兆円を予定している。

同席したさくら銀行の岡田明重頭取は、「(新銀行の)成功する確度は
100%」と期待を示した。おそらく現実のものとなろう。

その背景にはモルガングループとソニーとの強力なパートナーシップに
ある。

『ソニー躍進の背景』

今年2月2日にジャパン・ソサエティー主催で創業者である盛田昭夫氏
をしのぶ会がニューヨークで開かれ、新生銀行(新生長銀)の取締役に
就任したデビッド・ロックフェラー氏、ヘンリー・キッシンジャー元国
務長官、そしてソニーの社外取締役であるピーター・ピ−タ−ソンCF
R議長などアメリカのエスタブリッシュメントが勢揃いした。

このソニー創業者である盛田昭夫の人脈は1969年3月のJ・P・モ
ルガン国際委員会役員就任にさかのぼることができる。この「モルガン
人脈」こそがソニーの発展を支えたのである。

その後盛田氏はモルガン系企業との連係により新事業参入にも乗り出す。
1972年モルガングループの中核IBMの子会社WTC社の取締役就
任、1979年プルデンシャル生命保険と折半出資でソニー生命の前身
であるソニー・プルデンシャル生命保険設立(取締役会長就任)、19
80年パン・アメリカン航空の取締役に就任する。

同時に日米賢人会議、経団連などの財界活動により日米財界人との交流
を深めていくのである。モルガングループのGM(自動車トップ)のい
すゞ自動車への大口株式所得やテキサス・インストゥルメンツ(TI−
IC最大手)の日本進出にさいして仲介役を務めた。

『モルガングループの構成』

モルガングループの中核を担うJ・P・モルガンはモルガン・ギャラン
ティー・トラストの持株会社でジョン・ピアポント・モルガンにより1
861年に設立された。法人、機関、富裕家族などの顧客サービスに特
化した名門ホールセール(純粋卸売)バンクである。

現在その運営は執行役員(Management)、取締役会(Board of Directo
rs)、国際委員会(International Council)、諮問委員会(Directors
 Advisory Council)の4部門で行っている。

最高意志決定機関である取締役会は18名で内2名が内部取締役で16
名が社外取締役で構成されている。

現在のダグラス・ワーナーCEOは総合電機最大手ゼネラル・エレクト
リック(GE)と総合エンジニアリング最大手ベクテルの取締役を兼任
しておりモルガングループの結束を担っている。

GE、ベクテル以外にもモルガンと歴史的に関係が深いゼロックス、ハ
ネウエル、テネコ、デュポン、フェルプス・ダッヂなどのCEOおよび
元CEOが外部取締役として参画している。特に注目すべきは1999
年に合併した国際石油資本最大のロックフェラー系エクソン・モービル
のリ−・レイモンドCEOが名を列ねている点であろう。

盛田昭夫が役員を務めた国際委員会には後任として小林陽太郎富士ゼロ
ックス会長が選任されている。会長はジョ−ジ・シュルツ元国務長官が
務めシンガポールのリー・クワン・ユーやダイムラー・クライスラーの
シュレンプ会長など世界を代表する政財界人が集結している。

注目はロイターとの結合関係である。実質ロイターとJ・P・モルガン
は相互に役員を交換しあう緊密な関係にある。

『ロイターに集うモルガン人』

ロイターのクリストファー・ホッグ会長がJ・P・モルガンの国際委員
会役員に就任している。

またロイターの取締役会にはまもなく退任するJ・P・モルガンのロバ
ート・メンド−サ副会長、モルガン・スタンレ−・インターナショナル
のデビッド・ウォーカー会長、モルガン・スタンレー・ディーン・ウィ
ッターのロバート・ボーマン社外取締役、ドイツ・モルガングレンフェ
ルのジョン・クラーベン会長が結集しており国境を超えてグローバルに
展開しているモルガングループの政策発信基地としても機能している。

ロイターは国際的なニュース配信ソースとして有名だが、実際には金融
情報通信企業である。電子決済取引システムはロイターの「ディーリン
グ2000」とJ・P・モルガンを中核とした「EBS」の寡占状態に
なっている。実質J・P・モルガンとロイターが連係しながら現在の巨
大電子金融市場における絶対的な覇権を実現させたのである。

J・P・モルガンは1933年の銀行・証券業務兼営禁止を規定したグ
ラス・スティーガル法成立によりいったんは商業銀行業務に専念するが、
1935年に投資銀行業再開の為にモルガン・スタンレーを分離設立し
た。このモルガン・スタンレーは1997年にロンドン拠点としてモル
ガン・スタンレ−・インターナショナルを設立する。1997年にはデ
ィーン・ウィッターと合併しモルガン・スタンレー・ディーン・ウィッ
ターとなり現在も名門投資銀行として第一線にある。

J・P・モルガンの前身であるロンドンJ・S・モルガン商会から派生
したモルガン・グレンフェルは、1903年にJ・P・モルガンより分
社したバンカーズ・トラストとともに現在はドイツ銀行傘下にある。

