2305.リアリストの反乱



ミアシャイマとウオルトのイスラエル批判の論文の意味を正確に見
ている評論家がいない。この検討。    Fより

ミアシャイマとウオルトはリアリストの大御所であり、ミアシャイ
マが攻撃的リアリストで、ウオルトが防御的リアリストである。立
場は違うが、危機感を共有していたのでしょうね。このリアリスト
は保守勢力の中心で共和党に絶大な影響を持っている。
とうとう、そのリアリストが共和党に対して、反乱を起こしたこと
になる。それだけ、この批判論文はおおごとである。

ある政治学者が米国のイスラエル優遇政治というタブーを批判した
というような生易しいことではない。欧米の主要メディアは、何が
起こるか、固唾の呑んでいる。米国福音派やユダヤ教の宗教右翼な
どがミアシャイマやウオルトを暗殺しても驚かない。しかし、日本
のメディア・評論家はこの論文の影響や意味が分からないようだ。

ブッシュは直ぐにカード首席補佐官を辞任させて、ボルテン氏を起
用する。そして、ボルテン氏の仕事は大統領の要求に応えられるス
タッフの配置を決めることだと言う。ということは幹部人事が大幅
に変更される可能性が高い。そのターゲットはラムズフェルド国防
長官の見直しが起こると見える。福音派の宗教主義を排除すること
にもなる。共和党の本来の姿でもあるリアリストの政権になるよう
な気がする。

イスラエル・リクードのネタニエフが主導するネオコンの影響は、
このミアシャイマの論文で米国では根絶されるでしょうね。そして
、やはりミアシャイマの論文に影響されて、イスラエルでのリクー
ドは大幅に議席を無くした。ガティマや労働党が議席を伸ばしてい
る。

米国の政治で福音派とイスラエル・リクード影響下のネオコンを引
き離すことになる。ハルマゲドンが起こるのは、この2者が結びつ
いて、イスラム教徒と対決することで起こる。本当は米国は石油を
得ることが重要であるから、イスラム教と対決するのは損である。

今までも民主党時代は、ユダヤ人と労働者の党であるためにイスラ
エルの利益を代弁し、共和党は石油資本などが中心である為に、イ
スラエルよりサウジアラビアなどのアラブ諸国(スンニ派)の肩を
持っていた。このため、最初のブッシュ選挙資金はサウジが出して
いる。

しかし、石油資本の代弁者であるべき共和党のブッシュ政権は、福
音派とイスラエル・リクード別働隊ネオコンに乗っ取られ、イラク
戦争に邁進する。リアリストはネオコンと論争して、ネオコンの誤
りを指摘している。「リアリストたちの反乱」に詳しく出ている。
http://fuku41.hp.infoseek.co.jp/index-kb.htm

イラク戦争の上にイランとまで戦争を行うとハルマゲドンになると
心配したために、この大御所は立ち上がったのでしょうね。リアリ
ストたちはバーネットの理論も理念主義であり、ネオコンと同様と
見ている。

これでイランとの戦争にはならないと見る。ブッシュ政権は福音派
の雰囲気に流されて政治をしていた。しかし、この福音派とイスラ
エルの影響を政権内から排除すれば、核開発を始めようとするだけ
のイランと戦争することが、どれだけの意味を持つかが分かる。

そして、今の米国にイランとの戦争が出来るわけがない。戦争経費
で大幅な経常収支の赤になっている。これ以上、イラク戦争ができ
ない事態にもなっている。それにイランとの戦争になれば、ドル暴
落や石油価格の高騰など経済に大きな波乱が起きることにもなる。

そして、国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、
イランの核問題について「差し迫った脅威ではない」と述べ、制裁
措置は時期尚早との考えを示した。これもミアシャイマの論文を見
て、大丈夫と思い言っているのである。
やっと、ハルマゲドンにならない光が見えてきた。
さあ、どうなりますか??

批判論文の日本語訳:
http://otd2.jbbs.livedoor.jp/15701/bbs_plain
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「差し迫った脅威でない」 イラン核でIAEA局長

 【カイロ31日共同】国際原子力機関(IAEA)のエルバラダ
イ事務局長は30日、カタールの首都ドーハの会議に出席し、イラ
ンの核問題について「差し迫った脅威ではない」と述べ、制裁措置
は時期尚早との考えを示した。
 イランへの制裁を急ぐ欧米の動きに対して慎重な対応を促す狙い
があるとみられる。
 ロイター通信によると、事務局長は「制裁は良くない考えだ。
われわれは差し迫った脅威に直面しているわけではない」と語った。
 また「ウラン濃縮を行ったからといってイランを罰する権利は誰
にもない。まだ核物資が核兵器に転用されたわけではない」とし、
「軍事的解決を図る状況にはない」と強調した。
(共同通信) - 3月31日10時58分更新
==============================
イラン、ウラン濃縮拡大 分離器の試験運転準備(ASAHI)
2006年03月29日23時59分

 イランが中部ナタンズのウラン濃縮施設で遠心分離器164基の
設置を終え、試験運転を始める態勢にあることがわかった。国際原
子力機関(IAEA)外交筋などが29日までに明らかにした。
IAEA査察官が今週末にもイラン入りする。同国の核開発問題が
付託された国連安全保障理事会では、議長声明採択をめぐる調整が
難航。その間にも同国はウラン濃縮活動の拡大に向け着々と準備を
進めており、米欧側は懸念を募らせている。 

 IAEA外交筋によると、イランは遠心分離器164基を連結さ
せた「カスケード」と呼ばれる濃縮装置の設置を完了。早ければ今
週末にも、配管や真空状態などに問題がないかを確認する試験運転
に入り、濃縮ウランの原料となる六フッ化ウラン(UF6)を注入
するとみられる。ただし、多数の遠心分離器の高速回転維持などに
は高度な技術が必要で、本格稼働までには、半年程度かかるとされ
る。 

 イランでは遠心分離器164基のカスケードが濃縮装置の基礎単
位だ。同国はすでに、18単位分にあたる遠心分離器約3000基
を今年の第4四半期にナタンズの地下施設に設置し始める、とIAEA
に伝えている。 

 今回試験運転を始めると見られる1単位だけでは核爆弾1個分の
高濃縮ウランを生産するのに10年以上かかる。しかし、イランが
「研究開発」として現在行っているのは遠心分離器20基による濃
縮活動で、その次の段階である164基への移行は、「核兵器開発
に大きく近づく」(欧米外交筋)ことになるという。 

 米欧側はカスケード稼働による濃縮技術の習得が将来の核兵器開
発に直接つながると警戒。国連安保理での迅速な対応を求めている。 
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米大統領、追加人事の可能性を示唆
(nikkei)
 【ワシントン=加藤秀央】ブッシュ米大統領は28日、米CNNテ
レビのインタビューで、ボルテン行政管理予算局長を次期大統領首
席補佐官に同日指名したことに関連し「ボルテン氏の仕事は大統領
の要求に応えられるスタッフの配置を決めることだ」と述べ、近い
将来にさらに政権幹部の交代があり得るとの考えを示した。

 大統領は同日、カード大統領首席補佐官の辞任を発表したが、共
和党の一部からは大規模な幹部刷新を求める声もあった。大統領は
「(ボルテン氏は)ホワイトハウスの人事構成の検討に入ったばか
り。私は将来について彼と話していない」と発言、幹部構成につい
てボルテン氏と協議する考えを示唆した。

 カード補佐官については「5年半のあいだ、毎日朝早くから夜遅く
まで、全身全霊を注いでくれた。彼には感謝している」と発言し、
支持率低下や政策遂行の不手際の引責辞任ではないと強調した。 
(13:00) 
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カード米大統領首席補佐官が辞任(ASAHI)
2006年03月29日01時15分

 ブッシュ米大統領は28日、ホワイトハウスで記者会見し、カー
ド大統領首席補佐官の辞任を発表した。後任には行政管理予算局の
ボルテン局長が就任する。ブッシュ政権はイラク問題への対応など
で支持率が低迷しており、11月の中間選挙を前に与党・共和党内
からも人事刷新を求める声が上がっていた。 

 大統領は会見で、カード氏から今月初めに辞任を打診され、先週
末に了承したことを明らかにし、「カード氏は私人に戻る時と判断
した」と語った。発令は4月14日の予定。 