『モルガン戦略=ボーダフォン・エアタッチ+マンネスマン』

2000年2月に世界最大のイギリス携帯電話サービス企業「ボーダフ
ォン・エアタッチ」とドイツ通信・エンジニアリング大手「マンネスマ
ン」の合併が正式に決定した。合併規模は1800億ドルで同1月のA
OLとタイムワーナーに次ぐ史上2番目の大形合併となる。

当初敵対的TOBからスタートしたこの合併劇の裏側には国家をも巻き
込むモルガングループの世界再編戦略がある。

ボーダフォン・エアタッチはアドバイザーにゴールドマン・サックスと
ウォーバーグ・ディロン・リードを起用、対するマンネスマンは防衛ア
ドバイザーにモルガン・スタンレー、メリル・リンチ、J・P・モルガ
ン、ドイツ銀行の4社からなる強力な布陣で臨んだ。

ボーダフォン・エアタッチは電子証券取引のパイオニアとして有名なア
メリカのディスカウント・ブローカー「チャールズ・シュワブ」と関係
が深い。両取締役会にはアラン・サリン/ボーダフォン・エアタッチC
EO、チャールズ・シュワブCEO、ドナルド・フィッシャーGAP元
CEOの三人の役員を相互に兼任しあっている。

このチャールズ・シュワブの取締役会にはジョージ・シュルツ元国務長
官と若手女性政治学者コンドリーツァ・ライス/スタンフォード大学教
授が参画しているが、前述のように両人ともJ・P・モルガンの国際委
員会の役員であり特にシュルツ氏はその会長を務めるモルガン人脈の頂
点に立つ人物である。

この最終的な合併合意の背景には『モバイル・ネット時代』に向けた株
主らの期待感と両社にまたがる英米モルガン人脈によるドイツ国家に仕
掛けた『「市場主義」対「伝統経営」』の戦争の構図がある。そしてこ
の戦争の勝因は前哨戦とも言うべき「ドイツ株式会社」の心臓部ドイツ
銀行内部へのモルガン・ウィルス(モルガン・グレンフェルとバンカー
ズ・トラスト)の侵入にある点を見落としてはならない。

『次なる標的』

モルガングループは21世紀に向けてアメリカのリーダーシップを担う
べくグローバル・マルチメディア(グローバル・インフォメーション・
インフラストラクチャー)の構築に動き始めた。

モルガングループはグリーンスパンFRB議長に代表されるように社内
外役員をホワイトハウスや主要閣僚、連邦準備制度理事会、世界銀行な
どの政府機関に送り込み「アメリカ株式会社」の権力中枢に絶対的地位
を確立している。

次なる標的は日本である。すでにボーダフォン・エアタッチはJ・フォ
ンへの出資を完了している。そして新生銀行、新生日債銀、ソニー銀行。
その前哨戦はすでに完了している。

その結果もたらせれるものは会見に立ち会ったJ・P・モルガン証券の
ブルース・カーネギーブラウン会長の発言に集約される。ソニーが高い
ブランド力を持つ米国でもネット銀行を始める可能性についての記者か
らの質問に対し、「米国はネット銀行先進国、ソニーに競争力はないた
め、(ソニーに対して)進出は勧めないし、可能性もないだろう」とコ
メントしている。

J・P・モルガンと日本との最初の出会いは1920年の対中国借款で
あった。当時のJ・P・モルガンの歴史に残るリーダーであったトマス
・ラモントとの交渉にあたったのは日本銀行総裁であった井上準之助で
ある。

1932年2月9日井上準之助が凶弾によって倒れたとき、ラモントは
千代子夫人に手紙を書いた。

「心からお悔やみの言葉を申し上げます。あなたの御主人に対していつ
も抱いていた気持ちをお伝えするため、ひと言書き送らせていただきま
す。1920年の冬から春にかけて、私が日本を訪れたとき、私たちは
一緒に中国借款の問題で仕事をしました。そのとき、私の心の中に、彼
の高い人格と、卓越した能力と知恵に対する大きな賞賛の気持ちが生ま
れました。私たちは、以来お互いに温かく見守りあう親友となりました。
そして、この幸せな関係は最後まで変わりませんでした」

盛田昭夫氏をしのぶ会では、キッシンジャー氏が「盛田氏は米国を深く
理解したが、だからと言って自分のアイデンティティーを修正しようと
はしなかった」と述べ、最大限の表現で生前の親交を惜しんだ。元商務
長官でソニー取締役を務めるピーター・ピーターソン氏は、盛田氏を「
日本の偉大な“心の大使”」と呼び、日米の相互理解に果たした役割を
強調した。

「高い人格」と「卓越した能力と知恵」と「自分のアイデンティティー」
これまで日本を支えてきたのは結構このあたりだったのかもしれない。


2000 J.P. Morgan & Co. Incorporated  1999 ANNUAL REPORT

Management
http://webrun.jpmorgan.com/ar/management/management.jsp

Board of Directors
http://webrun.jpmorgan.com/ar/management/board.jsp

International Council
http://webrun.jpmorgan.com/ar/management/intl_council.jsp

Directors Advisory Council
http://webrun.jpmorgan.com/ar/management/dac.jsp

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