 同氏は父親のブッシュ政権時代にもスタッフを務めた。現政権で
は1期目の発足時から5年余り首席補佐官を務め、政権の官房長官
役となっていた。大統領が政権立て直しを目的にホワイトハウスの
「側近」を退任させるのは初めてだ。 

 イラク戦争後の混乱の長期化や昨夏のハリケーン「カトリーナ」
への対応の遅れなどから、最近の政権支持率は各種世論調査で過去
最低の30%台を記録。中間選挙を前に共和党内にもブッシュ政権
の方針に反対姿勢を示す「ブッシュ離れ」の動きが公然化し、チェ
イニー副大統領やラムズフェルド国防長官の交代説も流れている。
側近のカード氏を交代させ、「予算と経済の専門家」(大統領)で
議会に人脈を持つボルテン氏を起用することで、事態の打開を図る
狙いがあるとみられる。 
==============================
ミアシャイマー等のイスラエルロビー批判論文の日本語訳(その一)

イスラエル系圧力団体  LRB Vol.28 No.6 
シカゴ大学政治学部教授ジョン・ミアシャイマー ハーバード大学
政治学部教授ステファン・ヴェルト 
http://www.lrb.co.uk/v28/n06/print/mear01_.html(2006年3月23日公表の要約版)
最近の数十年間、特に 1967年の6日戦争以後, 米国の中東政策の最
重要課題はイスラエルとの関係であった。イスラエルへの確固とし
た支持とそれに関連した「民主主義」を地域全体に広めようという
努力はアラブとイスラムの世論を興奮させ、米国の安全のみならず
米国以外の国々の多くの安全まで不安定化させた。 この状況は米国
史上前例がない。何故米国は自国や多くの同盟国の国益を 顧みずに
別の国の国益を追求するのか?この二国の関係は共通する戦略的利
益に基づいているとか、倫理的な要請のため已むを得ず行動してい
ると想像する者もいるかもしれない。しかし、そのいずれの解釈も
、米国がイスラエルに与える物質的・外交的な支持を説明できない。 

そうではなく、この地域での米国の政策の要点はほとんど全てが国
内政治に、特にイスラエル系圧力団体の活動に由来している。他の
特殊利益集団は外交政策を何とか歪曲させてきたが、どの圧力集団
も国益が支持する政策を方向転換させようとはしなかった。しかし
、イスラエル系圧力団体は同時に米国と外国-この場合はイスラエル
の国益が本質的に同一であると米国民に信じさせた。

 1.偉大な恩人
1973年の10月戦争以後、米国政府は他国への援助を矮小化させるほ
どの水準の援助をイスラエルに供与してきた。それは直接の経済的
・軍事的援助としては年単位で見て1976年以降は最大の被援助者で
あり、合計額で見ても第二次大戦後の最大の被援助者である。その
総額は2004年のドル換算で1400億ドルを越える。イスラエルは毎年
約30億ドルの直接援助を受ける。これは対外援助予算のほぼ五分の
一であり、イスラエル国民一人あたり約500ドルに相当する。この金
額の多さは、イスラエルが今やスペインや韓国と等しい国民所得水
準の富裕な工業国であるということを考えれば注目に値する。

他の被援助国は四半期ごとの分割払いで資金を受け取るが、イスラ
エルは全額を年度の初めに受け取り、それにより利息収入を得る。
多くの軍事目的の被援助国はその全額を米国で支出することを必要
とされるが、イスラエルは配分額の約25%を自国の軍需産業への補助
金に使うことを許されている。イスラエルは援助がどのように支出
されたかを説明する必要のない唯一の被援助国であり、その為に援
助が米国の反対する目的、例えばヨルダン川西岸での住宅建設など
に使用されることを防ぐことが実際に不可能になっている。更に、
米国は30億ドル近くの金を武器システムの改善の為に供給し、ブラ
ックホークヘリコプターやF-16戦闘機などの最高位の武器を入手さ
せてきた。最後に、米国はNATOの同盟国に与えないような機密情報
をイスラエルに供与し、イスラエルが核兵器を保有することに目を
つぶった。

米国政府はイスラエルに継続的な外交的支持も与えてきた。1982年
以降、米国はイスラエルを批判する32の安保理決議に拒否権を行使
したが、これは他の常任理事国の拒否権行使の合計よりも多い。米
国はアラブ諸国がイスラエルの核兵器をIAEA(国際原子力機関)の議
題にすることを妨害してきた。米国は戦時にはイスラエルを助け、
和平交渉時にはイスラエルの立場に立った。ニクソン政権はソ連の
干渉の脅威からイスラエルを守り、10月戦争の時にもそれを再供給
した。米国政府はこの戦争を終結させた交渉と、その後の段階を追
った長期に渡る過程の両方に深く関与した。それは、米国が1993年
のオスロ合意に先行する交渉と合意後の交渉に重要な役割を果たし
たのと似ている。いずれの場合でも米国とイスラエルの担当者の間
には時折摩擦が見られたが、米国は一貫してイスラエルの立場を擁
護した。2000年のキャンプデービッドの米国人参加者の一人は後に
「我々は余りに頻繁に働いた・・・イスラエルの弁護士として」と
語っている。結局、ブッシュ政権の中東を転換させるという野心は
少なくとも部分的にはイスラエルの戦略的状況を改善させることを
狙っているのだ。

 2.戦略的な重荷
この驚くべき寛容さはイスラエルが米国にとって重要な戦略的資産
であるか、あるいは米国が支持すべき、心を動かされるような道徳
的主張が存在するのならば理解可能だろう。しかし、いずれの説明
も説得力がない。イスラエルが冷戦期間中に資産であったとの主張
もある。1967年以降米国の代理人として働くことによりイスラエル
はソ連の拡張をこの地域で封じ込めるのを助け、エジプトやシリア
といったソ連の顧客に屈辱的な敗北を与えてきた。イスラエルは時
にはフセイン国王のヨルダンなどの他の米国の同盟国の防衛を助け
てきた。また、イスラエルの軍事的能力は、ソ連の顧客である国々
を支援する為にソ連により多くの支出を余儀なくさせてきた。イス
ラエルはソ連の能力についての有用な情報を供給してきた。

しかし、イスラエルを支援する事の対価は決して安くはなかったし
、イスラエル支援は米国のアラブ世界との関係を複雑なものにした
。例えば、10月戦争の期間中に行われた22億ドルの緊急軍事援助の
決定は西側諸国の経済に重大な影響を与えたOPECの石油禁輸の引き
金を引いた。それにもかかわらず、イスラエルの軍事力はこの地域
での米国の国益を守る立場につくことはなかった。例えば米国は1979
年のイラン革命で石油の供給への懸念が高まった時にイスラエルに
依存することは出来ず、その代わりに自分で緊急展開部隊を作り出
さねばならなかった。

第一次湾岸戦争はイスラエルが如何に戦略的な重荷になっているか
を明らかにした。米国は反イラク同盟を破壊することなしにはイス
ラエルの軍事基地を使用することができず、イスラエル政府がサダ
ム=フセインに敵対する同盟に悪影響を与えることを防ぐためにパ
トリオットミサイルの発射台などの資源を振り向けることを余儀な
くされた。2003年にも歴史は同じ事を繰り返した。イスラエルは米
国のイラク攻撃を待ち望んでいたが、ブッシュ大統領はアラブ諸国
の反対の引き金を引くことなしにはイスラエルに援助を頼むことは
できなかった。それ故、イスラエルはまたもや傍観者となった。

1990年代に始まり、そして9/11以降更に顕著になった傾向であるが
、米国のイスラエル支持はアラブとイスラム教世界に起源を持つテ
ロリスト集団と、それらの集団を支持し大量破壊兵器を求める「な
らず者国家」に両国が脅威を受けているという主張によって正当化
されてきた。この主張はイスラエル政府がパレスチナ人を自由裁量
で取り扱うのを米国政府が認め、全てのパレスチナ人のテロリスト
が投獄されるかあるいは死ぬまではイスラエルに譲歩するよう圧力
をかけないことを意味するだけではなく、米国はイランやシリアの
様な国を追求すべきであることも意味する。このようにして、イス
ラエルの敵は米国の敵であるからと言う理由で、イスラエルはテロ
への戦争において決定的な同盟国と見なされている。実際には、イ
スラエルはテロへの戦争と、ならず者国家に対処する為の広汎な努
力においては重荷になっている。

「テロリズム」は単独の敵ではなく、広汎な政治的集団の隊列が従
事する戦術である。イスラエルに脅威を与えるテロリスト組織は米
国には脅威を与えない。例外は、米国が彼らに干渉する場合である
(1982年のレバノンの様に)。更に、パレスチナ人のテロリズムは
イスラエルや「西側」に反対する手当たり次第の暴力ではない。
それは、おおむねイスラエルのヨルダン川西岸やガザ地区に入植す
るという長期に渡る運動への反応である。

もっと重要なことは、イスラエルと米国が共通するテロリストの脅
威により結びつけられているという主張は因果関係を逆転させてい
るということだ。米国のテロ問題の多くは米国がイスラエルと非常
に親密な同盟国であることによるのであり、その逆は成り立たない
。イスラエル支持派反米テロの唯一の原因ではないが重要な原因で
あり、それによってテロに対する戦争に勝利することはより困難に
なっている。オサマ=ビン=ラーディンを含む多くのアル=カイー
ダの指導者達がエルサレムでのイスラエルの存在やパレスチナ人の
窮状に動機付けられていることには疑問の余地はない。米国のイス
ラエルへの無条件の支持は過激派に大衆の支持を集め人材を募集す
るのをより容易にしている。

中東のいわゆるならず者国家について言えば、彼らはイスラエルに
とっての脅威であるという点を除いては米国の重要な利益にとって
差し迫った脅威ではない。もし仮にこれらの国々が核兵器を保有し
たら-それは明らかに望ましくはないが-米国もイスラエルも脅迫さ
れることはない。それは、脅迫者は圧倒的な報復を受けることなし
には脅威を実行することができないからだ。核兵器がテロリストの
手に渡る危険も同様に起こりそうにない。ならず者国家は核兵器譲
渡を察知されない、あるいは後で非難され罰を受けることがないと
いう確信が持てないからだ。イスラエルとの関係は米国がこれらの
国々に対処するのをより困難にしている。イスラエルの核兵器はそ
の近隣国の一部が核兵器を欲する理由の一つであり、彼らを体制転
換で脅すことは単にその欲望を増大させているだけである。

イスラエルの戦略的価値を疑う最後の理由は、イスラエルが忠実な
同盟国としては行動していないことにある。イスラエルの当局者は
米国の要求を頻繁に無視し約束を破る(住宅建設を止めるとかパレ
スチナ人の指導者の暗殺を差し控えるという約束を含む)。イスラ
エルは細心の注意を払うべき軍事技術を中国のような米国の潜在的
な対抗者に供与してきた。国務省の査察官はそれを「体系的で増大
傾向にある、公的に承認されない供与」と呼ぶ。また、会計検査院
によれば、イスラエルは「米国の全ての同盟国の中で米国に対し最
も活発なスパイ活動を行って」いる。1980年代初めに多量の機密物
質をイスラエルに与えたジョナサン=ポラードの例(それは伝えられ
る所ではソ連のユダヤ人の出国ビザの増加の引き替えにソ連に譲渡
された)に加え、2004年には米国国防省の重要な担当者であるラリ
ー=フランクリンが機密情報をイスラエルの外交官に渡したことが明
らかになって新たな物議をかもした。イスラエルは米国に対して諜
報活動を行う唯一の国であり、自国の重要な後援者に対し諜報活動
を行う意欲はその戦略的価値により深い疑いを投げかける。

 3.縮小する倫理的な主張
問題はイスラエルの戦略的価値だけではない。イスラエルの支援者
は、イスラエルは弱体で敵に囲まれているために無条件の保護に値
すると主張する。これは民主主義だ。ユダヤ人は過去の犯罪行為に
より苦しんだ、それ故、特別な取り扱いを受けるに値する。そして
、イスラエルの振る舞いはその敵対者の振る舞いに比べて倫理的に
優位にある。周到に観察すれば、これらの主張はどれ一つとして説
得力がない。イスラエルの存在を支持する強い倫理的主張は存在す
るが、それは危機的状態にあるわけではない。客観的に見て、イス
ラエルの過去及び現在の行動からはパレスチナ人よりも優遇される
べき道徳的根拠は何ら認められない。

      @)負け犬への支援?
イスラエルはゴリアテに直面したダビデとして描かれることが多い
。しかし、その逆がより真相に近い。一般に信じられているのとは
逆に、シオニストは1947-1949の独立戦争でも規模・装備・指揮の点
でより優れた軍隊を保有していた。そして、イスラエル防衛軍が1956
年にはエジプトに対し、1967年にはヨルダンとシリアに対し素早く
容易に勝利した。これらは全て米国の大規模な援助が始まる前のこ
とだ。現在、イスラエルは中東で最強の軍事力をもつ。その常備軍
は近隣国のそれを遙かに上回り、この地域で唯一の核兵器保有国で
もある。エジプトとヨルダンはイスラエルとの平和条約に調印し、
サウジアラビアも平和条約調印を申し出た。シリアはソ連という後
援者を失い、イラクは三回の悲惨な戦争によって荒廃し、イランは
数百マイル遠くにある。パレスチナ人はイスラエルに脅威を与える
軍事力はおろか、有効な警察力をかろうじて保有するのみである。
テルアビブ大学のジャッフェ戦略研究センターの2005年の調査によ
れば、戦略的な均衡は決定的にイスラエルに有利であり、その軍事
能力と抑止力における近隣諸国との量的格差は拡大し続けている。
負け犬を支援することが已むを得ない動機であるのなら、米国はイ
スラエルの敵を支援しているだろう。

      A)民主主義の仲間への支援?
イスラエルが民主主義国の仲間であり敵対的な独裁国家に囲まれて
いることも現在の援助水準を説明できない。世界には多数の民主主
義国家があるが、イスラエルと同等の惜しみない援助を受ける国は
存在しない。米国は自国の国益を向上させると考えたときは過去に
あった民主的政府を転覆させて独裁者を支持してきた。それは現在
存在する専制国家の数とよく相関する。
イスラエルの民主主義は幾つかの点で米国の中核的な価値観に対立
する。人種・民族・宗教に関わらず人々が平等の権利を教授すると
される米国とは異なり、イスラエルは明らかにユダヤ人の国家とし
て設立され、その市民権は血統的親族関係の原則に基づいている。
このことを考えれば、130万人のアラブ人が二流市民と扱われている
ことや、最近のイスラエルの委員会が「彼らに対しイスラエルが無
視と差別をもって取り扱っている」ことを発見したのは驚きではな
い。イスラエルの民主主義的な地位はパレスチナ人に生存可能な彼
ら自身の国家又は完全な政治的権利を与えることを拒否しているこ
とによっても弱体化させられている。

      B)過去の犯罪行為への償い
三つ目の正当化は、キリスト教を信仰する西洋におけるユダヤ人の
苦難の歴史、特にホロコーストの期間のそれである。ユダヤ人は何
世紀にも渡って迫害され、ユダヤ人の祖国でしか安心することがで
きないために、イスラエルは米国から特別な扱いを受けるのが相応
しいと多くの人々は今信じている。イスラエルの建国がユダヤ人に
対する長期間に渡る犯罪行為に対する妥当な反応であったことは疑
いの余地はない。しかし、それはおおむね罪のない第三者であるパ
レスチナ人に対する生々しい犯罪行為もまたもたらした。

このことはイスラエルの初期の指導者にはよく理解されていた。デ
ービッド=ベングリオンは世界ユダヤ会議の議長であったナハム=ゴ
ールドマンにこう語った。
「もし自分がアラブ人の指導者ならば、自分は決してイスラエルと
仲直りしないだろう。それは自然なことだ。我々は彼らの国を奪っ
た・・・我々はイスラエル出身だが、それは2000年前のことだ。そ
して、それは彼らにとって何か意味があるのだろうか? 反セム主義
、ナチス、ヒトラー、アウシュビッツもあった。しかし、それは彼
らの誤りなのか? 彼らはただ一つのことだけを見ている。我々が
ここにやってきて彼らの国を盗んだ。何故彼らがそれを受け入れね
ばならないのか?」

それ以後、イスラエルの指導者達は繰り返し、パレスチナ人の国家
という野心を拒否する事を追求してきた。ゴルダ=メイアが、彼女
が首相であった時に「パレスチナ人などと言うものは存在しない」
と語ったのは有名である。過激派の暴力行為とパレスチナ人の人口
増加からの圧力により、その後のイスラエルの指導者達はガザ地区
を解放しその他の領土的譲歩を考慮することを強いられた。しかし
、イツハク=ラビンですら、パレスチナ人に自立可能な国家を与える
ことには乗り気ではなかった。エフド=バラクがキャンプ=デービッ
ドで行ったと噂される寛大な申し出は彼らに事実上イスラエルに支
配された非武装の「バンツースタン(かつての南アフリカ内の黒人
国家)」の集まりを与えただけであった。ユダヤ人の悲劇的な歴史
があるからといってイスラエルを無条件に支援することを米国が強
制されることはないのだ。

      C)高潔なイスラエルと邪悪なアラブ
イスラエルの支持者はイスラエルをあらゆる機会に平和を追求する
、たとえ挑発されても偉大な自制心を示す国としても描く。対照的
にアラブ諸国は大いなる悪意を持って行動してきたと言われる。し
かし、地上においてイスラエルの足取りは敵対者のそれと区別でき
ない。ベングリオンは、初期のシオニストは彼らの侵略に抵抗した
パレスチナのアラブ人に対して慈悲深さからはかけ離れた態度であ
ったことを知っていた-それは、シオニストがアラブの土地に彼ら自
身の国を建設しようと試みていた事を考えれば全く驚くべき事では
ない。同様にして、1947-48年のイスラエル建国はユダヤ人による死
刑執行・虐殺・強姦を含む民族浄化活動を伴っていた。それに引き
続くイスラエルの行動は残忍であることが多く、高い道徳性へのあ
らゆる要求を裏切るものであった。例えば1949年と1956年の間、イ
スラエル軍は2700人から5000人の間の人数のアラブ人の侵入者を殺
した。イスラエルは10万人と26万人の間の数のパレスチナ人を新た
に勝ち取ったヨルダン川西岸から追放した。そして、ゴラン高原か
ら8万人のシリア人を追いやった。

初回のインティファーダの間、イスラエル軍部隊に杖を支給し、パ
レスチナ人の抵抗者の骨を砕くことを奨励した。「セーブ・ザ・チ
ルドレン」の組織のスウェーデン支部の推計によれば、23600人から
29900人の子供がインティファーダの最初の2年間に打撲傷に対する
医療を必要とした。彼らの三分の一近くは10歳以下であった。二回
目のインティファーダへの反応はもっと暴力的であり、主要紙であ
るハレーツが「イスラエル軍は殺人を行う機械に変身しつつあり、
その効率性は畏怖を抱かせ、衝撃的である」と宣言したほどである。
イスラエル軍は蜂起の最初の日に百万発の銃弾を発射した。それ以
後、一人の殺されたイスラエル人のために、イスラエルは3.4人のパ
レスチナ人を殺した。死者の多くは罪のない傍観者であった。パレ
スチナ人の子供の死者のイスラエル人のそれに対する比率は更に高
いもの(5.7対1)であった。シオニストが英国人をパレスチナから追
い出すためにテロリストの爆弾に頼ったこともまた記憶に留めてお
く価値がある。そしてかつてはテロリストであり後日首相となった
イツハク=シャミルは「ユダヤ人の倫理もユダヤ人の伝統も戦闘の
手段としてのテロリズムを不適当と見なすものではない」と宣言し
た。

パレスチナ人がテロリズムの手段を執ったことは誤りであるが驚く
べき事ではない。パレスチナ人は、自分達はイスラエルに譲歩させ
るテロリズム以外の方法はないと信じているからだ。エフド=バラ
クが「もし自分がパレスチナ人に生まれていたならば、テロリスト
組織に参加していただろう」とかつて認めた様に。

そして、もし戦略論も道徳論も米国のイスラエルに対する支援を説
明できないとすれば、我々はどうやってそれを説明するのか?


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